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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

とある呪いのお話

知りたいと思う心のうち

作者: 高月水都

本当は後に回したかったんだけど

 人には会いたくない。煩いくらい心が聞こえるから。


「はぁ」

 それでも冒険者ギルドに行って仕事を探さないと生活は出来ない。


――ミオだ。

――相変わらずいい尻だな。

――酒でぐでんぐでんに酔わせたらおいしく味わえねえかな


 ミオは自慢ではないが、成長期を過ぎてから男性から性的対象に見られる外見になった。成長期以前は全く関心を持たれなかったのだが、成長中はそんな邪な事を考える事ない仲間に恵まれたので自覚しなかったが、

――あ~。ベッドに連れ込みてぇ~

 という邪な心が聞こえてくるような日々が来て耳を防ぎたくなる。だが、耳を塞いでもこの声はどこまでも聞こえて途切れない。


 それが呪術王を倒した際に掛けられた呪いの影響だ。


「ああ。ミオさん」

 受付に行くと声を掛けられる。


「あなたに依頼が来てます」

――うらやましい。あんな美形とお話しできるなんて

 受付嬢の声に美形とあったので首を傾げる。


 依頼主で美形?

 はて、どんな奴だろうとその依頼主がいるという宿に向かう。


「やあ、ミオ」

ーー元気そうでよかった

「久しぶりだね」

――きちんと生活しているか心配だったんだ

 とにこやかに挨拶をしてくるのは、

「何やってるんですか? ヒューズで…様っ!!」

 ヒューズ殿下と言いかけて直す。


 リビア王国の王太子。ヒューズ。呪術王を倒したミオたち英雄の最大の支援者であり、英雄の一人であるガルディンの主君である。


「君に仕事を頼みたくて」

――君に掛けられた呪いも利用させてもらいたい

 心の声と口から出る声がここまでぶれない人も珍しいだろう。


「心の声が聞こえるミオ相手なんだから嘘を言っても意味ないだろう。それに偽りばかりの政治的な仕事やら有象無象な輩を相手する貴族の社交ばかりだと疲れるんだよ」

 こっちの心でも読めるのかとばかりに即答されて、じっとこちらを見る。


「君に頼みたい仕事がある。正直、君が嫌がってもこっちは命令という形で受けてもらう」

「普通……断っても構わないとか命令ではなく頼みたいとばかりに心情的な物を訴えてくると思いますが」

「そんな」

――交渉術。邪魔なだけだろう

 心の声で反論されて、確かに同意する。


「心の声が聞こえているんだ」

――誤魔化しても意味ないなら直球で告げたほうが誠意が通じるだろう

「まあ、確かにそうですね」

 溜息を吐きながら同意する。


 この方は常にこういう方だった。王太子として必要な顔をいくらでも作れるのに気さくな顔を見せる。


 ONとOFFの使い分けがすごいよね。

 と言うのはトモユキ談。


「――で、依頼内容は?」

「人を探すのを手伝ってほしい」

 と、本題に入った。





 聖ルブリアス帝国の跡地で鎮魂祭を行う事になったんだ。

 まあ、英雄を支援したのがうちの国だったから他の国の政治的な地位向上のパフォーマンスだけど。


 で、その鎮魂祭に参加するために跡地に向かったら声を掛けられたんだ。




「声。ですか……? 護衛は?」

「それが不思議な事に護衛が一人もいないんだ。で、声のした方を見たらそこにローブを纏ってフードを深く被っている二人が立っていたんだ」

――あれはどこかの民族衣装だったけど思い出せない。後で調べてみたんだけど

 ヒューズが淡々と説明をする。




「――リビア王国のヒューズ王太子殿下ですね」

「突然の非礼お詫びいたします」

 男女の二人組だった。


 頭を下げる様も特徴的で、それもどこかの民族的なものを感じさせたが、そこでも思い出せない。


「時間もないので簡潔に言わせてもらいます」

「聖ルブリアス帝国からここ2、3年で輸入した品物を使用するのをやめるように通達してください」

「できれば、回収してほしい」

「品物は美容品。薬品。一部武具。宝飾品」

 止める暇もなく告げてくる言葉に、整理が追い付かない。


「ちょっと待ってくれ。君たちは……?」

