017 見て見ぬフリ
そんなには汚くないハズと言った自分の部屋は、開けたその瞬間からおかしなことになっていた。
「ビオラのお部屋、きれー」
「え、あ、うん」
部屋に入った途端、目を輝かせるルカ。
可愛いからそれはそれでよかったんだけど。
アーユが持ってきた、あの日傘と帽子の時から違和感は感じていた。
だってどちらもあれは、新品だったから。
この屋敷であんなものを使うのは、私くらいしかいない。
なのに新品ってことは、わざわざ買いに行ってくれたのかなって思ったのよね。
だけど部屋になかったという言葉だけで、すんなり物を買ってくれるのだろうかって疑問には思った。
確かに公爵家はこの国一のお金持ちみたいだけど、元の部屋というか扱いがあれだったのだもの。
私にかける金なんてないんだー、くらいに思っているのかと……さっきまでは思っていたんだけどなぁ。
「クッションとか、ビオラの髪の色と同じ。好きな色でしゅか?」
「え、ええ。そうなの」
「ソファもフリフリ可愛いでしゅ」
部屋の違和感。
あれだけ簡素で何もなかった部屋が、ほんの数時間ルカと外にいただけで生まれ変わったと思えるほど変貌していた。
煎餅布団かと思うほど薄かったベッドの上の布団たちも全部変わっているし、ただの布かなと思えるほどのカーテンは重厚なものに。
しかも部屋の色はすべてビオラの髪の色で統一されている。
また部屋になかったソファーやクッション、それに装飾品も一気に増えていた。
いや、本当に何が起きたのレベルよ。
「ソファ座っていいでしゅか?」
「ソファーだけじゃなくて、ベッドで飛び跳ねても大丈夫よ。落ちそうになったらキャッチしてあげるから」
「えええ」
ルカはやや控えめに、ベッドに近づくと座ったまま体を揺らしていた。
男の子なんだからもっとダイナミックでもいいのになぁ。
って、今はそこじゃなかった。
私はベッドを満喫するルカを横目で見つつ、クローゼットを開けた。
そして間髪入れずに、即座に閉める。
予想はしていたけど……。
この状況は誰に聞けばいいのかしら。
中には元あった古びたワンピースは一枚もなくなっていた。
代わりに、端から端までドレスと数枚の真新しいワンピース、それに合わせたような靴やバッグがさも普通ですという顔で置かれていた。
いや、きっとこれが普通なのだということは分かる。
今まで見てきた本の中の貴族令嬢のお部屋もクローゼットの中も、なんかすごかったし。
だけどいざそれが自分の目の前にあると、また違うというか何というか。
数時間前と変わりすぎなのよ。
何をどうしたらこうなってるの……。
頭痛くなるからやめてよね。
「ビオラ、あの、そのさっきの絵に……」
「そうだった。字を書きましょう。まずは日付を書いてみましょうね」
「ハイ」
面倒くさいことは全部後回しにして、私はルカとの楽しい時間に集中することにした。




