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宇宙旅行  作者: マコト
侍が住む 侍の星
15/48

地球教の総本山

 武蔵の家で、小次郎の騒動があった翌日、ラズ達は街の中を歩いていた。


 街の景色は、田中が住んでいた国の過去の姿に類似しているとの事だった。殆どの町人が髷を結っており、その先は銀杏の葉のようになっていた。


 足元は整地こそされてはいたが、コンクリートではなく、土であり、左右には店らしきものが多数あった。そこには賑わいがあり、ラズも嬉しい気持ちになる。


 ラズと田中も彼らと同じ様に髷を結い、浴衣を着ていたため、身だしなみ自体は景色に溶け込みつつあったが、それに対して、田中が不満そうな表情をしている。


「全く何でこんな格好しないとならないんだか。俺らもお侍さんの仲間入りってか」

「お主らの格好は目立ちすぎる。まあまあ。浴衣も中々に似合ってるでござるよ」


 田中の不満に武蔵が答える。この浴衣は武蔵からの借り物で、不服どころか感謝しなければならない所だろう。それに、ラズ自身はこの格好を気に入っており、田中の格好も様になっている様に思えっていた。ただ、クレアの浴衣はどこか女性らしさに欠け、似合わないように思えた。


「ねえ。やっぱり、話し合いで何とかならない?」


 争いを望まないクレアらしい考えであり、ラズも大賛成の意見であった。


「はははっ、拙者もそう思う。平和が一番。だからこそ、これから、話し合いをしに行くわけだが、恐らくは無理でござろう。明日に強奪作戦決行ということになるだろうな」

「ところで、何で決行は明日の夜なんだ。今日にグレンを取り返しに行けばいい。明日の夜だと失敗した後には、時間が足りなくなるんじゃ無いか?」


 武蔵の言葉に田中が疑問を口に出す。


「今日から、この街では年末のお祭りが始まるのでござるよ。明日が年末の大晦日だから、屋敷の守衛も休みを取る事が多いのだ」


 その情報が事実であれば、明日に決行と言うのは正しい選択肢に思える。だが、ラズとしては、今日の話し合いで片付く事を願いたい物であった。


「今日、この街に来た理由は駄目元の交渉、敵の偵察、宿の確保でござる。もちろん、警備が甘い様であれば、今夜決行する」


 潜入作戦なんて行ったことが無いラズだったが、彼の考えは間違っていない様に思える。田中も納得したのか、それに反論することはなかった。


「貴方の負けね」


 クレアが田中に視線を向けて、笑みを浮かべる。昨日こそは田中を敬遠していた様であったが、根に持たない性格らしく、今日はいつも通りの接し方に戻っていた。そんなクレアにラズは好感が持てた。


 ラズ達がそんな会話をして入ると、子供が彼らの横を駆け抜けていく。


「走ったら危ないよ」


 それを追う様に女性の声が聞こえてくる。


 ラズが子供の方に視線を向けると、走っていた子供が転倒する。


 ラズとクレアは慌てて子供に駆け寄り、彼の手を取り、立ち上がらせる。

 

 子供の髪型はラズとしては違和感がある物であった。頭髪の多くの部分が剃り上げられているのである。それは、田中が言うには芥子坊主という髪型らしい。後頭部あたりの髪だけ残し、他を剃り上げているものだ。

 

 改めて子供の顔を見ると、涙を溜めていたが、泣いてはいない様であった。


「大丈夫かい? ボク?」


 ラズが子供の手を持ち起き上がらせると、彼は笑みを浮かべる。


「ありがとう。お兄さん」


 子供は泣く事はなく立派なものであった。幼い頃のラズであれば泣いていたかもしれない。


「この寒い中薄着な変な人達だけど、優しい人だね。ありがとう」


 母親の言葉は余計な一言があるが、子供に怪我がない様でラズは安心する。それを見届け、彼とクレアは田中と武蔵の元に戻っていく。


「ラズ殿とクレア殿は素敵な若者でござるな」


 武蔵が笑みを浮かべながら何度も頷く。


「最初は彼の性格には、気持ち悪さも感じたけどね。人間らしさがないと。ただ、今では人間とは、あの様にあるべきと思えるね。汚い感情などなく完璧な」

「女子をいじめていた奴が吐く言葉でござるか?」


 田中の言葉に武蔵が悪態を突く。


「よく、思った事を口に出す人間が良いやつだとか勘違いされているよね? 俺は違うと思うね。付いた方が良い嘘もあるし、言わなくても良いことはある。負の行動にも良いものはあるし、人は完璧じゃないから良いんだ」


 田中の言葉は、ラズにとっても理解できるものであった。ただ、田中が先に発した言葉と返答で発した言葉が矛盾しているように思えた。武蔵も同じ気持ちだったらしく怪訝な表情をしている。


「さっきは人を完璧であるべきと言っていたが?」

「うん。確かに、そうだな・・・」


 田中が頭を押さえながら言うが、これも記憶の混乱による物だろうか。


「それに、嘘はつくべきではござらんよ。それで亡くなった者もおるのだ」

「妖怪に襲われるとかってやつ?」


 田中が馬鹿にした口調で言う。ラズもそんな話は聞いたことが無い。妖怪や幽霊がいるかは分からないが、それに縛られてしまうのも考えものでは無いだろうか。


「そうでござる。基本的には人々は嘘をつけないのでござる。ただ、ごく稀に嘘がつける人間がおるのでござるよ。それらの特別な人間は嘘で妖怪に命を取られておる。だから、拙者は小次郎が心配なのでござるがな」

