2-5 Moonlight Love Game No.3
そこは不思議な空間だった。
赤、青、黄――色とりどりの絵の具をぶちまけたような砂漠が、どこまでも続いている。私はそこに立っていた。
「ここは……?」
「ようこそ」
低い女の声、その方向に――女のコラージュの絵が宙に浮いていた。
いやらしい笑みをこちらへ向けている。
「洗礼名『ダッチェス』、『絵の蠅人間』の北城と申します」
じゃあコイツが――『ドゥルジ・シリーズ』か。
私が構えると、北城は笑いながら言った。
「ハハハ、また一人、愚かな駆除師がきましたねぇ。しかも、今度はオカマ――まことに気色が悪い!」
この野郎……私は北城を強く睨んだ。
怒りを込めて、呟く。
『ゼブルの主よ、我に力を与えたまえ』
恒例の通り、私は蠅人間の姿になった。
「は、蠅人間……?」
意外だったらしく、北城は阿呆みたいな表情をする。
「おまえを殺すような恨みはない。だが、私とレンちゃんの為に死んくれッ!」
私の手の中で黒い塊が出現し、それが刀に変形した。
『霹靂女神』
「き、貴様……蠅人間なのに私を殺そうと……」
北城の周りに大量の額縁が現れた。
額縁は全て、空に浮いている。
「ふざけないでください。私は帝王陛下から力を賜った蠅人間ですよ。貴様如き野良蠅人間が私を殺すだなんて百年早いッ!」
『描く手』
額縁から手が出てきた。
それが私を目がけて襲ってくる。
「このッ!」刀が一つ、二つ、三つと手を斬り刻む。
それでも、いっこうに手は減らず、むしろどんどん増えている。
「ハハハ! 私の『描く手』は無限に手を出すことが可能。貴様がいくら足掻こうとも無駄なんですよ」
奴の言う通り、斬れば斬る程、手は際限なく増えていった。
ついに、私の右腕は捕まってしまった。
十本以上の手に掴まれて、動けなくなる。
「離せ……!」左手の中で黒い塊が現れる。今度は銃にするつもりだった。
「させませんよ」
しかし、呆気なく左手も捕まってしまった。
私は両腕を広げられて、磔のようなポーズになってしまう。
「それがおまえの実力ですか、オカマ?」
満面の笑みで北城が煽ってきた。
「黙れ」
「ハハハ! そう言えば、貴様と一緒にいたもう一人が中々きませんね?」
もう一人……零さん!
「おまえ、零さんに何を?」
「何もしていませんよ」
北城はワザとらしく顔を振る。
「何もしていないのに、こないってことは――あいつ、貴様を見捨てたんじゃあないですか?」
「そんなことある訳……」
「あるんじゃあないですか」
私を掴んでいる大量の手が私を上へと引っ張る。
私は持ち上がって、そのまま空中に吊るされる形になった。
「あいつ、ここに入った時から不機嫌そうでしたよ。もしかして、それって」
――オカマと仕事なんてしたくなかったから、じゃあないですか。
「くっ……」
触れられたくない傷に触れられた気分だった。
「そりゃあ、仕方がない。この国では誰も貴様のようなオカマなんて認めませんよ。貴様自身もそれは分かっているでしょう?」
「そんなこと……」
「分かっているから、そんな表情しているんでしょう?」
自分の口が重く閉じられていく。
奴の言っていることを否定したくても、口が動かない。
奴を否定できるだけの自信がないんだ……。
確信を持てないんだ。
「そんな……こと……」やっとのことで絞り出した声に。
「無いッ!」どこからともなくやってきた声が同調した。
気がついた時にはもう、私を掴んでいる手が全て一刀両断されていた。
ボタッ、ボタッと地面に手の残骸が落ちるのと、一緒に私も落ちる。
「わぁぁぁ!」
目を瞑る。
背中を強打することを覚悟したが、意外にも衝撃波なかった。
ゆっくりと目を開く。
「……!」
そこには蠅人間になった零さんがいた。
その腕は私をお姫様抱っこのように抱えている。
「零さん……!」
「すまん、遅れた」
零さんは私を下ろすと、両手を刃に変えた。
「奴をぶっ殺す。込み入った話はそれからだ」
「はい……!」
私たち二人は、北城を睨む。
「き、貴様らぁ……」
北城が呻るのと同時に、大量の手が額縁から現れた。
「それがどうした」――『後ろ髪を引く月』
零さんが腕を北城に掲げると。
「えっ、う、うわぁぁぁ!」
北城がとんでもないスピードで、こっちに飛んできた。
私は黒い塊でできた刀を、零さんは両手の刃を、構える。
「「喰らえ!」」
私と零さんが同時に――北城を斬り裂いた。
『月光完封』
「あぁぁぁ!」北城は『X』の形に分かれて、地面に転がった。
ビクともしない所を見ると、死んだらしい。
零さんは北城の死体に近づくと、何かを探すように手を動かした。
そして――。
「あったぞ」零さんは死体から何かを取り出すと、私に見せる。
それは掌サイズの人間の赤ん坊だった。
いや、人間のと表現するには無理がある。
なにせ、その赤ん坊には蠅の翅が生えているのだから。
「これが『ウジ』だ」
零さんの声に反応してか、『ウジ』は泣き出した。