 何者かと尋ねようとしたら。


「「私は/俺はアルテの願いを叶えたい」」

「アルテ?」

「我らの復讐はアルテがすべて引き受けて死んだ。アルテの残った者たちが遺恨を残さないでほしいという願いを叶えたいが、その前にアルテのやり残した心残りを解決したい」

「手遅れになる前に力を貸してほしい」

 どこからか何かが羽ばたく音がしたと思ったら二人組は消えていて、護衛がそこに控えていたんだ。




「だが、護衛は急に目の前から私が消えていて、またいきなり現れたと言っている。夢ではないと思う」

――だが、信じなかっただろうな。キャロルがやらかさなければ

 頭が痛いとばかりに思っているのが伝わって、

「キャロルって……キャロライン第三王女ですよね。ガルディンの元婚約者」

 ガルディンが呪いを受けたら婚約破棄して、呪いが解除されたら結婚しようと目論んで目の前の王太子に論破された問題のある王女。


「あの子が、聖ルブリアス帝国から輸入した美容品を顔に塗ったとたん顔が爛れてね」

――情報漏洩しないように父上が手を回しているけど、嘘言ってもしょうがないから言うけど

 機密事項をあっさりばらしてくれて、共犯者にされていろいろと文句を言いたいが、

「聖ルブリアスですか……」

 呪術王の最初の被害国。


 滅んだ国だ。


「もしかして、私の事を調べました?」

「当たり前だろう。信用できるか調べないと呪術王の討伐に向かわせられない」

――ミオ・ブランシュ。聖ルブリアス帝国の貴族であり、反逆罪で投獄されたブランシュ伯爵の一人娘だったと言う事はね

 そこまでばれているとは思わなかった。いや、それくらい当然だろう。この王太子なら。


「ええ。幼かったから覚えていませんが、あの国は内側から腐っていました」

 きっかけはどこだったか不明。でも、あの国は呪術王が滅ぼさなくても近いうちに内側から崩壊していただろう。


 王族、貴族のぜいたくな暮らしと真逆に貧困で喘いでいる民の生活。

 それに注意していた当時の王太子の婚約者の冤罪事件。

 公衆の面々の前で婚約破棄して男爵令嬢を婚約者として宣言する王太子を止める事のない臣下。

 そして。


「かの婚約者はその王太子に肉体関係を強要されて、姫君を出産してました。それが都合が悪かった即位した実の父親に命を狙われて」

「実に自分勝手だね」

――で、その姫君がトモユキの婚約者なんだよね。かの国の残党が旗印にしないように保護してくれと先日頼まれたよ。トモユキも呪いが解けたらすぐに婚約するとは思い切り早いよね

 トモユキの呪いが解けたと報告があったが、まさかそのような裏話があるとは思ってもいなかった。


「では、その二人組を探すのと輸入品の調査ですか」

「そう。頼めるかな」

――出来れば、調べ終わったら聖ルブリアス帝国の跡地に同行してほしい

「依頼料次第ですかね」

「では、これで」

 と契約書を見せると王太子のポケットマネーぎりぎりの高額な値段だったので依頼を受ける事にした。





「これがその化粧品だよ」

――無断拝借したから

 と言われて渡される。


 ふわっ

 化粧品を手に取り、そっと魔力を紡ぐ。


 ミオは魔法使いだった。

 賢者のトモユキの知識とミオの魔法を使って、呪術王の呪いを調べて、呪術王の元まで辿り着けたのはミオの魔法が優れていたからだ。


 材料を調べる魔法を使っていくと。

「複数の生き物……いえ、種族は同じだけど魔力が少なくても四……いえ」

 自分で調べたのにすぐに訂正する。


 同じ種族の生き物を複数混ぜたと思ったけど、よく調べると似ているけど違う種族だ。


「これは……人間?」

 わずかに人間の遺伝子……魔力が分かる。


「人間っ⁉」

――馬鹿なっ!! ヒト種を使用など国際法で禁止されているぞっ!!

 魔物とか動物を材料にした道具や食材。薬品はあるが、ヒト種……獣人、エルフ。ドワーフなどは禁止されている。


「ですが、これはヒト種の魔力が」

「いや、疑っていない」

――ただ、それを材料にしたという事実に困惑しているだけだ

 困惑と言いながらもその表情は怒りを顕わにしている。


「ヒューズ殿下」

 声を掛ける。


「素直に告げた方がいいですよ」

 怒っているなら怒っていると。

 そう告げると。


「怒っている?」

――俺は怒っているのか?