「昨日も佐々木小次郎の名前を出していたな。まるで巌流島だ」


 田中は小次郎という人間を知っている様であるが、佐々木小次郎とは地球でも有名な人物なのだろうか。


「巌流島?」

「まあ、その事はいいさ。そんで、何で小次郎を心配しているの?」

「あやつを初めとした地球教は嘘をつける人間が集まっておるのだ。だから、あやつは、彼らを集め、嘘をつくのを辞めさせようとしておるのだ」


 武蔵の言う妖怪が存在するのであれば、嘘をつくのを止めようとするのは人として当然だろう。ここまで聞くと、小次郎という人物はまともな人間に思えるのだが、何故、グレンを強奪したのだろうか。


 暫く、一行が歩いて行くと大きな屋敷が見えてくる。それは、他の家々とは雰囲気の違うものであった。古臭さはあるものの、どこか、ソマリナの木造で作られた一軒家の作りに似ているように思えたのだ。


「大層なお屋敷が見えてきたが、あそこじゃないよな・・・」


 田中が小声で言う。門の前にいる複数人の守衛を見たのだろう。


「残念ながら、あそこでござる。地球教の総本山だから、警備体制万全でござるよ」


 武蔵の声に反応したのか、守衛の一人が、こちらに近付いてくる。どこか、いかつい風貌をした者であり、頭の後頭部以外の頭髪が剃られていた。


「ど、どうするの?」


 クレアが動揺した表情をしていた。争いの嫌いな彼女としては、敵対している男が近づいて来るのは脅威だろう。


「知人でござるよ。大丈夫」


 武蔵は頼り甲斐のある言葉とは裏腹に、浮かない顔をしているように見えた。


 守衛がこちらまで近づいて来ると、彼が大男である事を実感する。彼は武蔵を見下ろす様に睨みつける。


「おうおう、武蔵じゃないか?」

「教主に会いたいのでござるが」

「ふん。お前のような刀も持てない恥さらしに教主様が会うわけ無いじゃろう。大人しく、町外れにでも引っ込んでおれ」


 武蔵は刀が持てないのであろうか。田中の話では、侍とは刀で戦をしている人種だと聞いたし、彼自身も刀を腰に差している。ただ、それはそれで良い様に思える。その様な人を傷つける物は持たない方が幸せである。


「拙者は恥晒しではござらん。優しいゆえに刀を握れないのでござるよ。それさえ無ければ、誰にも負けはしない」


 武蔵の言葉は何とも偉そうに思えたが、思ったことを口に出してしまう、この星の特性が出ているのだろう。


「おうおう、言うな。まるで、本気を出せば、拙者も相手にならないような言い方じゃな」

「そうでござるが、そう、聞こえんかったか?」


 ここまで来ると売り言葉に買い言葉である。明らかに相手を刺激しているようにしか思えなかった。


「ここで、やってみるか?」


 守衛の男は腰の刀に手を当てる。武蔵の足が大きく震え始めるが、懸命に刀に向かい手を動かそうとする。


 ラズが止めに入ろうとしたが、突然、守衛の男が笑う。


「ははっ、冗談じゃ。教主から、お前には手を出すなと言われておるしな」


 守衛の男は少し胸を押さえながら笑うが、先ほどの雰囲気は冗談とは思えない迫力があった。


 ここの住人は嘘がつけないはずである。武蔵が震えなければ本当に斬っていたのだろうか。又は地球教の人間だから、嘘を付いたという事だろうか。


「とりあえずは、本日は教主に会わせる事は出来ん。出直せ」


 守衛の言葉はラズを落胆させた。これでは、不本意ながらも後日の奪還計画を実行するしかなくなってしまう。


 その時、田中が武蔵の横まで歩み始める。


「初めまして」

「お主は?」

「俺達は、武蔵の知人ですよ」

「時期外れな格好をしておるの?」

「暑がりでしてね。それよりも、守衛様は、明日の夜もお仕事なさる予定で?」

「いや、拙者は休みでござるな」

「いつも、お仕事が大変でお疲れですからね。他の方々もお疲れでしょう。明日は皆様、お休みされるのですか?」

「ははっ、それでは守衛がいなくなるではないか。ただ、年末の祭りに入るから、教主様の計らいで、明日から休む者が多い。皆祭りに行きたいのじゃ」


 そこまで聞くと田中は微笑する。ラズが聞いていても、この守衛は話し過ぎではないかと思い始めていた。


「お疲れさまです。また、近々、ご挨拶に伺うので。お疲れでしょうが、守衛のお仕事頑張ってくださいね」


 田中は含みのある言い方をして、守衛に頭を下げる。彼は気分が良かったのか、足取り軽く、元の仕事場の位置に戻っていく。


 武蔵の予想通りに、明日は守衛の数は少なそうである。これは大きな機会と巡り合わせてくれたものであった。

お読みくださりありがとうございます。

途中の章から入られた方は、最初からお読みいただけると嬉しいです。

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