001 目覚めたら異世界
書きました。最後まで読んでくださると幸いです。
涼しい風が体を揺らす。暖かな空気と穏やかな鼻唄が心地よく、つい二度寝しようと思ったが鋭い日差しに妨げられた。まるで長い夢を見たあとのような気持ちで、渋々瞼を開く。
そこは辺り一面の草原。辺りに木が生えていて、羊とか山羊みたいなのがまばらに草を食べているのが見える。遠くには街……それも現代日本のそれではなくどちらかといったらヨーロッパの、それも中世くらいの街並みのようにすら思えるようなものがある。
どうやら大きな木の根に座って寝ていたらしい。立ってから気づいたが何やら着た覚えのない服、丈夫そうな革の服を着ていた。誰がいるのだろうか、頭上からは鼻唄が聞こえる。
……さて、ここは何処なんだ?なんでこんな草地のど真ん中にいるんだ?俺は日本の一般家庭に住んでいた筈なんだが、どう見ても日本の景色じゃないよな。どうしてこんなことになってるんだ。
「おや、起きたみたいだね。どうだい調子は、何か痛むところはあるかい?」
あれこれ考えて混乱している所に上から人が降ってきて、何事もないかのように声を掛けられた。
皮の胸当てに濃い緑のミニスカート、大胆に胸元と腹を出した格好とナイスバディとでも言うべき肉体には面食らったが、それ以上に目を引いたのは青色の髪に生えた猫っぽい耳に腰から長く生えた尻尾、そして腰につけた矢筒と弓。
ここが自分の住んでいたようなところじゃない。自分がいた世界じゃないことを嫌でも理解させられた。
「感謝してくれても良いんだよ。なんせ原っぱのど真ん中で倒れている君をここまで運んできたのは私なんだからね。」
「そうだったのか……ありがとう、助かったよ。」
「おっと……冗談のつもりだったんたけどな。まあその件は良いんだ。それにしたってどうして碌な武器も防具も持たずこんなところにいたんだい?この辺りは魔物も少ないとはいえ危ないよ?」
草原の真ん中で倒れていた……どうしてそんなことになってたんだ?考えてみるものの頭の中にモヤがかかったように、大したことも思い出せない。
「ふむふむ……もしかして君異世界人だったりする?もしそうなら私が匿ってあげても構わないよ。」
異世界人?この世界には別の世界から誰かがやってきた前例があるのか?それにしても匿うか……申し出自体は嬉しいが迷惑をかけるのは忍びないな。
「勿論タダで色々してあげるわけではないよ。これでも忙しい身でね、頼まれてる仕事を手伝ってもらったりとかはするかもね。」
「それにこういう手合いの扱いは慣れていてね。迷惑をかける心配はいらないよ。」
……まるで頭の中を読んでいるかのように懸念点を消していったな。確かにいまいち状況を掴みきれて現状、彼女のような存在は非常にありがたい。大人しく厄介になったほうが自分のためにはなるか。
「そこまで言うなら世話になろう。俺の名前は霧坂雷也、よろしく。」
「おっとそうだ、名乗っていなかったね。私の名前はレイシャ・スプリング。よろしくっ!」
「とりあえずあっちに見える街に向かおうか。詳しいことはあっちの宿屋についてから話すよ。」
レイシャが指差した方向にはさっきも見たかなり大きそうな街、よく見ると遠くに城が見えるし王国だったりするんだろうか。
「なあレイシャ、これから行く街ってどんなところなん…………何やってるんだ!?」
呑気に遠くを眺めてたら隣でレイシャが弓を引いていた……。彼女が見据える先をよく見るとここからでもわかるくらいに巨大な鳥がこっちに向かってきていた。
「おっと、驚かせてしまったかな。ちょっとこの辺じゃ見ないようなのが飛んでたから被害が出る前に撃ち落としておこうとしただけさ。」
そう言ってレイシャはその朗らかな表情を変えることなく、巨大な鳥に向かってまっすぐに矢を放った。
矢は見事的中し、鳥は力を失ったかのようによろよろと羽ばたき、気を失って墜落した。
「この辺りは人もあまり来ないし持って帰って捌くのも面倒だしこのまま放置しとこ。」
これが日常であることを物語るように、レイシャが弓矢を仕舞いつつ呟く。その様子が、ここが自分の知るような世界じゃないことを何よりも示していた。
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