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2・いやだ、転生している!

 オルタンヌ様に出会ってまだ二週間。だけど、彼女が優しい方というのは、わかる。困っている生徒がいれば身分に関係なく手助けしているもの。


 ルルカに意地悪をしていると言っても、口頭だけだし。


 Aランチセット――メインは熱々のシチュー――を持ってバルコニーへ出る。誰からも遠巻きにされて、ひとりでポツンと座っているオルタンヌ様。


 だけどそれを気にした様子はなく、経済学の本を読んでいる。彼女のまわりだけ静謐な空気が漂っている。

 優しい人だけど、近寄りがたいのよね。


 できることなら食事の間ぐらい、そばにいてあげたい。

 けれど、私はコンラートの専属護衛だからトレイを置いたら戻らなければならないのよね。なんであんな浮気者の護衛になってしまったんだろう。


 騎士が守るべきは、かよわき者のはずなのに。


 彼女のテーブルに食事を置こうとしたそのとき、視界にこちらに向かって飛んでくるものが入った。同時に、

「危ない!」という叫び声。


 近くでボール遊びをしていたグループがいたなと考えつつ、両手がふさがっていることに気づく。だけど私が避けたらオルタンヌ様に当たる。となれば――


 目をつむり衝撃に備える。

 次の瞬間、ボールは眉間を直撃した。

 脳が揺れる。


 あ。これはまずい。



 ◇◇



 目を覚ますと簡素な部屋の簡素な寝台に横になっていた。

 私の顔をのぞきこむオルタンヌ様。

「大丈夫?」と恐る恐る、ハスキーボイスで尋ねてくれる。

「はい」と答えて、視線をめぐらせる。たぶん医務室ね。いるのは彼女と私だけ。私の主はいない。

「ごめんなさい。私が食事を運ばせたせいで」

「いえ! オルタンヌ様はなにも悪くはございません。避けられなった私が悪いのです」

「私に当てないために、わざとそうしたのでしょう?」


 気づいていたのね。さすがだわ。


「そのようなことは、ありません」

「……そう」

「私ならもう大丈夫です。もう授業が始まっておりますよね。お戻りください」

「わかったわ。ええと、あなたの名前はなんだったかしら」

「ガリエと申します」

「フルネームで」

「ステラ・ガリエでございます」

「コンラートと同じクラスでいいのよね?」

「左様でございます」

「女の子、で合ってる?」

「はい」

「わかったわ。お大事にしてね、ステラ」


 やっぱりオルタンヌ様は良い令嬢だわ。


 私に優しくしてくれるひとなんていない。私は学生ではあるけれど、本分は王太子の護衛。学内で唯一、帯剣をしている。だから誰も、生徒としては扱ってくれないのよね。

 だというのにオルタンヌ様は、私を心配して気遣う言葉をかけてくれた。


 ルルカに対しては恐ろしいけれど、それはきっと嫉妬ゆえね。

 それにしても――


 彼女が部屋を出ていくのを確認すると、腕で目を覆った。

 気絶している間に、とんでもないことを思い出してしまった。

 まだ混乱している。オルタンヌ様の前で冷静を保てたのは、騎士になるための厳しい修行の賜物だわ。


 まさか、自分に前世があるなんて。

 いえ、自分がマンガの世界のキャラクターだったなんて。


 私は頭を打った拍子に、自分が異世界転生をした元日本人だと気づいてしまったのだった。



 ◇◇



 思い出した記憶によると、この世界は少女漫画『恋は嵐のようなもの』の世界なのよね。


 主人公は男爵令嬢のルルカ。婚約者のいる王太子コンラートと恋に落ち、いけないとわかりながらも気持ちを止めることができない。


 そうするうちに王太子の婚約者オルタンヌが現れて、ひどいイジメを受ける。けれどそれに立ち向かい、さらに愛し合うようになるルルカとコンラート――というお話。

 途中で読むのをやめてしまったから、結末は知らない。


 けれどこういうものは、クライマックスで悪役令嬢が断罪されるのが定番よね。


 ちなみに私はモブだったと思う。コンラートのそばに控えている姿を何度か見た。セリフは一度もなかったはず。


 自分がこの世界でモブにすぎないというのは、なかなかにショックだけれども。

 そんなことよりも、オルタンヌ様が断罪される悪役令嬢ということのほうが、気分が重い。

 どう考えても悪いのは浮気野郎なのに!


 こうなったら、なんとか私がオルタンヌ様を救う。それしかないわ!

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