032 咽帰るような夏の暑さ
書きました。最後まで読んでくださると幸いです。
それは高校三年の夏、蝉の声が絶える事なく鳴り響き、じっとりと張り付いた服の感触が不愉快だったあの日を、今でも鮮明に覚えている。
「暑ーい!アイス食べたいしさあ、帰りコンビニ寄ってかない?」
暑さで項垂れていた雷也はぐっと親指を立てる。元気なかったんなら断ってくれても良かったのに。なんてその時は思っていた。
私は、この夢を知っている。転生する前からずっと、この悪夢を見せられている。
仲睦まじく、真っ昼間のアスファルト道を歩く二人。笑い合ってふざけ合った帰り道を、コンビニに入ってアイスを眺めるごく一般的な高校生二人を、第三者の視点から眺めさせられる。
アイスを選んで手に取った次は制汗剤を見にいく。近くのコンビニはこういう日用品も売っていて助かっていたんだけど、店の一番外側だったのもあって凄く暑かった。
「うーん、ちょっとお金あるか微妙かな。財布財布っと。」
しゃがみ込んで鞄を漁る私、ちょうどガラス壁に背を向ける形になる。
…………今この第三者の目線から見ると、迫る危険に気づかない私の愚かさに苛立ちを覚えもする。暴走した軽トラが駐車場に乗り出す。運転手は突っ伏したままアクセルをベタ踏み、居眠りか息絶えているのかは判断がつかないけど、私からしたら死ぬ直前に道連れを作った極悪人でしかない。
怪しい物音に気づいたのか、外を見た雷也は直ぐに異変に気づいてしまう。
「よし、お金足りてるぅ!私これ買って……痛!」
思いっきり体当たりを受けて床に転がる、雷也がやったんだ。私が轢かれる死の運命を捻じ曲げたんだ。
起き上がろうとして、ガラスの壁がぶち壊される不愉快な音。青い空、蝉鳴り響く炎天下に誰かの悲鳴がこだまする。
目の前にいた幼馴染が、次の瞬間高速の物体に引きちぎられる。トラックに吹き飛ばされ、棚に押しつぶされ、タイヤが体を引きずって行く。
「……え………………ら、らいや?」
呼びかけたところで声は聞こえない。
代わりに彼が履いていたスニーカーと、日光に明るく照らされた一面の血。それらが証として酷い程目に焼きつく。
「え…………?これ、だって、ねえ、だれか。」
頭が事態に追いつき始める。何故彼は突然体当たりなんてかましたのか、ここにある人の跡は誰だったのか。
気は動転し、訳もわからずポロポロと涙をこぼす。もはやこれを言い表す語彙は失われ、そこにいたのは何もできない少女。
……もういいでしょ!?いつもならトラックがぶち破った瞬間に覚まさせてくれるじゃん。黙ってここまで見たんだから、さっさと目覚めさせてよ!
「あ…………らい、や………………どこ…………?」
「大丈夫か嬢ちゃん!怪我はしてねえか?」
「警察に連絡はした、救急車もすぐ来るだろ!ライヤって奴もきっと無事だ!だから落ち着け!」
店員さんに励まされども、涙は止まらず。ただ嗚咽するのみ。
やめて。もう、止めて。もうこれ以上見たくない。
夢なんだから覚めてよ。だって、現実に雷也は生きていて、一緒に旅をしてるんだから。今の彼は生きているんだから、もう……!
「らい、やが…………。」
やめて、やめて、…………やめて!
「死ん…………だ…………?」
「やめてぇ!」
「わっびっくりした!……ってカスミ!起きたんだね?早速だけど…………少し休んでから話すね。」
「どう、元気はある?」
……夢が覚めたのかな。枕元からレイシャさんが心配そうにこっちを覗き込んでいる。
「元気……むしろ健康そのものなくら……い…………。」
言っている途中で頬を流れる水滴に気づく。そっか、私、泣いて…………。
「詳しいことは後で話す。元気が出たらフロントまで来てくれると嬉しいね。」
レイシャさんが静かに出て、部屋に一人になる。
「雷也、ごめん……ごめんっ……!私がもっとしっかりしてれば、君は……君は。」
ごめん、私はまだ乗り越えられなかったの。無理やり起こしてごめん。ごめん……。
誰にも聞かれることのない懺悔を繰り返す。それで何か変わることはないし、自己満足ですらない。ただ、言葉にならなかった言葉がポロポロと剥がれ落ちていた。
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