私、川守めぐる(12)は、5度目の人生を歩んでいる
私、川守めぐる(12)は、5度目の人生を歩んでいる。
うん。前回の人生だけれど、ダンジョンを探検して、モンスターをコソコソとビーっと雷線銃で撃ってザコ相手にはほぼ無双できたんだけれど、ボス戦であっさり死んだよ。
ボスはでっかいトカゲ犬……っていうか、ドラゴンじゃないのさ! やたらとスマートだけど、どうみてもドラゴンだよ! 蝙蝠羽が生えてるし!! っていうか、スタイル的には麒麟か!?
うん。ほとんど瞬殺されたよ。
ブレス怖いね。
あんな広範囲避けられるか!!
目の前が真っ白になったかと思ったら、お尻を引っ叩かれたよ。
またしても赤ん坊だ。
あまりの事態に笑えて来て、ガチでゲラゲラ笑ってたら私を取り上げた先生がドン引きしてた。
そりゃそうか。普通は「おぎゃあ!」なのに、赤ちゃん特有のあのキャッキャッした笑い声をけたたましくあげたらねぇ。
生まれた直後に気味の悪いものを見るような目で見られて、「ヤベェ」と思ったけれどもう後の祭りだった。
だから母よ、そんな恐怖に満ち満ちた目で見ないでくれ。
さて、確認をしよう。
死に戻りをしたわけだけれど、アイテムやらなんやらはどうなってるんだろう?
《問題なく持ち越せています》
……えーっと、つまりは未来から持ってきたってことになるよね? え、どうなってんの? いや、ダンジョンコアが私にくっついてきてたんだから、分からなくもないけど。でも物品は私と一体になっているわけじゃないよ?
《ストレージは世界の時空間とは別所扱いですから》
よくわからないけど、そこに放り込んだモノは絶対的に保全されるってことかな?
《そういう認識で差し支えありません》
そ、そうなんだ。
……え、考えようによってはチート過ぎない? 唯一無二の物品とか複製? できない? 実際、【理核】は私が使っちゃったのに、また拾えたわけだし。
恐らくは今回の人生でも拾えるよ。
《ステータスを確認しましょう》
あ、そうだね。
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■杉崎――
年齢:0(42)歳 種族:人間(モンゴロイド[大和民族])
称号:【理核管理者】【格上殺し】
状態:良好
技能:【調理(初級)】【算術(初級)】【射撃(初級)】【隠形(初級)】【火魔法(初級)】【風魔法(初級)】【光魔法(初級)】
能力:【ふりだしにもどる】【現実改変】【鑑識眼】【異空門】
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前回、確認するのを忘れたんだよね。あれだけ願っておいて、なんで忘れてダンジョンでヒャッハーしてたんだ、私は。
まぁ、みるからに玩具な銃でモンスターを撃つのは楽しかったけど。『み』に濁点を付けたような音がして金色の光線(雷)が飛んで行ってさ。
でもって、色々と増えてるな。
称号の【格上殺し】は、ダンジョン深奥部でコソコソ狩りをしたからだよね。つか、チート級の武器で無双しただけだから、【格上殺し】っていうのは違うよねぇ……。
《討伐事実のみでつく称号ですから。深く考える必要はないかと》
随分と雑だなぁ。というか、この称号って向こうの世界の仕様なのかな? こっちでもなにかやるとくっつくのかな? まぁ、確かめようもないからいいか。
技能が増えた。これは……魔法を実際に使ったからかな? 火は指先に蝋燭の火程度のものを出して魔法の練習をしただけだし、光は懐中電灯代わりにやってみて、風は……なんだろ?
《ダンジョンで使用した【落下制御】と【浮揚】です》
おぉ、なるほど。
【射撃】はいわずもがなだね。
で、肝心の能力は【異空門】。えーっと……転移魔法的なものを願ったんだけど? 転移の問題点を回避できるような。あれ?
《直接的なものが手に入りましたね。これはアレです。耳を齧られたロボットのだすピンクのドアと同様の代物です。実際に扉が出現するわけではありませんが、目的地へと繋ぐ空間の揺らぎを作り出す能力となります。恐らくは、異世界間移動も可能ですが、異世界間にある“海”を渡ることはないので、エネルギーの回収は不能です》
あぁ、召喚とは違うんだね。なるほど。
そういや、レベルってあるのかな?
《ありません。あるのは技量の向上のみです。そしてその表記は技能に併記されます》
あぁ、この初級とかいうのがそうなんだね。うん。私、ザコじゃん。まぁ、あの時点だと10歳児だしね。
さてと、とりあえず今回は、中学校入学を目指そう。
【異空門】の練習もしないとね。異世界との行き来が可能なのかを確かめておこう。ダメなら、ちょっと頑張って、理核を回収した後に【現実改変】で戻ればいいや。ただ、召喚直後じゃないから、かなり疲れることになると思う。
ぶっ倒れるかな? まぁ、それで死ぬことはないだろう。
★ ☆ ★
そんなわけで、異世界召喚イベントを終わらせてきた。
【異空門】での行き来は成功していたんだけれど、予想外の問題が起きて【現実改変】のほうで帰還をすることになった。
いや、あのSAのトイレの光景を思い出せなくてね。というかさ、トイレの構造なんてどこも似たり寄ったりだからさ、上手く戻れるか分からなくなっちゃったんだよ。
なので、【現実改変】の方で戻ってきた。
でもそっちだと召喚されてからの時間経過もあって、やっぱりぶっ倒れた。1日、2日とはいえ、時間の遡行はさすがに無茶だったっぽい。
まぁ、それを予想していたから、帰る前にコアに頼んで背中とか胸に痣をつくってもらったけど。ちょっと痛いけど。
なんの為にって? いやいじめの証拠。
実際にそういった暴行を受けていたからね。【現実改変】で連中には暴行していると思い込ませて、私はのほほんとしてたけど。
つか、前回辺りからいじめがエスカレートしてんだよね。なんなんだろ?
