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THE FLIES ~蠅人間たち~  作者: セクシー・サキュバス
EP.荒井 No.2
17/19

2-5 Moonlight Love Game No.3

 そこは不思議な空間だった。


 赤、青、黄――色とりどりの絵の具をぶちまけたような砂漠が、どこまでも続いている。私はそこに立っていた。


「ここは……?」

「ようこそ」


 低い女の声、その方向に――女のコラージュの絵が宙に浮いていた。

 いやらしい笑みをこちらへ向けている。

「洗礼名『ダッチェス』、『絵の蠅人間』の北城(きたしろ)と申します」


 じゃあコイツが――『ドゥルジ・シリーズ』か。

 私が構えると、北城は笑いながら言った。


「ハハハ、また一人、愚かな駆除師がきましたねぇ。しかも、今度はオカマ――まことに気色が悪い!」


 この野郎……私は北城を強く睨んだ。

 怒りを込めて、呟く。

『ゼブルの主よ、我に力を与えたまえ』

 恒例の通り、私は蠅人間の姿になった。


「は、蠅人間……?」

 意外だったらしく、北城は阿呆みたいな表情をする。


「おまえを殺すような恨みはない。だが、私とレンちゃんの為に死んくれッ!」

 私の手の中で黒い塊が出現し、それが刀に変形した。

霹靂女神(ブレイク・ジー)


「き、貴様……蠅人間なのに私を殺そうと……」

 北城の周りに大量の額縁が現れた。

 額縁は全て、空に浮いている。


「ふざけないでください。私は帝王陛下から力を賜った蠅人間ですよ。貴様如き野良蠅人間が私を殺すだなんて百年早いッ!」

描く手ドローウィング・ハンズ


 額縁から手が出てきた。

 それが私を目がけて襲ってくる。


「このッ!」刀が一つ、二つ、三つと手を斬り刻む。

 それでも、いっこうに手は減らず、むしろどんどん増えている。


「ハハハ! 私の『描く手ドローウィング・ハンズ』は無限に手を出すことが可能。貴様がいくら足掻こうとも無駄なんですよ」

 奴の言う通り、斬れば斬る程、手は際限なく増えていった。


 ついに、私の右腕は捕まってしまった。

 十本以上の手に掴まれて、動けなくなる。


「離せ……!」左手の中で黒い塊が現れる。今度は銃にするつもりだった。

「させませんよ」


 しかし、呆気なく左手も捕まってしまった。

 私は両腕を広げられて、磔のようなポーズになってしまう。


「それがおまえの実力ですか、オカマ?」

 満面の笑みで北城が煽ってきた。


「黙れ」

「ハハハ! そう言えば、貴様と一緒にいたもう一人が中々きませんね?」


 もう一人……零さん!


「おまえ、零さんに何を?」

「何もしていませんよ」

 北城はワザとらしく顔を振る。


「何もしていないのに、こないってことは――あいつ、貴様を見捨てたんじゃあないですか?」

「そんなことある訳……」

「あるんじゃあないですか」


 私を掴んでいる大量の手が私を上へと引っ張る。

 私は持ち上がって、そのまま空中に吊るされる形になった。


「あいつ、ここに入った時から不機嫌そうでしたよ。もしかして、それって」

 ――オカマと仕事なんてしたくなかったから、じゃあないですか。


「くっ……」

 触れられたくない傷に触れられた気分だった。


「そりゃあ、仕方がない。この国では誰も貴様のようなオカマなんて認めませんよ。貴様自身もそれは分かっているでしょう?」

「そんなこと……」

「分かっているから、そんな表情しているんでしょう?」


 自分の口が重く閉じられていく。

 奴の言っていることを否定したくても、口が動かない。

 奴を否定できるだけの自信がないんだ……。

 確信を持てないんだ。


「そんな……こと……」やっとのことで絞り出した声に。


「無いッ!」どこからともなくやってきた声が同調した。


 気がついた時にはもう、私を掴んでいる手が全て一刀両断されていた。

 ボタッ、ボタッと地面に手の残骸が落ちるのと、一緒に私も落ちる。


「わぁぁぁ!」

 目を瞑る。

 背中を強打することを覚悟したが、意外にも衝撃波なかった。


 ゆっくりと目を開く。

「……!」

 そこには蠅人間になった零さんがいた。

 その腕は私をお姫様抱っこのように抱えている。


「零さん……!」

「すまん、遅れた」


 零さんは私を下ろすと、両手を刃に変えた。

「奴をぶっ殺す。込み入った話はそれからだ」

「はい……!」

 私たち二人は、北城を睨む。


「き、貴様らぁ……」

 北城が呻るのと同時に、大量の手が額縁から現れた。


「それがどうした」――『後ろ髪を引く月ウォーキング・オン・ザ・ムーン

 零さんが腕を北城に掲げると。


「えっ、う、うわぁぁぁ!」

 北城がとんでもないスピードで、こっちに飛んできた。

 私は黒い塊でできた刀を、零さんは両手の刃を、構える。


「「喰らえ!」」

 私と零さんが同時に――北城を斬り裂いた。


月光完封ムーンライト・ラヴ・ゲーム


「あぁぁぁ!」北城は『X』の形に分かれて、地面に転がった。

 ビクともしない所を見ると、死んだらしい。


 零さんは北城の死体に近づくと、何かを探すように手を動かした。

 そして――。

「あったぞ」零さんは死体から何かを取り出すと、私に見せる。


 それは掌サイズの人間の赤ん坊だった。

 いや、人間の(・・・)と表現するには無理がある。

 なにせ、その赤ん坊には蠅の翅が生えているのだから。


「これが『ウジ』だ」

 零さんの声に反応してか、『ウジ』は泣き出した。

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