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私、時永めぐる(0)は、6度目の人生を歩んでいる


 私、時永めぐる(0)は、6度目の人生を歩んでいる。


 ……。


 うん。またしてもなんだ。


 私、呪われてんじゃないかな?


 なんで私、すぐ殺されてしまうん?


 いや、ほんと、なんですぐに殺されるんだよ!?


 死の運命を回避したら、運命が殺しに掛かって来るって映画があったよね。それこそ“ねーよ”って思えるようなご都合主義的というか、ある意味アメリカンコメディみたいな調子のヒトコロスイッチな状況が襲い掛かってくるアレ。


 さすがにそこまで酷くはないけれど、なんで私は殺されるの? 事故とか病気ならともかく、なんで殺人!?


 さすがに頭を抱えたいんだけど。


 赤ん坊に戻った時、頭を抱えて苦悩していたところを例の年配の看護師さんに目撃され、またしてもちょっとした騒ぎになったけど。


 あー、うん。なんで殺されたのかって?


 いや、今回に限ってはさっぱりなんだよ。


 病気や事故じゃないのは確かなんだけれど。


 最後の記憶がおつかいの帰り道だよ。買い物用のナップザックを背負ってテクテク田んぼ脇の道(あぜ道ではなく、ちゃんと舗装してある)を歩いているところで、頭を殴られた……のかな? それで終了だよ。


 ……通り魔?


 コアにも確認してみたんだけれど、不明。


 これは私と一体化した弊害とも云える。いや、外傷とかで昏倒すると、コアも一緒に昏倒しちゃうんだよ。あの石から私の……魂? に引っ越してるみたいで、本格的に私と一心同体なんだよね。常時発動型の多重人格みたいな感じ? もしくはイマジナリーフレンド。


 周囲に人なんて欠片も見えないような感じだったから、領域を展開していなかったのが仇になったのかもしれない。消費DPを無視して展開しっぱなしにしておけばどうにか……いや、無理か。


 なにせ範囲が5メートルだからなぁ。多分、領域展開していても、防御は間に合わなかったかも知れない。


 そう考えると、車が突っ込んできたりしたら逃げられないな。これは対策を考えないといけないな。


 それはさておいて、これまでとちょっとばかり違うことがひとつあった。


 なんていうの? これまでは意識がプツリと切れた直後に、私はお尻を引っ(ぱた)かれるのが常だったんだけれど、今回はそうじゃなかったんだよ。


 うん。感覚的なものなんだけれど、意識が落ちた後、結構な間があってからお尻を叩かれて目が覚めた感じなんだよ。


 この違いはなんぞや?


 その疑問は誕生から数ヶ月後に判明した。




「主様は1週間ほど意識不明の重体。そのまま回復せなんだ」




 その4、5歳くらいに見える女の子は、我が母上の離婚により出戻った実家に引っ越した時に現れた。


 黒地に椿柄の着物に身を包んだ、白髪の女の子。その肌も髪同様に真っ白で、瞳は真っ赤。白子(アルビノ)かな?


 で、誰?


 いや、それ以前にさ、私以外の誰にも認識されていないみたいなんだけれど。


 え? 幽霊の類? お爺ちゃん家に棲みついている座敷童?


 とりあえず、赤ん坊状態の私はまともに会話不能。なので、ダンジョンコアに間に入って貰って、なんとか会話を成立させたよ。まだまともに発話できないし、ましてやテレパシーなんてものも持ち合わせていないからね。


 で、彼女は何モノかと云うと――


「ほれ、儂はアレぞ。主様が世話してくれた祠に祀られていた者ぞ」


 ……えっと、あの完全に神様由来のアノ祠? 石と鏡が祀られてた?


「そう、それぞ。力を回復させるために、お山を守りつつ寝ておったところ、いきなりとんでもない量の信仰が注ぎ込まれての。目が覚めたのよ。されど、そんな量の信仰など突然よこされても処理しきれんでな、まともに活動できるようになるまでに時間が掛かってしもうた。そのせいで主様を守れなんだ。許してたもれ」


 なんか色々と突っ込みどころがあるんだけど……あの、神様ですよね?


 神様が“主様”呼びってどういうことなの?


「うんにゃ、儂は神ではないぞ。かつては近しいところにまでは至ったがの。いまでは砕かれて元の木っ端妖怪に逆戻りしておる」


 妖怪!?


 え? なんで妖怪があんな風に祀られてたの?


「まぁ、“殺生石”などという、物騒な名前であったからのぅ。玄翁めにぶっ叩かれて、砕け散った破片のひとつが儂ということよ。

 それが主様の先祖に拾われ、なぜか祀られての」


 なにやってんのご先祖様!?


「まぁ、その時には、意思疎通できるだけの石でしかなかったしの」


 ……洒落じゃないですよね?