「困惑ではなく、怒りであっていると思いますよ。殿下」

 無自覚だったのかヒューズに告げると。


「ああ。そうか。私は……」

――俺は怒っているんだな

 ヒューズの手がそっとミオの手に触れる。


「ありがとう」

――この感情に意味を与えてくれて

 触れられた手は温かった。


 触れられる事に抵抗はなかった。不思議と。


 心の声が聞こえるようになって誰かに触れるのも怖かった。

 ただでさえ、人の聞こえたくない声が聞こえてきて疲れてしまうのに、たまにすれ違ってぶつかってしまう人の中にはわざとぶつかって女性の身体に触れたいからという欲望を感じる声も聞こえたので怖くなったのだ。


 声が聞こえないのは悪意が一切ない心の声の主だけ。

「ガルディンの奥方は綺麗な心の主だったわね」

 触れても大丈夫だった人。


「なんの話?」

――急に言い出して、驚いたけど

 触れられたままこちらを窺う声。


「いえ……、私の呪いが解けるだろうかと」

 この心の声が聞こえる状態が辛い。


「………」

――…………

 ヒューズの心の声が聞こえない。


「ミオ」

「はい? なんですか?」

「私と結婚しない」

――俺と結婚しない?

 いきなりの問い掛けに何を言い出すのかと聞こうとして咳き込んでしまう。


「殿下っ⁉」

「世界を救った英雄に対してお礼を与えたくても上げられるものが少ないし、それに」

――その英雄が呪われているのに何も出来ない

 申し訳ないという心が伝わる。


 だからこそ告げる。

「何を、言っているんですか」

 声が震えないように。


「そんなお詫びでこちらに求婚されても迷惑ですよー。王太子なんですからもっといい相手が」

「………」

 ヒューズの返答はなかった。


「…………殿下?」

 その沈黙に違和感を感じて、そちらを覗き込むとヒューズはどこか作り物めいた笑みを浮かべて、


「そっか、そうだね」

――いい話だと思ったんだけどな

 と残念そうに肩をすくめる。


「ええ。いい話ですよ」

 だけど、それを受けられない。


「だけど、立場もありますよ」

 だから無理だとちくんと痛む心に蓋をして告げる。


「そうか……残念」

 心の声は静かだ。


 きっと、口から出た声と同じ事を思っているからだろう。


「――話を戻しましょう」

 まだ手元にある化粧品を眺めて、

「その二人組は他にも薬品とか武具とか言ってましたよね。すぐに回収して調べましょう」

「ああ。そうだね」

――すでに命令を出してあるよ

 心の声に安堵する。


「ならば、回収したものを調べましょう」

 立ち上がって、外に出ようとすると。


――そこですぐに行動に移す。民のために。それこそ貴族のノブレス・オブリージュを体現しているな。そんな君だから……

 後半聞き取れなかった。

「えっ?」

「どうしたのかな?」

 振り向くといきなり振り向かれた事に驚いたように首を傾げているヒューズと視線が合う。


「いえ、何も……」

 気のせいだったのだろう。そう思って、再び歩き出す。


 外には実はずっと控えていたヒューズの護衛が待機していて、馬車も用意されていた。




 馬車で向かった先には回収された聖ルブリアス帝国から輸入された代物が所狭しと置かれている。


「何か分かるか?」

「……調べてみます」

 近くに置かれている武具を手にして告げると同時に、ヒューズが護衛を遠ざけるのが見える。


「殿下?」

「本当は私が居ても気に障るかもしれないが、雑音は外した方がいいだろう」

――心の声が聞こえすぎて集中できなくなるのは困るだろう。護衛には君という護衛がいるから大丈夫だと納得してもらったよ

 微笑んで告げられるとその信頼が重いなと思いつつ、そこまで信頼してくれる主君に仕えられる者は幸せだろうなと思う。


 現にヒューズの臣下は皆忠誠心が高かった。


「………」

 私もその期待に応えたいと思いつつ、魔法を行うと。


 ぐるる


 巨大な生き物の魔力が襲ってくるような錯覚を感じた。

「ミオっ!!」

 ヒューズがとっさに支えてくれる。


 はぁはぁ

 呼吸が乱れる。

 汗が流れて、止まらない。

 

