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宇宙旅行  作者: マコト
地球(西暦三千五百四十年)
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悲劇の英雄

 ホテルの窓から朝日が差し込んできた。ルーニ星とは違い豪勢な物ではなかったが、そこにはベッドも机も存在していた。当初は使える物ではなかったが、グレンの魔法で新品同然になっていた。


 そんな中で、ラズは窓の外を見ていた。相変わらず、廃墟しかない風景であった。この街をこんなにしたのは魔物達なのだろう。そして、その原因はフリーエネルギーにある。


「何を見ておる?」


 机で書籍を読んでいるグレンが声をかけてくる。


「これをこんなにしたのは魔力が、フリーエネルギーがあるからなんだよね・・・」

「お前が気にすることではない。人間の業の結果というだけだ」


 人の業。それがこの風景を産んだのであれば、これは、そに対する罰なのだろうか。


「早く颯真さんの旧居に行こう。俺には迷いはないよ」

「嘘をつくな。お前が自身も残される者の事も考えない人間ならば、最初からそこに向かっておる。しかし、違うのだろ?」

 

 グレンの言葉にラズは反論が出来なくなってしまう。


「私はお前がどんな決断をしようと責めはせぬよ。私だけではない、他の者も同じ気持ちだろう」


 グレンが書籍を置いて、宙に浮き、ラズに近づいてくる。

 

「それよりも食事に行こう」


 グレンが言う様に、先程、慶次がこの部屋と同じ階の二階にあるレストランで待っていると言っていた。ラズはその言葉に従う事にする。


 ラズが部屋の出入り口に向かい、目の前にある扉を開く。本来はルーニ星と同様に自動で開くらしいのだが、最早、その機能は失われていた。


 ラズが部屋の外に出ると、内廊下が広がったが、どこを見ても、半壊した風景が広がっていた。ただ、壁には窓が数個ついており、彼は歩きながら、そちらに視線を向ける。すると、外で人影が見えた気がした。黒髪に使い古されたポロシャツを着ている男であった。


「グレン、あれ、人かな?」


 ラズが窓を指差す。グレンはこっちに近づいてきて、窓を覗き込む。


「んっ? 特に誰もおらんが」


 ラズは再度窓を見る。確かに、そこに人影はなかった。


「見間違えかな?」

「それは分からん。ただ、魔物を所持していれば、この星でも生きてはいける。生きている者がいるのであれば話を聞いてみたいのだがな。まあ、いるか分からん者を考えても仕方なかろう。先に進もう」


 グレンが先に進んでいく。


 少し歩いていると、ある部屋の前に着く。そこは、昨日見つけたこのホテルのレストランの施設がある部屋だ。ラズはその扉を手で開ける。


 すると、そこにはテーブルが一つあり、そして、何個かの椅子があった。そして、机の前には何個かの弁当が並んでいた。


 この弁当は全てが慶次の鞄に入っていた物であり、当初は小さなサイズをしていた。しかし、鞄から出すと大きくなっていったのだ。最初にその技術を見せられた時は驚いたものであった。


 その食事が置かれたテーブルの前にはクレアと慶次と神楽が座っていた。武蔵の姿が見えないが、今は見張りの任についているのかもしれない。ラズはクレアの横に座る。


「おはよう。武蔵さんは既に食べたの?」

「うん。先に食べたみたい」


 クレアからの回答を聞いた後に、ラズは神楽に視線を向ける。


「神楽さん。ここの都市には生身の人はいるの?」

「まあ、ありえるかもしれませんね。この辺りは魔物に徹底的に破壊されました。もう、魔物もここに人がいるとは思わないでしょう。その裏をかいて。ここで生活している人間はいるかもしれない」


 神楽の回答を聞くと、慶次が椅子から立ち上がる。


「それよりも、食事にしよう」


 すると、各々が好きな弁当を選び始める。ラズはハンバーグの弁当を選ぶ事にし、それを手に取る。


 ラズはその弁当を食べ始めたが、それは、慶次の弁当の選定のセンスが光る物であった。食事を終えると、ラズは慶次に感謝の気持ちを表したくなる。


「ありがとうございます。慶次さん。しかし、凄いですね。俺の星にはこんな物を小さくする技術はありませんでしたよ」

「まあ、私も仕組み自体はよく分からないのだがな。私が持っている鞄に入れると、小さくなるんだ」


 今度は慶次は神楽の方に視線を向ける。


「しかし、神楽さん、この地球にはどの位いる予定なんだ? 食料にも限界はあるぞ」

「ラズとグレン次第ですよ。彼らが私達の目的を妨げている」

「どう言うことだ?」


 慶次が怪訝な表情をする。


「駄目だよ。そんなことはさせないよ。だって、ラズの身が危険だもの」

「どう言うことだ? 詳しく頼む」


 クレアの言葉に慶次が怪訝な表情を浮かべるが、突然、テーブルの隅にいたグレンが勢いよく宙に浮かぶ。


「むっ、魔力を感じる」


 その時だ。部屋の出入り口の扉が勢いよく開き、武蔵の顔が現れる。


「た、大変でござる。何か見知らぬ人達が複数人、このデパートに入ってこようとしているでござるよー!」


 武蔵が大きな声をあげると、ラズ達が勢いよく立ち上がる。


「おやおや、この街の住人ですかね?」


 神楽は何故そんなに冷静なのだろうか。


 少しすると、何人かの足跡が聞こえ的、こちら側に向かっている事を告げてくる。


 ラズは全員の様子を確かめる様に見回したが、慶次が懐に手を入れているのが気になった。恐らく、拳銃を出そうとしているのだろう。しかし、向かってきているのは魔物ではない。地球の人々なのだ。


