025 恋見習いの恋愛相談
書きました。最後まで読んでくださると幸いです。
勝利の喜びを分かち合い、食って飲んでの大騒ぎ。そんな喧騒を見下ろすテラスで、少女二人は夜空を見上げて話す。
「──これが、私がライヤ様とカスミ様に出会い、レイシャ様と再会してから、メフィ様と会うまでの話でした。ここまでの話を聞きたいと言われたので応えましたが……お気に召しましたか?」
「ええ、ええ!とっても参考になりましたわ!伝聞で知ってはいましたが、あなたの視点からではまた印象が変わりますわね。」
参考になりはしたが、それはそれとして。メフィは話を聞きながら取ったメモを見返し、どうしたものかと考える。
兄のクロノ経由でライヤ本人から聞いた話、バイルの報告、自分が知っていた情景に加えてマリから聞いた話。その全てを総合して考えると、ど
マリ・プリズマイトは異世界人のライヤに恋をしている。誰がどう見てもその結論に異論を唱える者はいないだろう。それ程までに変わりようのない結論がここにあった。
勿論、恋愛マスターを自称する彼女にとってその結論そのものは悩みの種にはならない。それでも彼女は内心では頭を抱えるほどに思い悩む。
マリ・プリズマイトの家は厳しかった。使命の為にあらゆる娯楽から遠ざけられた彼女は、両親の死後も何かを楽しむことは殆どなかった。
友も持たず、趣味も持たず、読書は魔法の勉強と同じ。そんな彼女が恋愛という感情を知ることがなかったこと、メフィにとっては信じはすれどまだ驚きが大きかった。
恋知らぬ少女。マリ・プリズマイトに今彼女が抱いている感情を包み隠さず語った先で、彼女が何をして、何を思うのか。どうにも予測できなかった。
恋は人を狂わす。それを知っているからこそ一つの言葉でさえ伝えることを躊躇う。しかしこのままでは埒が明かない……。
「……そうですね。今からすること、兄様には内緒でお願いしますわ。」
……愛する友のためなら、多少のルール違反は多めに見てくださるでしょう。そう言い聞かせて、力を解放する。
光の大精霊は悪趣味な存在ではあるが、授ける力はそれに見合った物であることが多かった。特に当代の巫女、メフィ・マルフィーレの授かった力は絶大だった。なんせ、大きく分けて三つもの能力を得ていたのだから。
その中でも多様は禁物だと、使うのは緊急時のみだと兄から取り決めをされていた力、名をつけるなら【ベスト・シミュレーション】とでも言おうか。彼女には今できる最善の行動を直感的に理解する力があった。
「メフィ様……?そのお力、大精霊様の……。」
「ですから、内緒なのです。」
人差し指を口に当て、「言わないでね」のジェスチャー、そのままメフィは最善を知る。こんなに考え込む必要も無かったな。なんて苦笑いしてマリの目を見て、最善を告げる。
「マリ、あなたは今恋をしていますわ。相手は……きっと言わなくてもわかりますわよね。ここまでは朝もある程度話しましたが、宜しいですわね?」
「では何をすれば良いのか……という話ですけれど、今は何もする必要は無いかもしれませんわね。」
「何も……する必要は無い……?」
「ええ、たとえばマリさんは彼とやりたいことはあるんですの?手繋ぎたいとか、ご飯食べさせ合いっこしたいとか、一緒にお風呂入りたいとかでも良いんですのよ。」
マリは言葉に詰まる。メフィの読み通り、彼女にはまだ何かしたいという願望は無かった。そのままアプローチを仕掛けてもきっとうまくいかないだろう。
「だから、何もしなくて良いんです。そして他者を好きになったっていう、その感情を今は楽しむと良いんじゃありませんこと?」
メフィの言葉に、マリは目をキラキラと輝かせ感激する。自分が思いつきもしなかった解答、それをスラスラと出したことに対する驚嘆と尊敬。自分の力とは言い難いが、そこまで感激されるのも恥ずかしいなと、メフィは照れる。
「……今日はありがとうございました。大したお礼はできませんが……今度お菓子でも買って持って……。」
「何言っているんですの?まだまだ夜はこれからですってよ!」
「…………え?」
彼女の目の前に突然ドンと置かれたのは数十冊もの恋愛小説、メフィ厳選の傑作集。
「あなたにはまだ恋愛における情緒的なこと、また更に進んだ関係になった時に起こる営みなど、知らないことが多々ありますわ。ここで帰すなんて恋の伝道師の名折れそのもの、頭はまだ回るでしょう?思う存分に詰め込みますわよー!」
…………結局、その後二時間も掛けて、顔を真っ赤にすることもありながら、マリはお姫様直々の講習を終えた。昼の戦で疲れた体は夜更かしするには向かず、ヘロヘロで帰ってそのままソファに座って寝ることとなった。
──強さから始まり、実績、仲間との関係性、目的。全ての条件は全て達成された。
始まる。共に歩む為の、悔いを晴らす為の。
誰かの為の旅が、始まる。
読んでくださりありがとうございます。
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