0-1 駆除 No.1
『蠅人間』――
魔神ベルゼブブに魂を売った者の末路。
欲深い人間の前にベルゼブブは現れる。
ベルゼブブはその人間の魂と引き換えに、欲を叶える力を与える。
力を与えられた人間はほとんどの場合、力に呑み込まれ――
自我を失い、人間と蠅が混ざった異形の存在『蠅人間』になる。
そうなったら最後、欲望のままに暴れ、どこまでもこの社会を破壊し尽くしてしまう。
* * *
「この村もその被害者の一人だ」
S県のとある村の様相を目にし、思わず私は呟いた。
田園風景は真っ赤に染まり、そこら辺中に元々人間だったものが散乱している。
私の故郷でもこんな惨状は見たことがない。
この私、零イーアルはそう思った。
「あの……」
隣から弱々しい声が響いてくる。
初老ぐらいの男が心配そうに口をぱかぱか開いていた。
「『駆除師』様、お一人で本当に大丈夫なのでしょうか……?」
そういうことか。
このジジイ、私一人で蠅人間を殺せないと思っているのだな。
「馬鹿にするな」
「はぇ……?」
「いえ。まずはお話をお聞かせ願えますか?」
「あぁ、それなら……」
男は村の中央にある大きな建物を指さした。
「ここではあれですので、私の家にいきませんか?」
「では、そうしましょう」
私は了承して、男の後をついていった。
* * *
男の家。私は広い部屋に通された。
そこは床の間がある和室だった。
この国にきてから、ここまで本格的なのを見るのは初めてかもしれない。
男に促されるまま、私は座布団に腰を下ろす。
「改めまして、この村の村長の斎藤サンタロウと申します」
男改め――斎藤は私の向い側に座るとお辞儀をしてきた。
私もお辞儀を返す。
「では、今回のあらましをお話しいたします」
斎藤は神妙な面持ちになって、慎重そうに話を始める。