明日地球が終わるけど、冷凍コロッケは買わない
世界が終わるのを知ったのは、昨日の朝だった。
目覚まし時計の代わりに、スマホから特大アラート音が流れた。
画面に表示されたのは国からの緊急通知
【大型隕石が明日地球衝突 最後の準備を】
世界は終わる――あと24時間くらい
「初めて1人で見た映画はアルマゲドンだったな~」
そう呟きながらコンビニを目指し外に出た……
外はパニック映画のようだった。
クラクションが鳴り響き、歩行者も自転車も、誰もが出口を求めて走り回っていた。
そして——
息を切らしながら、ようやくコンビニの看板が視界に入った。
店内に入ると棚には商品がほとんど無い。
カウンターでは店員が、ちょうどホットスナックを補充していた
「ファムチキひとつ」
店員は見覚えのある大学生アルバイト。
いつもやる気が無いのに、今日はやけにハイテンションだった。
「いつものですね!ポイントカードお願いします!」
聞き慣れたそのセリフが胸に沁みた。
「はい」
「現在の残高は……480ポイントですね。使いますか?」
「使うよ、世界明日で終わるじゃん?」
「ですよねー!私もあとで告白します」
「誰に?」
「バイトの先輩です!ファムチキお待たせしました!残りポイント240ポイントですね」
「まあ、頑張れよな」
その言葉が、俺の人生最後の『頑張れ』になるかもしれない。
――
明日の朝食が足りないのでスーパーへ寄る。
スーパーはすでに戦場と化していた。肉も魚も消えていた。
冷凍コロッケだけが残っている。
10個入り
「これ、食いきれるかな?」
カゴに入れようとしたがやめた。
世界が終わるとわかっていても買えない。
たぶん俺という人間の限界だろう。
家に戻ってきた。
ふいにカレンダーを見ると、貼られたままの彼女の写真と目があう。
写真に映る彼女の微笑みが胸を締めつける。
あの時、謝っていれば今2人で過ごしていたのだろうか……
その後は、録画していた深夜アニメを観た。
次回予告が終わった瞬間、涙が頬を伝わる。
アニメに感動した訳では無い、1人の寂しさと最終回が見れない事に。
――
そして朝が来た。
最後の朝。
最後に何を食べるか冷蔵庫を開けた――何も無い。
「やはり冷凍コロッケを買っておくべきだったか……」
家を出ていつものコンビニに向かう。
街中は昨日とは違い静かだった。
みんな家で大切な人と過ごしてるのか、どこかで遊んでいるのだろう。
いつもの角を曲がると、コンビニは営業していた。
「まさかとは思ったけど営業してるのか?」
自分でコンビニに向かっておいて『地球最後の日』に営業してるコンビニは、ちょっと引いた
店内に入ると、カウンターの大学生バイトがちょっと笑顔になる。
「あっ!来るかと思ってファムチキ取っておきましたよ!」
声は元気だが目元が赤い。そこは触れないでおいてあげよう。
「あーじゃあファムチキ1つ」
店員がケースから取りながら話しかけてきた。
「告白……ダメでした」
「今日なんて誰も働く人居ないんで勝手に出勤してます。お客さんに結果報告するのが私の人生最後のミッションかなって」
「お、おう……まぁ生きてれば良いことあるって」
「そろそろ死にますけどね」
まずい、言葉選び失敗したか?
沈黙が流れたが、レジ打ちしている店員が嬉しそうな顔になる。
「あっ!ポイント0になりましたよ!ちゃんと買い物で使い切ったの初めて見ました」
「お~0まで使い切ったの初めてだ!」
「端数残ったりするんですよね~」
2人でレジの表示を見て笑い合う。
人生で初めてポイントを使い切った。
それが俺の生きてきた証のような気がした。
店員に泣きながら笑顔で「また来てください」と見送られる。
俺は「また、きっと常連になるよ」と返した。
――
店を出ると、空の色が変わっている。
夕焼けが来たような異常な赤。
地響きが近づく――
「もうすぐ地球も終わりか~」
ファムチキを食べながらレシートの「0ポイント」表示を見てニンマリする。
「冷凍コロッケは買えなかったけど、最後の日にファムチキは食べられた――それで十分だよな」
この味を
この喜びを
俺は死ぬまで忘れない。
俺は
いつも何かを途中で終わらせてばかりだった。
恋も、夢も、仕事も。
でも
今日だけは
ちゃんと終わらせられた気がする。
地球も、俺の人生も。
1文を短くして淡々と1行毎に進んでいく感じの実験作。
連載書いてる途中に暇つぶしで書き上がりました。