020 実体無き焔のグレン
書きました。最後まで読んでくださると幸いです。
「実体無き焔のグレン、参る!」
目の前の火炎が連撃を叩き込んでくる。つい昨日やった時人間離れしたパワーだと思ったわけだ。魔物の馬力が人と同等な筈無いよな。
そして実体無きとは言っていたが、こんな人魂相手に何するのが正解だ?火や風を放っても火力を増すだけ、実体がないんだから土で覆うのも無意味。挙げ句の果てに……。
「イメージするのは水、清き流水。剣よ、水をその身に纏え!」
ちょっと唱えれば、一振りでカーテンを作るような、水を纏わせた剣の出来上がり。これで炎の温度を下げ、消火してやろうとでも思ったんだが……。
火力が違いすぎる。水は届くなく蒸気に変わり、むしろこちらを蝕む。はっきり言ってお手上げだ。
「そんな豪華に燃え盛ってんだ。本気出せばあんた一人で国家転覆くらいできたんじゃねえのか?」
「本当だ。自分だけでやる筈だったのだが、想定外が重なってな!あの老耄さえいなければもっとすぐに事は進んでいたのだがな、はっきり言って人類の強さを舐めていたが、あれは強い奴だ!」
「先の火山で単騎で乗り込んできたかと思えば暴れに暴れ指揮官を斃すし、乗っ取ろうとした俺の体をこの甲冑に封印するしで散々なんだわ!」
「挙句の果てには甲冑を通じて自分の体を乗っ取りやがった!そのせいで幾多もの暗殺の機会を逃したが、とうとう折れたのかしらんが、急に肉体を返してきたんで伝令がわりに奪わせてもらったさ!」
騎士団長って自分の甲冑着てる奴乗っ取ったりできるのかよ、すげえな。…………あいつ本当は魔物とかだったりしないか!?人間技じゃないだろそれ!
「ま、お前さんも見所が無いではないが、手数が少ないな!このまま何連でも攻撃を受け続けるのも良いが、ホークに襲われながらそれを続けるというのか?」
戦いの最中一瞬遠くの空を見ただけでもわかるが、既にホークの大群が王国の中に入ってきている。兵士が弓で応戦してそうな雰囲気は感じるが、あまりここで長々とやっているわけにもいかないな。
実体無き存在をどう倒すか。燃え盛る身は厄介と言えば厄介だが、乱暴な剣の振りの方がより厄介だ。むしろそれさえ無ければある程度の無力化はできる。
特に、先程から剣の振りは速いが、動きそのものは鈍重だ。ガープスの意識があった時の方がよっぽど速かった。
「それに、その内騎士団長自体もお前たちに牙を向けるだろうな。そうなった以上こちらの勝利は絶対、いい加減戦局を変える一手でも投じてみるがいい!」
「……なに?どういう意味だ?」
「いつ自分たちがガープス・ハルブルク。騎士団長を殺したと言った?無理やり私を乗っ取っていただけで彼の体は現在この王国の近くにて安置している。」
「あの戦力を獲れるのならば分捕るのは理に適っているだろう?腕の立つ魔女を待機してるんでな、そいつに洗脳してもらってって作戦らしい。魔法に詳しくないんでその辺はさっぱりだがな。」
先刻までのハイテンションはどこへやら。妙に説明的に作戦をペラペラと喋り出した。
ブラフ、嘘、時間稼ぎってとこか?だとしてもところどころの言葉使いもそうだが、タナビ山で戦ったバーニアと比べると魔王軍っぽくない、苛烈さが欠けている気がするな。
もし、本当だとしたら……洗脳された騎士団長に勝てる術はない。せめてもの抵抗をするには……。
「……あんた何者だ?まるで自分を打ち倒すことを望んでいるかのような口ぶりもそうだが、本気で殺そうとしてくる割に俺にヒントを与えてくるよな。」
「実体無き焔のグレン、……それが自分の名だ。」
「…………まあ良いさ。今、絶対に負けない方法を思いついたんでな。」
不敵に揺らめくグレンを無視し、魔法を構築する。
イメージするのは大地、岩石、そして、鋼鉄。より硬く、より鋭く剣を覆わせる。
ガープスが洗脳されてこっちに向かってくると仮定して、今できる最大の妨害といえば、使い慣れた武器を使わせないことだ。使用できないようにするには幾つか手はあるが、一番手っ取り早いのは一つ。
持ち上げるには余りにも重すぎるから、全身を回し、遠心力で無理やり斬り上げる。血管が千切れるような、不愉快な音がし、腕が悲鳴をあげる。なんだろうな?朝早くから動き回ったせいか、絶望的かつ現実感のない光景のせいか、痛みを感じても痛みが頭を支配しない。かつてないほど冴えている。
「実体無き焔のグレン、今からお前を鎮圧する。」
岩を纏った魔剣は、もはや大剣と呼ぶべき大きさに。数百キロはあるであろうそれを防ぐ術は、あいつにはない。受け止めようとした剣は破壊され、甲冑を抉る。
「ふっ、ようやく自分を超える覚悟ができたか!貴様の力、今一度ぶつけてみろ!」
「超えるとかよくわかんねえけどよ、まずはその減らず口から黙らせてやるよ!」
振るうのは俺をも破壊する、言わば諸刃の剣。さあ、ケリをつけようか、グレン!
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