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【珠緒】


 急に賑やかになったものだのぅ。


 鬼と天狗から送られてきた……我が同僚というべきか。


 まずは鬼から送られてきた鬼娘の鈴。この名は主様が付けたものじゃ。鈴鹿御前の分霊であることから“鈴”としたようだの。


 実体を持たぬ鬼、即ち現状の儂と同じような状態であるがゆえ、主様と契約をしても問題がないとのこと。


 主様の【ふりだしにもどる】の効果は異常なものじゃからな。まさに主様と一体となれるようなモノでもなければ、従者とはなれぬ。


 そして天狗より送られてきた従者の空。こちらはよりにもよって天魔の分霊ときたものぞ。


 いや、おかしいじゃろ。天魔といえば、神の端くれぞ。それが直接関わってくるなぞ前代未聞といえよう。実際、天魔は奔放な天狗共の手綱を掴むために、天狗の頭領となっている存在ぞ。なにせ天狗は完全に自然より発生した怪異じゃからな。


 鬼や九尾は生物が怪異化したものじゃが、天狗はまさに畏れのみより生まれたようなものじゃ。


 さて、儂のするべきことは、先ずは主様についてのことじゃな。


 なにせ普通の人間ではないからの。しっかりと説明せねばなるまい。


 主様について話そうとするも、ふたりが不満気な顔をしていることに気がついた。


「む? どうしたのじゃ?」

「珠緒様はずるいです」


 鈴がそういうと、うんうんと空が頷く。


「ぬ? ずるいとはどういうことじゃ? 儂はなにもしとらんぞ」

「名前が二文字です!」

「私たちは一文字です!」

「あのなぁ……おぬしら」


 儂は呆れた。名の文字数などどうでもよかろうに。主様がそなたらの背景も考えた上でつけた名前ぞ。


「これを見よ。儂の名の由来ぞ」


 頭上に文字を描く。



 【玉藻の前の尻尾】



 ふたりはそれを見て目を丸くした。


「これの最初と最後の文字をくっつけて“玉尾”。じゃがそのままの文字ではあんまりであろうと“珠緒”となっただけじゃ。

 お主等もこんな調子で名付けられたいのかの?


 例えば鈴であれば、鬼だからと“角鈴(つのりん)”とかされかねんぞ」


 さすがにそんな無体な名付けをするとは思わぬが、面倒な文句を始末するには丁度良かろう。


 さすがに鈴も顔を青くしてぶんぶんと首を振っておるの。空も同じように顔を青くしておる。


「ときに、お主等の力量はどのくらいなのじゃ? せんだっての犯罪組織との戦闘では、儂らは殆ど出番がなかったからの。せいぜい儂が派手に船を燃やしたくらいじゃからな。

 あの手作り感満載の潜水艦は、天狗共が狂喜しながら鹵獲しておったが」

「次郎坊様が魔改造するって云ってた」

「……あんなものを魔改造するより、ハナから作った方がまともな代物になろうに」

「若い衆の練習用だって」


 あぁ、なるほどのぅ。いきなり新造するよりは、適当な代物を弄りまわさせた方が安全じゃな。


 というか、昨今の犯罪組織は潜水艦まで持っておるとは。これまでいた世界とは違うのぅ。

 いや、これまでも気付かなかっただけで、持っておったのかもしれぬな。


 あの国など、まったくもって犯罪国家であったしの。


「とりあえず、名前の件は儂にいってもどうにもならぬ。主様に直談判するのがよかろう。では、我らが主様の権能について説明するぞ。儂らはきちんと知っておかねばならぬからな。とはいえ、主様は生き残ることを目的として能力を得ている故、儂らのように戦闘系の能力は持っておらぬ」

「「えっ!?」」


 儂の言に、ふたりは驚いたような声をあげた。


 まぁ、わからなくもない。主様が“できること”を、内情を知らずに外部からの情報だけで見たならば、最強無敵と云っても過言ではないからの。


「基本的に主様の能力は、生き延びるためのモノじゃ。それと、それらの能力を補助するための能力というところじゃな」


 儂はそれぞれの説明をする。これらをふたりには把握して置いてもらうほうが良いからの。主様の手の内を暴露するようなものであるが、そもそも主様の能力は暴露されたところで、それを回避、あるいは妨害する術がない代物であるのじゃ。


 身内に話したところで問題無かろう。


 主様の能力は次の通りじゃ。



 人生のやり直しをする【ふりだしにもどる】。


 状況を自在にねじまげる【現実改変】。


 あらゆる物理的なモノの真実を知る【鑑識眼】。


 距離と時間を無視して任意の場所への扉を開く【異空門】。


 自身を中心に周囲の任意距離内の地形情報を知る【地図】。


 自身を中心に周囲に任意距離内に存在する生命体情報を知る【生体探知】。


 能力を使用するために必要となるエネルギーを自身外に溜め込む【魔力増槽】。


 設定した条件を満たした場合、任意の能力を自動発動する【条件発動】。


 ……ぬ?


