012 少女の密会
カラスが外で鳴いている。バスローブに身を包んだ、おねむなマリを誘ってスコーンを齧り、紅茶を静かに飲む。やっぱり紅茶にスコーンは合うね。値段は張ったけどこの味なら満足かな。
マリはまだ恐れ多いのか、スコーンにあまり手が進んでないかな。客観的に見たら、昨日の今日で突然現れた人に夜遅くにお茶会に誘われたんだし、警戒されなかっただけマシかもね。
と、いうかお風呂上がりのサラサラヘアー、室内とはいえ不用心なバスローブ、おまけにたっぷり湯船に浸かったおかげですっかり上気した顔。可愛さと色気をこんなに高いレベルで両立してるの、流石にズルなんじゃないかな!?同じ女性として悔しさすら出てくるなあ。
「あの……カスミ様、どうかされましたか?」
「ああ、ごめんごめん。その服可愛いなって思って。」
やべ、じろじろ見すぎたかな。お腹も膨れたしそろそろ本題に入らなきゃね。
「えーっと、どう聞こうかな……。ちょっと聞いてみたいことがあるんだけどさ。」
「……はい!なんでもどうぞ。」
「……君から見た雷也って、どんな感じに見えてる?」
ここに来る前、バイルにその辺りの話をネタバレされたおかげで、マリが抱える好意にはすぐ気がついた。
雷也の前ではあくまでただの仲間ですよって面しかしてなかったから、バイルがなんか言わなかったら分からなかったかも。まったく、健気なんだから。
「どんな……もしかして不躾な行為を知らず知らずのうちに働いてしまっていましたか!?」
「違う違う!そういうのじゃなくってさ、大した理由もない単純な話だよ。君は雷也のことどう思ってるのかなー、なんて思ってね。」
「……ライヤ様のこと。」
一言呟いて、黙りこくっちゃった。まあ他人のことどう思ってるかなんて聞かれても難しいか。
「ライヤ様……以前人攫いから助けられて以降ライヤ様のためになればと頑張って来ましたが、私にもあの方をどう思っているかをうまく言葉にできず……。」
「あの方のことを思うと、なんだか胸がギュッとなって、切なくなるんですが……。」
…………そっか、自分の気持ちなんて簡単にわかるんじゃないもんね。まだこれが恋だって、きっと分かってないのかも。
「じゃあさ、例えばの話。私とあいつが結婚するってなったらさ、どう?」
「それ……は、……祝福するべきだと思います。」
一瞬見せた悲しそうな顔、それを取り繕って一般的な言葉を述べる。そうして少し困った顔で紅茶を飲むのを見てると……。
なんか、ズルいって思っちゃうな。
その可愛さ、謙虚さは単純に再現しようとしても紛い物にしかならない。あなただけが持ちうる最上の武器。いざそれで勝負!なんてなったらきっと、私じゃ負けてしまう。
「うーん……私にもよくわからないからさ、これから一緒に答えを見つけ出しててみようよ!」
嘘をついた。もう答えはわかりきっているにも関わらず、わからないなんて言い張った。それでいて一緒に答えを見つけ出すなんて、思ってもいないのに味方ヅラをする。つくづく思うけど、ズルい子になっちゃったな。
「よし!聞けたいことも聞けたし、もう遅い時間だからお開きにしよっか!」
心臓がズキズキと痛む、これじゃダメだって私の良心はわかってるみたい。だってマリの気持ちは聞いておいて、私の気持ちは隠してるんだ。こんな不平等なことないよ。
それでも私の理性が優しくすることを拒む。何の為に雷也を巻き込んだ?何の為に無理やり生き返った?それなのに競合相手にちょっとでも有利を与えるのは良いことなのか?
いいや、良くないはず。目的を見失ってはダメ、元々私の身勝手な願いからあいつはここに現れた。たとえ悪い子になってでもあいつと……。
「あの……カスミ様?お顔が優れないようですが……。どこか痛みますか?」
「えっ、いやいや大丈夫大丈夫。あんまり心配しなくてもいいよ。私これでも丈夫だからさ!」
……こんな優しい子に、私は何をしてあげられるだろうか。さっきの例え話ですら悲しそうな表情を見せた彼女、自覚はないみたいだけどもう大好きじゃん。もし私がうまくいったとしてこの子は何を思うのか……。
「そうだな……最後に一アドバイスを送るよ。」
「嫌とか悲しいとか、そういう暗いことでもさ。隠さずにいた方が絶対良いよ。」
「え……?」
「どう思われようがさ、そっちの方が君が損しないから、自分の感情曝け出して生きていくのもアリじゃない?ってだけ。」
困惑するマリをよそに食器を片付ける。せっかくこんなに良い子なんだからさ、ちょっとくらい優しくしないとむしろバチが当たるでしょ。
ああ、なんだかしみじみ思う。
貴女が恋のライバルにならなきゃいいのに。