018 愛のない夫婦ですが
部屋まで送ると言ったが、ルカは頑なにそれを拒否した。
もしかしなくても、やはり乳母のせいよね。
ルカのためを思ったら、やっぱり突撃しよう。
立場が弱くても、別にここで失うものはないし。
初めから嫌われているんだもの。
これ以上どうしようもないでしょう。
そんな風に考えているところに、侍女が軽いノックのあと、入室してくる。
前にいた三人とは違う、見たことのない侍女だった。
彼女は夕食を私にどこで取るか確認しに来たらしい。
「今日からは全てダイニングでとるわ。ここまで一人分運んでもらうのも気が引けるから」
「では、すぐに用意させますので、どうぞ」
どうぞと言われたからには、一人で~という意味かと思ったのだが、どうやらそうではなかったらしい。
侍女は案内するかのように、静かに私の前を歩き、ダイニングに着くとその扉を開けてくれた。
中には、今朝の食事風景の再来かと思うほどに、また公爵が座っている。
ただ違う点は、今日はまだ食事をしていなかったということだけ。
私は公爵の真正面の席に案内され座ると、順番に食事が運ばれてきた。
えっと?
これは私待ちだったみたいな感じかしら。
安定に公爵は機嫌が悪そうだし、待っててお腹空きすぎたのかしらね。
たまにいるのよね。
空腹で機嫌が悪くなる人って。
ああ、それとも社交辞令で私をここへ呼んだけど、それに応えちゃったのが厚かましいとか思ったのかしら。
貴族のそういうのって、ある意味はんなりしたあの場所に似てるのかもね。
やだ、普通に受け取っちゃったし。
それなら、そうって注意書きちょうだいよ。
「わざわざお待ちいただけたのですか? 申し訳ありません」
「いや。そうではないが」
「?」
そうではないのなら、何なのだろう。
安定にその表情からは感情は読み取れない。
しかも、がって言葉で終わったくせに、彼はそれ以上何も話そうとはせず、運ばれてきた食事に手をつけた。
そして息苦しい食事が始まる。
向こうがだんまりを決め込む以上、こちらから話すのもなんだかなぁと思い、黙々と食べ続ける。
美味しいはずの料理も、この沈黙のせいでどこか美味しくなく感じてしまう。
これなら部屋で食べた方がマシだったかも。
嫌いな人間との食事なんて、公爵だって嫌でしょうに。
ああ。でも、言うことあったんだった……。
「お部屋、ありがとうございます」
私の言葉に公爵は手を止め、こちらを見た。
「……」
なんでお礼を言ったのに、沈黙なの。
しかも心なしか、その瞳は大きくなっている気もするし。
驚いているの? 私がというか、ビオラがお礼を言ったことに?
でも確か、ビオラってキツイ性格でもなかったし。
むしろ公爵のことは大好きで慕っていたから、これくらい普通じゃないのかな。
「何かありましたか?」
「ああ、いや。こちらの手違いで、すまない」
手違いって。
あの部屋の惨状は手違いだったって言ってるのかしら。
それにしては散々だったけど。
でも、結果としてすごくまともになっていたから、いいかな。
「いえ。先ほど見たら、とても綺麗でしたので、何の問題もありませんわ。手配して下さり、感謝しています」
「……」
お礼を言えば言うほど、なんだか思っていた反応とは違い、公爵はただ私を見ていた。
彼がどんな思いでそんな風に見ているか最後まで分からなかったが、食事を終えて出て行く際に、しばらく城の用事で屋敷を空けてしまうが、何かあったら侍女頭のアーユか執事長に相談するように言われた。
今までなかった展開な気がする。
この結婚に愛がないのは知っているし、公爵に期待もしてはいないけど、ルカのことを考えたらいつかは仲良くならないといけない存在だ。
だからきっとこれは、いいことなんだと思う。




