016 お誕生日
「ビオラは、ボクが何しゃいか知ってたでしゅか」
なぜかルカはそう言いながら、もじもじとし始める。
自分のことを私が知っていたってことがうれしかったのかしら。
お話の設定として知ってはいたけど、本人のそのものを見れるとまた全然ちがうわね。
四歳って、こんなにかわいいの?
いや、きっとルカだからかわいいのよね。
ぱっちりお目目はキラキラだし。
小さくて動き回る姿は天使のようだし。
ルカの母親は、なんでこんなに可愛い天使を捨てたのかしら。
意味が分からなさすぎるわ。
だいたい公爵になんて、ほぼ似てないじゃない。
自分そっくりな子だなんて、母親としてはうれしいもんじゃないのかな。
私は一度だって子どもを生んだことはないけど、少なくとも目の前のルカは可愛くて仕方がないのに。
「ええ、もちろん。そうだ! 次のルカのお誕生日はたくさんお祝いしましょうね」
「え、でも」
「私が勝手に祝うのだから大丈夫よ」
何かをするというと、すぐルカの顔が陰るのよね。
どうしてこうなってしまうのか。って、やっぱり原因は乳母よね。
乳母の元に乗り込んだら、私勝てるかしら。
継母と乳母の立ち位置って、どっちが強いのだろう。
身分としては私のが上だろうけど。
あっちは専任されてるからなぁ。
公爵を味方に付けれれば一番なんだけど……。それも今のとこは難しそうだし。
んー。何かいい案はないかしら。
「贅沢が~というのなら、二人でケーキを焼いてお庭で食べるのはどうかな」
「二人で? ビオラはケーキ焼けるでしゅ?」
「た、たぶん? 大丈夫だと思うわ」
「楽ししょうでしゅ」
言ったはいいけど、私ケーキ焼けるかな。
子どもの頃、一度だけやったことはあるけど。
考えたらこっちと向こうでは、使う素材も機材も違うのよね。
しかもスマホでレシピも見れないし。
料理長ともっと仲良くならなきゃ。
確かルカの誕生日は秋だったものね。
たぶんあと三か月くらいはあるはずだし。
「ビオラのお誕生日もいっしょしたいでしゅ。いつでしゅか?」
「へ。私?」
いつなんだろう。
考えたら、ビオラって途中退場のモブでしかないから、細かな設定って書いてなかった気がするのよね。
そして私はビオラ本人でもないから、記憶もないわけでして。
あれ、これってこの先のことを考えたらいろいろまずいんじゃないかな。
自分が自分のことを一番知らないって。
「えっと、もう過ぎてしまったので、次の時はルカがお祝いしてくれる?」
「もちろんでしゅ!」
ふぅ。上手く誤魔化せたけど、とりあえず自分のことも調べなきゃ。
まったくなんでビオラ自身は何にも残さず消えちゃったのかな。
せめて日記とか……。探せばあるかな。
夜にでもそれは探してみないと。
「さぁ、暑いので私の部屋に行きましょう、ルカ」
「いいんでしゅか?」
「もちろん。そんなに汚くないハズ……たぶん」
自信なさげにそういうと、ルカはそれがよほど面白かったのか声を出して笑っていた。