「神が宿っていると思われて、山を守ってくだされとな。まぁ、なんもできんし、力も戻ればそれくらいしても問題無かろうと引き受けたのよ。たいしたことは出来んぞと云ったうえでな。

 あぁ、儂は本当に木っ端な破片で、悪意だのなんだのどころか、自我もほとんど失せておったのが良かったのやもしれん。本体の方は……まぁ、まだロクでもないんだろうの」


 ……。


 え、マジ?


 つか、玉藻の前の話って、ただの伝説じゃなかったの?


 九尾の狐……あぁ、だから狐の像が。


 ん? でも信仰が云々って、妖怪が得られるようなものなのかな?


「あー、それはホレ、“鰯の頭も信心から”ということでな。そのせいか儂の性質も少しばかり変質したようだの」


 ある意味付喪神効果で本質が変わったってこと?


「おー、上手いことをいうのう。まさにそれやもしれん。まぁ、正確には儂に対する信仰ではなく、お山に対するモノだがの。儂がそのお山の霊的管理者となったようなものじゃから、間接的にそれらの信仰に浴したというところだの」


 ……なるほど? ん? ということは――


 まさに虎の威を借りる狐?


「酷いことを云わんでくれ、主様」


 布団に寝ている生後8ヵ月の私の側で正座する幼女が、悲し気な声をあげた。


 しかし、玉藻の前。ってことは九尾の狐か。


 九尾の狐の話は結構あるんだよね。それも調べていくと、同一の個体ってわけでもなさそうなんだよ。


 大陸でやらかして日本に逃げてきた九尾が玉藻の前、っていうのが一番有名だから、そのせいで九尾は一体のみって感じだけど。


 某妖怪漫画のラスボスにもなっていた白面の元ネタ的な九尾の話もあるし。それと玉藻の前はどうも別個体っぽいんだよねぇ。それをいうと、大陸の九尾と玉藻の前は実は別個体って話もなくはないんだっけね。


 と、それはどうでもいいか。


 そういえば、九尾の尻尾の八本は本物じゃなくて、妖力を貯め込んだタンク的なものって聞いたけれど、どうなんだろ?


「む? 尻尾かえ? いまはこんな感じだの」


 幼女の背後に狐の尻尾が現われた。


 あれ? 尻尾は3本?


「うむ。完全回復はしとらんのじゃ。といっても、この3本目は主様の祈りのおかげだの」


 は?


「主様の祈りと供え物で、これまでの約500年分の信仰以上のものを得たからのう。まだ処理しきれん分もあるが、それらも整理できれば、あと2本ほどは尻尾が復活できそうだの」


 いやいやいや、どういうことよ!?


《マスターは世界移動の際のエネルギーを貯め込んでいましたから。得たエネルギーを全てスキルに変換したわけでもありませんでしたので。現実改変系の能力のような破格のモノへの変換であればともかく、鑑定やマッピング程度では有り余りますから》


 おぉう、そういうことかい。その余剰分が信仰扱いで渡しちゃったのね。


《全てが渡った訳ではありません。せいぜい2割程度です。それらのエネルギー以上に、マスターの信仰心によるものが大きかったのかと。

 現在マスターの魂はこれまでの経験により、位階をかなりあげていますから》


 は?


《【理核管理者】としての防護措置がなければ、マスターは年相応の人間の肉体でしかありませんが、その魂と精神の強度は人のそれを超えています。ですので、その信仰心も強力なのです》


 ……えぇ。というか、そうなると信仰心ってどういうものなの?


《……愛、と似て非なるモノとでも云いましょうか?》


 なんか途端に胡散臭くなった!?


 えー……愛に力なんてあんの?


《限界を超えて肉体を突き動かす原動力になったりするではないですか》


 いや、確かにそうなんだろう……けど?


 でもそれって幻想じゃないの?


 脳内麻薬的なものがドバドバ出てるだけじゃない? ドーパミンとかエンドルフィンとか。


《マスター。“愛”はあくまでも例えです。そも、魔力なども自身の内で生産されているのです。それを考えれば、愛だの信仰だの憎悪だのに(エネルギー)があってもおかしくないでしょう》


 どうしよう。憎悪に関してはなんか納得できそう。人生の繰り返しを始める前は、私、相当貯め込んでたし。


「主様。なんぞ酷く殺伐としておらんか? いや、何度も殺されて人生を繰り返しているというのは、儂も分かっておるが」


 いやいやいや、玉ちゃんや、死ぬだけじゃなく、虐待……は違うな、迫害? まぁ、酷い目にずっと合っていれば、性格もスれるってもんだよ。


「た、玉ちゃん!?」


 え、だって玉藻の前様でしょ?


「いや、儂は本体ではなく、いうなれば尻尾の先っぽのようなものぞ。故に名のようなものなど持っておらぬし」


 それじゃ、“珠緒(玉尾)”と命名しよう!


「酷くないかの!?」


 でも悪い名前じゃないよ。


「そうかも知れぬが……」


 これからよろしくね。多分、本当に長いつきあいになると思うから。


 こうして私は新しい仲間を得たのだ!



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