そしてステはこんな風になった。
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■川守めぐる
年齢:10(52)歳 種族:人間(モンゴロイド[大和民族])
称号:【理核管理者】【格上殺し】
状態:良好
技能:【調理(初級)】【算術(中級)】【射撃(初級)】【隠形(初級)】【火魔法(初級)】【風魔法(初級)】【光魔法(初級)】
能力:【ふりだしにもどる】【現実改変】【鑑識眼】【異空門】【地図】
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【地図】が追加された。まさかまんまな名前の能力だとは思わなかった。
自分を中心とした地図を見ることができる。ステ画面みたいな感じ。視界の端にミニマップみたいにも出せるけど、これはなんというか、すごい慣れない。
コアがいうには、他の能力とリンクできるそうだ。敵意のあるものとか、危険性のあるものが表示されるのだとか。現状だとそういった能力はないから、ただの普通の地図だ。手に入れるとしたら次回だ。
……なんか、死ぬことにためらいが無くなって来てるな。
あ、そうそう。【算術】が中級になったよ。まぁ、そろばんの技能持越しで来ているからね。検定試験は前回までのところまではとんとん拍子だ。
あと【理核】との一体化の親和性が上がったこともあってか、私の脳みその演算能力もUPしたっぽい。
下手に頑張り過ぎると日本一とかに成り兼ねないから、ほどほどの所でそろばん塾はやめることにしたよ。
まぁ、神隠し騒動もあるから、そこで終わりにするのが丁度いいね。
あ、料理の腕が上がっていないのは、あいかわらず包丁を持たせて貰えてないからだよ。
★ ☆ ★
そうこうして12歳となりました。
そしてついに小学校卒業の日。腹立たしい卒業式も終えて、あとは母上と帰るのみ。
この日の為に、準備はしていたんだ。正確には、やらなくちゃならないことを、ひとつやらなかった。
本当は卒業式までに、学校に置きっぱなしにしていた教材を持ち帰っておくものだけど、ひとつだけ残しておいたんだ。
それは絵具箱。水入れとかはしっかり持ち帰ってあるけれど、これだけは残しておいた。
だから、私の卒業式後の恰好はちょっと変だったりする。
卒業証書のはいった筒を手に、絵具箱も肩から下げているからね。
なんでそんなことをしたのかって? それはこういうことだよ。
「卒業おめでとう」
忘れもしない腹立たしい顔で、中年女が満面の笑みを浮かべる。
そして繰り出される出刃包丁。
それを受け止める絵具箱!
盾にするために態と持って帰らなかったんだ。身近にあるもので、盾にできそうな物なんてこれくらいだもの。
そしてすかさず【現実改変】。絵具箱を貫通した出刃包丁は抜けない! お前が包丁を握っている限り!!
女が再度斬りつけようと出刃包丁を引き、振り上げる。でもそこには突き刺さったままの絵具箱。
重さはたかが知れているとはいえ、そんなものを勢いよく振り上げれば振り回されるというものだ。
なにせ、出刃包丁だけの重さと思っていたのに、抜けずに絵具箱がくっついてきたんだから。
女は仰け反り、転倒しそうになりたたらを踏んだ。
私も絵具箱の肩ひもが抜けきらなかったから、ちょっと振り回されて転けた。
そこへ周囲にいた父兄の方々が、中年女を取り押さえた。
……教師連中は本当、なにもしないな。眺めてないで生徒を護ろうとしろよ。
私が憮然としていると、急にお母さんに抱きしめられた。お母さんはボロボロと泣いていた。
「お、お母さん」
「なに、めぐるちゃん」
「びっくりしたね……」
硬い声で、引き攣ったような表情でそういうと、お母さんは一層強く私を抱きしめた。
ややあって、パトカーのサイレンの音が聞こえてきた。襲われてから5分くらいかな? 交番が学校の近くというのもあるけど、思ったよりも早い。
そして先生方はただウロウロとしているだけ。
誰かひとりくらい私たちのところへ来てもいいんじゃないかなぁ。いくら私のせいで、あんたらの評判が落ちたからってさ。どこぞの、生徒の為に暴漢に対し体を張った教師とはえらい違いだ。
この状況は名誉挽回のチャンスだってのに、この様だとさらに評価を下げるよ。マスコミはそういうの大好きだから。
……あぁ、そうか、またマスコミの相手をしなくちゃなんないのか。
そんなことを思いつつ、私はひとつため息をついた。
※0歳時の苗字が3話の時点と違っていますが、ミスではありません。たいした伏線でもないので、気にすることもないです。