「大丈夫かっ!!」

――青白い。無茶をさせてしまった……

 必死な顔を見つつ、

「巨大な生き物……数頭の竜が見えました……」

 そして。


「人間の姿も……」

「…………………………そうか」

 竜。

 何で竜が見えたのか。


 竜など伝説にすぎない存在だと思っていたのに……。


「……竜と共存する国」

――そんな昔話を聞いた事ある

 思い出すかのように呟く声。


「共存……竜と……」

「ああ。人間と竜が争っていた神話の時代に竜と人間が恋をしたという物語で」

――両者が協力して作り上げた国があると

 その言葉に、

「場所は?」

 きっとそこに彼らがいるだろうと告げると。


「それは分からないが、呪術王の被害地。聖ルブリアス帝国から始まっているからその周辺だろう」

 ヒューズの考えに、

「では、聖ルブリアス帝国の跡地に行きましょう」

 かつての祖国。そして、呪術王を倒すために向かった場所。そこに足を踏み入れる事を決めた。



「だいぶ変わりましたね」

 呪術王の居城があった場所は何も残っておらず、植物が青々と茂っている。


「鎮魂祭の時にはすでにこんな感じで、呪術王が居なくなったからだろうと言われてたよ」

――呪いから解放されて植物が異常成長したのかと

 呪いから解放? いや、どちらかと言えば、誰かを看取るための埋葬のような……。


 さぁぁぁぁぁ

 強い風が吹いたと思った矢先。目の前に二人のフードを被った存在が出現する。


「ありがとうございます」

――同胞の回収が出来た

「あなたに頼んで正解でした」

――これでアルテのやり残した事は終わった

 フードを被ったまま二人が頭を下げてくる。


「あなたたちは………」

 巨大な魔力。精神が崩壊してもおかしくないほどの強さ。


 魔力を探った時と同じような。


「………もう大丈夫」

「お逝きなさい」

 二人の声にこたえるように銀色の炎がヒューズの集めた品物を燃やしていく。


「君たちは……竜と共存した存在の子孫。とか……」

――まさか、そんなはずは……

 まさかと思いつつのヒューズの声に。


「「正解です」」

 フードを外して見せる顔は人間とも竜と言えない不思議な姿。


 竜人と呼べるだろう存在。


「「私たち/俺たちはドラグニア国の生き残り。呪術王と呼ばれているアルテの同胞です」」

「呪術王……」

 では、彼らは。

 武器を構えていつでも攻撃できるようにする。


「ミオ。下ろして大丈夫だ」

――彼らに敵意はない

「ですが……」

 呪術王は世界のほとんどを支配した。


「アルテは復讐するのは自分だけで十分だからと逃がしてくれました」

――アルテにすべてを押し付けて生きてきた!!

「憎しみはここで絶たないといけないから恨むな。彼の最後の言葉です。俺たちが聞いた」

――あなたはその後のアルテの言葉を聞いたでしょうけど………

 二人の静かにあえて感情を押し殺したように告げる声と対比して怒りとか悲しみを宿している心の声。


「呪術王の関係者……」

 そこまで聞いた途端ヒューズが跪く。


「殿下っ!!」

「あなた方に頼むのは筋違いだが、呪術王の呪いを解く方法を教えてほしい!! 彼らは私が命じて呪術王を倒した。恨まれるのは……呪われていいのは私のはずだ」

――彼らが苦しむ理由はない。呪いを俺に移せないかっ!!

「殿下っ⁉」

 王太子が行う行動でも思っていい事でもない。


「やめてくださいっ」

「だがっ!!」

――君はそれで苦しんでいるだろう

 いきなり叫ばれるような心の声を聴いて、そんな素振りが全くなかったのにどうしてと困惑する。


 何でいきなり……。


 もしかして、心が聞き取れても聞こえない言葉があったのでは……。


――何で彼らが苦しまないといけないんだっ!!

