第17話 愛し愛される、幸せな結婚
無邪気な声でお母様、と叫ぶなりぱたぱたと駆け寄ってきた我が子を膝の上に抱いて、クローディアは微笑んだ。
その落ち着きのなさは誰に似たものか分からないけれど、時折こうして乳母の手から抜け出してはクローディアに会いに来る娘が、愛おしくて堪らなかった。
その幼い顔を興奮で真っ赤に染め上げながら、拙い言葉でクローディアに説明したことには、どうやら王子様とお姫様の恋物語を聞いた後のようで。
私にも王子様が来ないかな、と夢見るように呟いた言葉に、いつか現れるわ、と微笑んで返したクローディアは、次の質問に少し苦笑した。
「お母様は? 王子様、来た?」
「ええと、ね」
すっと目を細めて、クローディアは開いたままになっていた窓から庭園を見つめた。その一角に植えられた赤い薔薇を見つめると、クローディアは口にする。
「私は、王子様が好きだったこともあるけれど、お父様の方がずっとずっと好きなのよ」
「そうなの?」
エドガーは、まだ幼い娘との距離感を計りかねている様子だった。本当は目の中に入れても痛くないほどに可愛がっているくせに、壊してしまわないか心配になる、と言って距離をとってばかりの夫に、クローディアは少し呆れている。相変わらずクローディアには溶けるように甘いのに、どうやら他の人に対しての不器用は健在のようで。そしてそれは、幼い我が子にも当てはまるようだった。
けれどそんな感情の機微の分からない幼い娘の目には、エドガーは少しばかり怖く映っているようだった。つくづく不器用な人だと、苦笑する。
「ええ。誰よりも大切で、必要な人なの」
こてん、と首を傾けた娘の頭を撫でて、クローディアは微笑んで言う。
「私は、愛し愛される、幸せな結婚をしたのよ」
窓から吹き込んだ温かい風が、薔薇の甘い香りを吹き払って、そっとクローディアの身体を包み込んだ。
これにて完結となります。
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