「そういえば、この間の異世界行きで得た能力については聞いておらぬの」

「そうなの?」

「異世界……行ってみたかった」

「行っても、胸糞悪い輩がいるだけじゃぞ。それよりも、主様のところにゆくぞ。能力について聞いておかねば」


 そうして儂らは自室で宿題をしている主様のところに向かった。






「新しい能力? あー……そういえば云ってなかったね」


 既に宿題を終えたらしく、主様は先日買った書物を読んでいるところであった。確か、スペイン史に関する書物じゃったか。鬼のやらかしがどう記されているのかを、知るのが目的のようじゃな。


「うむ。どんな能力を得たんじゃ?」

「前回、死ぬと同時に大規模現実改変なんてした結果、魔力的なものがほぼ枯渇状態になっちゃったじゃない」

「うむ。あれは肝が冷えたぞ。主様の因果を考えると、無防備もいいところじゃかならな。【ふりだしにもどる】が使用不能などと、恐ろしくてかなわぬ」

「うん。だからね、それを補う形の能力を得ることにしたんだよ。ガス欠になってもすぐに補給できるようになる能力。ズバリ【エネルギー変換吸収】」


 主様の言葉に、儂らは目を瞬いた。


 えねるぎぃ変換吸収?


「簡単にいうと、私の周囲、任意範囲にある無駄なエネルギーを、魔力だか何だかよくわかんないけど、私が能力を使うのに使っているエネルギーに変換して吸収、溜め込む能力だよ。分かりやすく例えると、くっそ暑い日の熱エネルギーを吸収するみたいな。私の周囲だけ28度にするように設定したから、夏場は冷房いらずの上、エネルギーもガンガン溜められるってことよ」


 お……おぅ?


「それは……効率的にはどうなのじゃ?」

「結構いい感じだよ。このところ夏場の気温がおかしなレベルで高いからね。35度とかが普通になってるし。実際の所、気温からエネルギー吸収できるのは夏場くらいだけれど、それでもいい感じに貯まってるよ。意外と熱エネルギーの変換効率はいいみたいに感じるよ。まぁ、夏場くらいしか活躍しなさそうだけれど」

「とはいえ、異世界転移時以外でも、エネルギーを蓄えられるのは便利であるのぅ」

「そうだね。コアから譲渡してもらうのもなんか悪いしね。私の緊急時用の為に溜め込んでるみたいな感じもするし……」


 そこで主様がなにかに気がついたように、ポンと手を叩いた。


「そういえば珠ちゃんはなにか能力とか得てるの? コアはそのまんま溜め込んでるみたいだけど」

「む。儂かの? 儂も力を溜め込むだけにしておるのぅ。そもそも儂も妖力がほぼ枯渇状態じゃったわけじゃし、主様に紐ついてから存在の有り様が変わりつつあるのでな。下手な能力を持つとどうなるか分からんのじゃ」

「あー。いまは妖怪から精霊……じゃなかった、聖なる霊のほうの聖霊になってるみたいだしね」


 は?


「え? 儂、精霊からそんなものに格上げ? されたのかの?」

「そうなんじゃない? なんか、私のステータスに【聖霊憑き】ってあるし。【妖憑き】ってのもあるけど、これは鈴ちゃんと空ちゃんのことだね」


 聖霊……聖霊のぅ……。


「最終的に儂はどうなるんじゃろ?」

「神様にでもなるんじゃない? もともと付喪神的なことになってたんだし」

「そんな大それたものには成りたくはないのぅ」

「玉様はもう信仰が集まりすぎて国津神になってるし、どうにもならないんじゃない?」


 ぬぅ。


 まぁ、神などそうそうなれるものでもなし。そもそも神格を儂が得られるとも思えんしな。信仰を集められるわけでもなし。もしまかり間違って神に至ったとしても、儂のすることことは変わらぬしの。


「珠さま、すごい。天魔様に並ぶなんて」

「さすがは先輩!」


 は!?


「ま、待て。ちょっと待つのじゃ」


 珠さまはなかろう、珠さまは。主様の本体を呼ぶ際の発音と一緒ぞ。


 儂が慌てふためいて、そのことを説明して“珠さま”呼びを却下しているのを、主様は妙に穏やかな笑みを浮かべて儂らを眺めていた。



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― 新着の感想 ―
 なろうと言うか先生の作品でも、仲間が神格化するにしても、まずは主人公からが多いけど、こちらでは仲間が。ですねぇ。
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