――負担にならないように思っている事をできる限り口にしないと

――きっと伝わっているんだろうな。俺が……

「”ミオを損得関係なしに妻に欲している事を”……」

 聞こえた言葉をそのまま口にしていた。


 そんな。嘘。

 そんなわけない。


 そんな……。


「ミオ……?」

――どうしたのか。いきなり、ずっとばれていたはずなのに

「知らない……」

 だって、聞こえなかった。こんな声。


 信じられないと呟くと同時に。


 ぷつん

 糸が切れるような音がしたと思ったらずっと聞こえていた煩わしかった心の声が聞こえなくなった。


【誰かの事を心から知りたいと想い、限界まで聞こうと思った時】

 脳内に届く呪いの解除条件。


「あっ……」

 どう言えばいいんだろう。急に聞こえなくなった解放感。


「ミオ……」

「殿下」

 ただ呼ぶだけ。もう声が聞こえないが、こちらを心配しているのが伝わってくる。


「アルテは……」

「恨んでいない相手に解けない呪いは掛けません」

 そういう人でした。


「アルテのした事は謝罪しません。ですが」

「我らの同胞の死を冒涜する輩でない限り呪いは解けます」

 二人の後ろには二頭の竜。


「ヒューズ殿下」

「あなたのような為政者に会えてよかった」

 その声を最後に二人の姿は竜の背に乗って飛んで消えて行った。






 それから数か月過ぎた。

「ミオ。ドラグニアという国を調べてみたら情報が出てきた」

 かつて依頼を受けた宿の部屋に呼ばれたので来てみるとヒューズに告げられて、一冊の本が出てくる。


 そこには聖ルブリアス帝国が毒を使用して滅ぼしたドラグニアという小国の記載。

 聖ルブリアス帝国は、不老不死を求めて、竜の血があれば不老不死になれるという話を信じて宣戦布告もせずに攻め滅ぼした。


 いや、滅ぼしたというのは語弊がある。

「あえて生かして生き血を啜っていたそうだよ。僅かに生き残った民の話だ」

「生き残った……?」

 生きている人がいるとは思わなかった。


「ドラグニアを攻撃するのを反対して牢屋に幽閉されていた人たちがいたんだ。それに、トモユキの婚約者に接触した輩とかもね」

 彼らの話によると竜と、竜と共に暮らしていた人間の血肉を食らって、死なさないようにしていた。


「それに意見を述べた一人がトモユキの婚約者の母親だったとかね。呪術王……その時はそんな名前ではなかったそうだけど。死ぬ事ができない同胞を殺して救い、呪いを掛けたとか」

 呪術王。


『恵まれた者たちよ。恵まれなかった苦しみを知るといい』

 彼の呪いの言葉が脳裏に浮かぶ。


 あれはどんな意味があったのか。でも、

「彼はおそらく同胞を苦しめた者に復讐したかったんでしょうね。同胞の亡骸を回収したいという想いと共に」

 敵対していたから一概になにかは言えない。


 人の心は複雑なのだと思うだけ。


 だから――。

「聞こえている声は全部じゃなかった」

 あれですべて聞こえていると思うのは間違っていたんだろう。


「ミオ」

 聞こえていたのはあくまで心の一部だったんだろうな。

「ミオ」

 だとしたら……。


「ミオ」

 いきなり目の前にヒューズの顔があった。


「で、殿下っ⁉」

「やっと返事した。ずっと考え込んでいたようだけど」

 何を悩んでいたの。と聞かれて。


「特には……」

「そう。てっきり私の妃になってくれる事を本格的に考えていると思ったけど」

 揶揄う様な口調。いつでもこちらが引けるように逃げ道を用意している。


「そうですね……」

 正直、一介の魔法使いじゃ釣り合いが取れないだろうと思ったけど。


「殿下が損得勘定抜きで好きだと言ってくれるならいいですよ」

 と逆に揶揄ってみると。


「………ずるいな」

 素のヒューズの顔が表れて、恥ずかしそうに頬を赤らめて、そっと耳元でささやいてくれたのだった。

他の人の話もいつか書きたい

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― 新着の感想 ―
悪役の裏話みたいなのが出てきてるけど元からの設定なんでしょうか? 呪術王が呪ったのが復讐相手だけならともかくそれ以外も巻き込んでるから蛇足感というか後付け感がする。
[良い点] シリーズ物としても大好きです。 他のメンバーのエピソードも凄く気になります!
[一言] 目薬のような効能を持つ小説ですね… 涙で目が潤いました。 幸せになってね心に善を持つみんな……きっとなると思うけど アルテ……安らかに……
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