002 酒場は大盛況
書きました。最後まで読んで、感想や評価などくださると幸いです。
前回のキリが悪かったため前回後半部分を今回の前半に持ってきています
「さて、ここは冒険者が集う王都。その名をリベルテ!結構賑わってるでしょ?」
往来の前で両手をいっぱいに広げて見せるそこは彼女の言う通り活気に溢れていた。それに右も左もファンタジーみたいな服や鎧を着てる人が行き交う、見たことのない空間が広がっていた。
「あ!そうそう一つ言い忘れてたんだけどさ。」
「どうした?なんかやっちゃいけないことでもあるのか?」
「いやー、やっちゃいけない訳じゃないんだけどねぇ、ちょっとあらぬ期待を寄せられることになるというか、色々やり辛くなるというか……。」
「自分の名前あるじゃん?それ名字を言わずに名前だけ名乗る感じにした方が良いかなって。ライヤって感じでさ、自然な感じになるし丁度良いからさ。」
……つまり元からここに居たかのように振る舞えってことか?中々難しいし意図がわかりにくいな。
「いやね、10年前に異世界からやってきたって名乗る人……今は勇者って呼ばれてるんだけど、そいつが魔王の軍勢を追い返す大活躍をしてね、それ以来皆異世界人に期待しちゃってるのさ。」
勇者に魔王……まるで王道RPGだな。よく分からないが確かにそう言う話なら名字を名乗るなという話も納得がいく。
「つい最近も異世界人らしい女の子がいるって噂になってたね。貴族の権威争いに巻き込まれてないと良いけど。」
「ところで今は何処に向かってるんだ?」
「ちょっと酒場に用があってね。君の武器のアテもあるし、何よりなんか腹に入れたいからね。」
昼間から酒場に行く忌避感はあるが……起きてから何も食べてないのも確かだ。いい加減自分も何か食べたい気持ちはあるし、大人しく着いていくか。
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「おやっさん!こっちにビール一つとステーキ二つ!」
「あいよ!ちょっと待ってな。」
酒場は昼間だというのに類稀な程の盛り上がりを見せていた。肩を組んで騒いでいる者や好き放題に食いまくる者、中にはナンパするような輩まで、様々な人で賑わっていた。昼でこれなら夜は一体どれ程賑わうのだろうか。
「ここのステーキはこの辺で一番肉厚でジューシーなんだよね。ステーキソースなんかも一級品、酒場の一メニューに留めておくには惜しいくらいだよー。」
「奢ってもらって良かったのか?結構値段張りそうだったぞ。」
「悪いと思うならその分働いて返せば良いさ。それに武器屋にいって色々見るよりは安上がりになるだろうさ。」
そう言ってレイシャは上機嫌に運ばれてきた酒をグイッと飲んだ。どうやら今日はこの酒場以外では用事は無いみたいだが、介抱したくないし酔い潰れないでほしいものだな。
「それで、武器のアテってのは何のことなんだ?」
「おっと、早速本題かい?せっかちだねえ。ま、一旦は絶品ランチを堪能しようじゃないか。」
そうこう話をしてる間にこんがりと焼けたステーキが運ばれてきた。さっき聞いた通りかなりのボリュームがあり、とてもランチに軽く食べるなんて量じゃなかった。食べきれないわけじゃないが、せめてディナーだろこれ。それともここではこれが普通の量なのか?
「あ、取り敢えず一番多いやつ頼んだけど足りなかったらまだ頼んで良いからね。」
一番多いやつかよこれ。一先ずステーキを切り分けて一口サイズにして食べる。おお、確かに美味いなこれ。何の肉かは分からないが噛めば噛むほど旨味が溢れてくる。ちょっと味は濃いが、確かにこれなら絶品と呼ぶのに相応しいな。
さて……一口サイズの塊と残りの塊のサイズを見比べる。……やっぱり量多いなこれ。反対側でガツガツとステーキを食べるレイシャを見ながら、食い過ぎで腹痛になる覚悟をして、もう一口食べ始めた。
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「いやー、食った食った!やっぱ一仕事終えた後の肉は最高だねえ。」
……結局自分が食べてる間に食べては頼んで食べては頼んで、気づけば自分の五倍程の量は食べていた。何なら自分が食べ終わってからも追加で頼んで、漸く食べ終わったところだ。テーブル脇には乱雑に皿が積まれている。レイシャ、結構食べるんだな……。
「さてさて、腹も膨れたことだしそろそろ本題に移りたいんだけど、まだあいつは来てないかな……?」
「馬鹿言え、お前らが食い終わるの待ってたんだわ。隣の新米は兎も角てめえ好き勝手食いやがって。」
「おお既に来ていたのかい!久しぶりの再会を祝して乾杯って痛ぁ!」
そう言って後ろから灰色の髪の男が、レイシャを小突いて出てきた。筋肉質で長身、脇に抱えた長槍と腰につけた剣が印象的だ。
「よっ、新米冒険者さん。俺はバイルっつー冒険者だ。お前のことはレイシャから知らせが来てて多少は知ってるぜ。」
新米冒険者……そうか異世界人だとバレたら良くないという話だったし、そういうことで通しているのか。
「親切にありがとう。俺のことはライヤって呼んでくれると助かる。」
「それで、俺はこいつに武器を譲れって話だったか?槍なら余ってねえが。確かに槍なら初心者用かもしれねえがな。」
槍か……。確かに対象となる相手とある程度距離を離す必要があり、戦い方を学ぶには丁度良いのか?
