006 タナビ山へ行こう
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006 タナビ山へ行こう
剣と魔法を使った戦闘訓練、レイシャやマリとの連携の確認、その他冒険に際しての準備などなど……。気づけば一週間なんて時間は簡単に過ぎていた。
「タナビ山の捜査当日になったわけだけども、準備は良いかい?体調が悪いようなら予定見送りもかんがえてるけどさ。」
「体調は良いんだが……馬車とか無いのか?山まで距離あるってこの前聞いたばかりだが、まさか徒歩で行くんじゃないだろうな?」
「足が付くと嫌だからね、勿論徒歩さ!」
言い方に気をつけろよ。それだと今から犯罪を犯すかのように聞こえるからな。
「ところで……こんなに大荷物で行く必要があるのですか?」
「例えばこの閃光弾って対不可視魔法専用の、魔法を打ち消す効果のある物ですよね。あくまで捜査、探索が主目的である以上こういった用途が限定的な物を減らして荷物を軽くした方が良いのでは?」
大荷物についてマリの冷静な指摘が刺さる。と思いきやその質問を待ってましたと言わんばかりにレイシャの目がきらんと光る。
「甘いねえ、実に甘い。確かに殆ど使う予定は無いさ。でも予測していない事態に備えることは必要だろう?こういうのは心配しすぎくらいが丁度良いのさ!」
「でも荷物が多いって話はそうなんだよね。これでもタナビ山で使う可能性は無いと言い切れる物は入れてないんだ、堪忍してくれたまえ。」
レイシャが猫耳を垂れさせながら頭を掻く。少し重そうだがこれ以上軽くする余地はレイシャにとっては無いらしい。堪忍して背負っていくか……。
重い腰を上げて荷物が入ったリュックを背負おうとしたところ、宿屋の女将さんがひょっこりと顔を出す。この人にも随分お世話になったな。出る前にお礼を……。
「あんた達今タナビ山の話していなかったかい?それなら丁度良いんだけどさ。」
「なになに女将さん?」
「あの辺りが山丸ごと消えたって話が商人の間で上がってるのよ。ちょっと見て来てくれないかい?」
「……はい?」
「待って何それ?」
「……山が丸ごと消えた、だと?」
♦︎
「この辺りの冒険者がポロッと話してくれたが、あいつらは今日タナビ山っつー所に向かうらしいぜ。」
リベルテまで来てた私は、共に来てたバイルと情報を集めていた。レイシャを中心とした一団の動向について、まさかこんなに時間がかかるとは思ってもみなかったな。
「ここまでありがとね。バイル。」
「おいおいどうしたどうした。そういう湿っぽい空気はライヤに取っておけ。どうしても会いたかったんだろ?」
「うん、すっごく。でもそれってバイルがあんな早くに見つけ出してくれたお陰だからさ、お礼くらい言っておこうと思って。」
小っ恥ずかしいこと言っちゃったかなとこっそりバイルを見ると、そんなことかと大笑いされた。
こういう豪快な所は間違いなく彼の美点なんだけど、今この時ばかりはこいつ……という目で睨む材料にしかならないね!
「そうだそうだ、どうやらお前の恋敵っつーか、ライバルが増えてるらしいぜ?小ちゃい銀髪の魔法使いだそうだが、偶にライヤを見てぽっ〜としてるって噂も聞けたよ。」
「そうなんだ、良い人だといいな。」
「良い人って……一人を取り合う相手になるんだぜ?悪辣な方がむしろやり易いだろうに……。」
「だってさ、好きな人が一緒ってさ、仲良くなるきっかけの一つにもなるんじゃない?恋バナしてさ、そこ私も好き〜って言い合いたいじゃん!」
バイルはあっちから聞いておいて何だそりゃとばかりに肩を竦めてる。……正直こういう所は偶にムカついたけど、今日で暫くお別れって思うと寂しさも覚える。
「ま、そうこうしてる間にそいつが距離縮めてるかもしれないんだ。合流は早い方が良いんじゃねえか?」
「あっ!確かにそれもそうだね。じゃ、もう行くよ!」
「また会おう。雲崎佳澄、いやカスミ!お前のことは俺が応援していてやる。思いっきりやってこい!」
「そっちこそ、またいつか会おうね!そしてさ、私のことまた鍛えてよ!」
彼がガッツポーズをしたのを確認しだい、大きく片手を振って走り出す。異世界に来て大分経っちゃったけど、ようやく漸く私の願いが叶うんだと思うと気づかず足早になっていく。
待っててねライヤ、私があなたのことを守るから!
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