「ここに来るのは地球の人間なんだよ。そう言うのは止めてください」

「それは分かる。しかし、何があるか分からんぞ」


 ラズと慶次がそんな会話をしている時、十人前後の男達が、武蔵を押し除け、扉の中に入ってくる。彼らは一様に使い込まれた服を着ており、彼らの近くには魔物らしき者も数名浮いていた。


 しかし、突然、男達はその場に跪く。それは、まるで、中世ヨーロッパの王に対する民のようであった。


「神楽様には大変お世話になっております。今日、こちらにおられると連絡を頂いたので」


 男の一人が顔を上げながら言う。


「ええ、今日は貴方達にいつも話していた、地球を救う物、いや、地球を救う救世主を連れてきたのです」

「すると?」


 男の一人が嬉しそうな表情を浮かべるのと同時に、神楽がラズの元に歩み寄ってくる。


「彼こそが魔力を消し去る救世主です!」


 神楽の言葉に、男達が歓声を上げる。


「今日、明日には、そのための行動に出ます。皆様方には、それまでのご支援の程をお願いしたい」


 神楽の言葉に男達は一様に頭を伏せて、了解の意思を表す。


「それでは、我々は皆様が行動に出るまで、この辺りの警護を行わせていただきます」


 男達はそういうと扉を出て行く。


 神楽の言いたい事は分かる。彼らを救うため、ラズに役割を果たせと言いたいのだろう。これが、神楽が書いたシナリオという物なのだろうか。


「ちょっと待ってくれ。全く話が見えない。ラズ君が救世主とは?」


 慶次が動揺した表情を浮かべる。それはそうであろう。彼らは、地球にある颯真の家のオリジナルの赤い結晶を手に入れる目的しか知らない。


「ラズにはフリーエネルギーや魔力を消す力があるらしいの。ただ、それをやると、ラズが命を失ってしまうの!」


 クレアが語気を強めに言う。


「何? 事情は詳しく分からないが、ラズ君の命と引き換えに、魔法とやらの存在を消すと言う考えだって事か?」

「そうです」


 神楽の返答に慶次の顔が険しくなる。


「あんた、そんな事をこの子にやらせようと言うのか? それで、さっきの連中を使って煽ったと」

「そうですよ」


 慶次は神楽の方に歩み寄り、彼の顔を殴りつける。それを食らった神楽は勢いよく後ろに倒れる。ラズが止めに入るために、背中から両手を回して慶次を抑える。


「たった一人の犠牲で地球が、いや、様々な星が救われるのですよ?」

「大層な大義を持ち出したな。例えそれが事実だとしても、この子の犠牲は認められない」


 慶次が顔を真っ赤にしていた。


「ラズ殿」


 声が聞こえると、ラズの近くまで武蔵が歩み寄ってきていた。


「拙者が代われんでござるか? ラズ殿よりも数十年は長く生きてる。お主が生きた方が、世のためになりそうだし・・・。神楽殿もそれで勘弁して欲しいでござるよ」


 武蔵が優しい笑みを浮かべながら言うと、ラズに熱い物が込み上げてくる。


「代われるの!? なら、私が!」


 クレアも声を上げてくれる。


「あんた、たまには良いこと言うな。私が代わろう。幸いな事に天涯孤独だ」


 慶次も声を上げてくれる。彼らを犠牲になど出来るわけがない。例え代われたとしても、彼らを犠牲になど出来る訳がない。


「ははっ、素敵な光景ですね。でも、無理なんですよ。彼じゃないと」


 神楽が立ち上がりながら言う。しかも、先ほど、慶次に殴られた顔は既に綺麗に治っていた。再び、慶次が神楽に殴りかかりそうな勢いで彼を睨みつける。


「なら、諦めろ。魔力が何なのかは、まだ分からないが、共存するしかないだろう」

「貴方は、手を汚す事を恐れているだけでは? ここで、引き返したとしましょう。貴方の言う弱者は魔力で命を落としますよ。例え、神楽財閥が協力したとしても限度がある。いずれは彼らに甚大な被害が出る。それは別に良いと?」

「そ、それは・・・」


 慶次が反論に困ってしまう。


「少し考えてみてください」


 神楽はそれを最後に、その場を去って行ってしまう。辺りには重い沈黙が広がる。


「グレンさん、何か方法はないの?」


 クレアがグレンに問う。


「無いのだ。私がやっているのは、ただの時間稼ぎにしかならないかもしれん。私がソマリナからラズを移動させなければよかったのだ。すまない・・・」


 グレンの言葉で、再び、その場が重い沈黙が辺りを包み込む。

お読みくださりありがとうございます。

途中の章から入られた方は、最初からお読みいただけると嬉しいです。

評価など頂けますと励みになります。


下記にも訪れていただけますと幸いです。


https://dreampiece.jp/contents/15/detail

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