038 恋の証明
書きました。最後まで読んでくださると幸いです。
恋という感情の証拠、恋慕であると断定できるなにか重要な事柄。それが最後のピースになると思って、出会った人に聞いてきた。
「恋という感情の証拠だぁ?ワシが知ってるように見えるかそれ。…………そうだな、そいつの為なら何だってやろうと思うんなら、そいつのことを好きではあるんじゃないか?」
「へぇ!マリちゃん、もうそんな大きくなったのね。少し感慨深いわね。」
「それで、恋の証拠ねえ……そんな深く考える物でもないけど、私がその道の先輩だあることから頼ってくれたのよね。だったら答えの一つくらい出さないと!でも、ええと……………………。」
「へぇ……私のいない間にそんな面白……じゃなくてええと、興味深いことになっていたなんてね。恋の証拠……。ハーシェルはどう思う?」
「何を思って俺に振ったんだてめえ。燃やすぞ。」
「…………えーと、その……なんだ、プリズマイト。俺とお前の関係はとっくに解消されている。俺のことなど考えもせず、今に懸命になれば良い。」
「だとさ!まあ私も似たようなもんさ。一生懸命距離縮めればあいつも靡くだろうさ。恋の証拠?そんなのその質問こそが答えじゃないかい?」
「アドバイスを送るとしたら、そうだね……積極的に動くくらいの方がちょうど良いかもしれないかな。」
回想する、いただいた数々の言葉。
ガープス様、シラフジ様、レイシャ様、そして……ハーシェル。緊急時だというのにこんな曖昧でわかりにくい質問に親切に答えてくれた、優しい方々。こんなによくしてもらえて、私は幸せ者だとつくづく思う。
その上で出てきた結論は、恋をした証拠なんて人によって変わる。なんてわかりきった答えでしかなかった。
ごめんなさい、メフィ。私の感情の正体について、自分で納得できる答えを見つけることはできなかった。あなたの言うとおり、これは恋慕であるのだろうけれど、自分でその事実を噛み締めることはまだできそうにない。
「あんなに助けに行きたがってたカスミが洞窟前で幹部相手に持ち堪えているんだ。さっさとライヤを見つけてきてあげないとね。」
「魔物の数が想定よりもかなり少ない。これくらいなら俺一人でやれそうだ。住民の身柄は俺が探しとくから、レイシャが言うようにお前はライヤを見つけ次第洞窟を出ておくと良い。」
レイシャ様たちに話によると、カスミ様はこの洞窟に入る入り口で魔王軍の幹部……恐らく私たちを眠らせ連れ去った者と対峙している……らしい。
…………カスミ様はなぜ一人で守る選択を?確かに私たちが書置も無く消えたことは異常事態と言ってもよろしいものだとは思う。けれど魔王軍幹部相手にカスミ様が一人で残る選択はあまり妥当とは言いづらい。
昨日は不調なようだったし、早くライヤ様を見つけ出さなければ……。
「…………温度探知に人間、ライヤとやらと思わしき奴が引っかかった。恐らく複数の魔物に襲われている。」
ハーシェルが呟いたのを聞き、魔法を走りながら暗唱する。自分への身体強化の魔法なんてしばらくやってなかったけれど、まだ腕は鈍ってないみたい。
「方向は!?そう、北北西ね。階層は……そう、ここの階なのね。」
「ライヤと決まった訳ではないけど……善は急げって勇者も言ってたし、さっさと向かうとしますか……ってマリ!?何しようと……。」
「すみません、ちょっと連れ出してきます!」
レイシャ様の呼び止めを無視してまで走り出す。魔法で足にかかる力を倍ぐらいにしているから、いつもは出ない速度に驚かされる。
本当はレイシャ様と、ハーシェルと共に向かうべきだって、自分一人で行くべきでないとわかっていたにも関わらず、足が勝手に走り出す。
一人にさせておくのは危険だとか、危機的状況にあったら怖いとか、適切な理由は思いつく。けど、多分それは私の真意では無く、本当は…………。
なんだか、ライヤ様と出会ってから自分の知らない自分がどんどん見えてくる気がする。自分にまだ誰かを好きになる心が残っていたなんて、思いもしなかった。
きっと彼は知らなかったと思う。私があの時何を考え、何をしたがっていたのかを。
ライヤ様、私はあなたに救われていたんです。……なんて言ってもわからないかな。でも、自己満足でも、いつか伝えたい。
遠くにライヤ様が見えてきた…………けど、ゴブリンの軍団と戦っているみたいだ。早く助太刀に…………。
……あの粘液、スライムが上に…………!遠くから声で知らせようとする間もなくライヤ様をブルースライムがプルプルの体に閉じ込める。
ブルースライムの粘液にはわずかな酸と、毒が含まれている。彼を助けようとしたら、私だってダメージは喰らう。それどころかスライムに飲み込まれる可能性もあるだろう。
「風の靴、足は鋭く、速く変わっていく。……我が手は全てを無視し、全てを掴む有り得ざるひら。……我は弾丸、この身を投げ打ち目標へ向かう。」
だけど、それでも。一切の迷い無く手を伸ばす。助けなきゃ……もいうよりも助けたいから手を伸ばす。
「あなた様、あなた様!決して私の手を離さないでくださいね!」
弾のように自分の肉体を吹っ飛ばし、スライムを掻き分けてライヤ様の手首をがっしりと掴む。その勢いのまま埋もれていたライヤ様を引っ張り出す。
「……何なの…………何なのよ!折角冒険者を閉じ込めたってのに、プリズマイトの一人娘が今来る!?」
「しかもあんなに誰にも興味を持ってなかったアレが、よりにもよって異世界人を助けるとか!スライムの毒、触れる危険性すら知ってるはずなのに!」
……私もそうだ。意外と言うか、きっとこんなことできなかっただろう。
…………うん、私はライヤ様のことを好いている。それで間違いない。
じゃないときっと、こんなことはしなかった。
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