「違う違う、この前話してたあれだよ。拾ったっていう剣のこと、あれまだ誰かにあげたりとかしてないでしょ?」
「ああこれのことか。別にこれならあげてやっても良いぜ。」
そういって腰のホルダーから外され出てきたのは、宝石の装飾が為された銀色の片手剣。この酒場には不釣り合いな程神聖な雰囲気を纏ったているが。これを俺に?
「ついこの間デザルマーバの方で見つけたやつだ。魔力伝導率が異常なまでに高いから上手い使い道があるだろうと思って模索してたが、生憎俺には魔法の才能が無くてな。」
「デザルマーバはオアシスを中心とした砂漠の街だね。果物が美味しいんだよねー。」
魔力伝導率が高い……魔力が伝わる確率って言い換えられるか?それならあくまで推測の域を出ないが、火とか水とか、そういう魔法を込めることができるんだろうな。魔法さえ使えるのならかなり便利そうだな。
「お前さんに魔法の才があれば至る所で器用に活躍できるだろうし、才が無くても普段使いには困らんくらいの出来だろうさ。ほら、持ってみろ。」
バイルに促されたまま片手で持ってみる。感覚が研ぎ澄まされていくというか、まるで剣の切先までもが自分の体の一部になったかのように錯覚させられた。十中八九普通の代物ではないだろうけど、不思議と悪い心地はしないな。
「ありがとう、気に入ったよ。お礼に何か困り事があれば言ってくれ、なんでも引き受けるさ。」
「へえ、お前新米って話だけど冒険者の心構えだけなら一人前じゃねえか。そう、重要なのは誰しも助け助けられということだ。何かしてもらったら礼を返す。それがわかってる辺りお前は良い、気に入った。」
「ま、礼の話は良いさ。あげるつもりで渡したんだ。これで礼なんて貰ってちゃ格好がつかないからな。」
バイルはそう言ってケラケラと笑っていた。随分と思い切りの良い人だ。
「それにしてもさ、デザルマーバとは随分遠出してたじゃないか。なんだってそんな所まで行ってたんだい?」
「あの辺に異世界人が現れたってんで見物……じゃなくて手助けに行ってたんだよ。そいつから色々と頼まれててな、用事も終わったしすぐに戻るつもりだ。」
「えっデザルマーバまでぇ?あそこ片道二日だろうに、むしろ世間話に付き合わせて悪かったねえ。」
「気にするな。むしろ将来有望なひよっこを見られただけ良かった。」
話し終えたバイルが肩を回し、じゃあなと一言だけ言って去っていった。気さくで話しやすい人だったな。デザルマーバ、どんな所かは想像できないが、彼が関わってる異世界人にも興味があるし、近いうちにまた会いたいものだな。
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「霧坂雷也……ライヤっつてたから名前は一致。外見的特徴も一致、おまけにあの背格好で武器も持っていなかった。ここまできたらもうカスミの言ってた奴当人でしかねえよな。」
夕日が差し込む街路で一人バイルは一人呟く。
「すぐに会いたいとは言わないだろうしまだまだ訓練させるつもりだが、いかんせん状況が読めなさすぎる節はあるな。」
彼にとって。否、彼以外であっても現状はイレギュラーだらけの状況にあった。一介の冒険者である彼がわからないのも無理はないことだろう。
「そも、二人同時に異世界から来ること自体例が無かったのにその二人が見知った関係なんてあり得るのか?」
「その上ライヤの方は目に曇りが無さすぎる。勇者から転生のシステムは多少聞いていたが、ありゃ選ばれるような人間じゃねえだろうに。」
「ま、悪い奴じゃないから良いんだけどな。」
バイルは一人、嬉しそうに笑っていた。
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