030 森を抜けて
書きました。最後まで読んでくださると幸いです。
「みんな!狼何匹かとでかい蜂一匹、もうじき接敵するよ!」
佳澄の掛け声に合わせて戦闘態勢を取る。マリは魔法の詠唱を始め、俺は剣に風を纏わせつつ前に出て接近戦を仕掛ける。
狼……ここではウルフって言うんだったか。見たところ五匹くらいの群れでの襲撃に蜂……ここでいうビーが便乗した形か。
ウルフの内の一匹が先制攻撃を仕掛けるが、マリの盾の前に歯は通らず、振り払われて勢いを失う。
そこにマリの放つ魔法の光線が刺さる。ウルフは惑い、恐れ、多少戦意が削がれたみたいだ。その隙を狙って一番近いやつ、その次にすぐ後ろにいたやつ。それらを切り裂いていく。風を纏わせたんだ、切れ味は抜群だろう。
マリの光線がもう一度ウルフを撃ち抜き、それはぐったりと倒れて、動かなくなる。後方で様子を見ていたビーも立ち去っていく様子が見えた。これで残すは一匹……何処に行った?
「よし、これで全滅かな?お疲れ、何か連携も取れてるし、私たち良い感じなんじゃない?」
もう一仕事終わったとばかりに佳澄が気を抜き、構えていた盾を降ろす。こういう時こそ危険だ。…………まさか一匹いなかったウルフの狙いは……!
「佳澄、伏せろ!」
頭上にある木からウルフが飛びかかり大きく牙を開く。狙いは佳澄の首だったみたいだが、剣で歯の向かう先を遮る。側面に回り込んだマリが光弾を撃ち、最後のウルフも吹っ飛ばされ、木にぶつかって力尽き倒れる。
「雷也、マリ。ありがと……。」
腰が抜けたのか佳澄はその場にへたり込み、しばらく動かなかった。
……今朝起きてからというもの、佳澄の様子がどこかおかしい気がする。
変な夢でも見たのか知らないが、どこか意識ここに在らずというか、考え事をしてる面をよく見る。こっちに転生する前、高校に入って以降は悩んだら俺にすぐ相談するようになっていた気がするが……この世界に来てからはまだ一回も無い。それに思いの外マリと打ち解けていない……気がする。
…………少し気掛かりだな。
「ごめん……二人が安心して戦えるよう、私がちゃんと守らなきゃいけないのに…………。」
「気にするな。仲間ってのは持ちつ持たれつなんだろ?こんくらい嫌とも思わないさ。」
「はい。それに、カスミ様は私たちをドラゴンの炎から二度も守ってくれたじゃありませんか。私たちも守られたぶん守りたかったくらいですから、気にしないでください。」
なってるかわからないフォローをかけたところマリもそれに乗ってくれたが、依然として佳澄は落ち込んでしまっている。こういうのは心の持ち方というか、考え方そのものが悪い方に行っている時のやつだな。
「そろそろ歩けるか?もう街も近いみたいだし、一旦宿屋まで行こうぜ。反省ならそこでだってできるだろ?ここにいつまでもいちゃ寄ってきた魔物に襲われる。早いとここんな見晴らしの悪い森抜けちまおう。」
少し間を置いてから、佳澄はぺちんと頬を叩き立ち上がり、少し土を払ってからエルファスのある方向へ歩く。誰にも話さないで抱え込んだりしなかったら良いんだが、今のままだと心配だな。
♦︎
「もうすぐ……この木のトンネルを潜った先に…………ありました。」
マリに案内された先にあったのは優しく木漏れ日が差し込む、大樹に覆われた村。所々に何か古い、遺跡っぽいものの欠片が地中から顔を出す。
「宿屋はあちらにありますね。一旦荷物を置いてきましょうか。」
マリの指差した方にある宿屋へ佳澄は歩いていく。それにしても落ち着いた雰囲気だな。空気も綺麗だし良い雰囲気だな。強いて言えば外歩いてる人がいないのが寂しいな。
呑気にこの村を思っていたら、後ろから袖を引っ張られる。
「あなた様、少々よろしいですか?後で二人きりで話を聞いてもらいたいのです。」
「カスミ様のことで、相談がしたいんです。」
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