040 ふたつの異変
書きました。最後まで読んでくださると幸いです。
目にも止まらぬ速さでメーフィが、ちょうど攻防に転じられる構えを取っていた俺に突っ込んでくる。狙いはマリであるかのように振る舞っていたが、別に彼女一辺倒ってわけでもないみたいだ。
鍔迫り合いの対面から不意の蹴りを打ち込もうとするが……すんでのところで避けられる。
「ライヤ様、お気をつけを。彼女はサーベルこそ取り出しましたが、同時に魔法をいつでも打ち出せるよう、予め詠唱を終えている魔法を保持しているかと思われます。念の為、ご注意を。」
「余計なことをごちゃごちゃと……言っておくけどお前を殺すよりも異世界人を優先すべきだっただけで、お前を狙うつもりはないってわけじゃないの、わかってるんでしょうねぇ。」
メーフィが火炎弾を飛ばしてくるのを魔法弾で打ち消す。上空から落っこちてきたばかりだってのに元気だな。気を配ってはいたが、この様子なら不安も無いだろう。今度はこちらから仕掛けさせてもらおう。
イメージするのは疾風、この前ドラゴンを斬った飛ぶ斬撃を三連発。このくらいの攻撃が通じるはずもなく、三つとも平然と立ち切られる。
が、もとよりそれは本命じゃない。風の魔法を纏わせた斬撃だからか、緑の軌跡を描いて飛んでいる。そこにサーベルを振るってかき消すんだから、俺の姿は見えにくいはず。なら……!
「攻撃が通る、とでも思った?残念、はずれ。」
サーベルを持っていない、ガラ空きだった筈の左手には紅く煌めく魔法陣。この軌道はマズい!すぐにでも水の魔法で相殺を……!
「嫌ってくらい効くでしょ?爆炎。」
守りは間に合わず、顔面に爆炎をモロに浴び、吹き飛び地に転がる。
熱い、痛い。硬式ボールがぶつかってきたかのような痛み、転生前もそんなに味わったことの無いほどだ。
いや待て。何で爆炎をモロに喰らって俺は生きているんだ?普通死ぬだろ、こんなの。
考えられる原因があるとしたら……この世界に肉体の性質が寄っているのか?爆炎をモロに喰らったんだ。本来なら頭ごと吹き飛んでいてもおかしくないはずだ。日常的に魔法を扱う世界ではもうちょっと違うのかもしれないが…………。
「うわマジ?これマトモに喰らって傷一つないとか、お前本当に人間?」
傷一つ無い?言われてみれば地面に転がったというのに擦り傷の一つもない。感じたのは痛みだけ、血が流れた感触もない。どうなってるんだ?俺の体は。
考え込んでいたら背後からガキンッと鈍い音がする。長い剣が俺の視線のすぐ横、斬り下ろしたかったかのように俺の肩に乗っかっている。ちょっと強く肩を叩かれたくらいの印象だが、俺は斬りかかられていたらしい。
メーフィは不気味なものを見るように俺を見つめていた。そんなに気味悪がらないでくれ、俺だって何が何なのかわからないんだ。
……………………メーフィが目の前にいるなら、この剣は誰のだ?未だ姿を見せない、意識を失う瞬間に見た鎌を持った誰かでも無さそうだ。
剣に魔力を充填して振り向く。……立て続けにわけのわからないことが起こりすぎだ。もう少し俺にもゆっくり考える時間が欲しいってのに。
「何であんたがそっちを斬ろうとしてんの?あんた……だって…………。」
「…………騎士団長ガープス、何をやっている?」
常識で理解できない物事が俺に襲いかかる。俺を切り裂くつもりで剣を振り下ろしていたのは騎士団長のガープスだ。そして……。
「魔力充填……狙撃対象、霧坂雷也。致死率…………測定不能。魔力光線……発射。」
…………マリが俺に向かって光線を撃ってくる。当たったところで……何ともないかもしれないが、避けるだけ避けてみる。
「悪趣味なことするじゃねえか、星月夜のメーフィ!」
「違う!私はこんな魔法は使えないし使わない!いくら憎い相手でもこんな真似はしない!私を悪く見ないでくれないかしら!?」
「というか、何が起こってるのよ!?プリズマイトといいガープスといい!こいつらこんなことするやつじゃないじゃない!」
メーフィが操っているのかとばかり思ったが、彼女にとっても未曾有の事態らしい。じゃあ……誰の策略だって話だが……。
「それで、剣を収める話はないみたいってか!」
振り払ったガープスが再び剣を構え、こちらに向かってくる。こうはなってるがガープスは俺たちの味方のはずだ、そいつを斬れって言われたって……一体俺にどうしろっていうんだ!
「ライヤ、伏せな!」
「紅き双龍はお前を砕かん。喰らえ、ツインガーネット!」
遥か後方から赤い龍がそれぞれガープスとマリに襲いかかる。久しぶりに聞いた……この声は!
「久しぶりだねライヤ。本当はもっとゆったりとした再会が良かったんだけどそうも言ってられなくてね。ハーシェル!説明よろしく!」
「おま、俺に投げんなよ!…………ハァ、簡単にだが説明しておく。」
「此度は俺たち人類側とメーフィ率いる魔王側での戦闘の筈だった。だがそこに第三者が割り込んできて敵味方関係なく操って全部めちゃくちゃにしやがった!」
「誰だ!?あとどういうことだ?」
「つまり、今メーフィちゃんと争ってる暇なんて無いってコト!共倒れを狙っていた奴がすぐ近くにいただろうって話さ!」
「とりあえず、眼前の強敵二人から眠らせるよ!油断してるとやられるから、心してかかるよ!」
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