私、川守めぐる(13)は9度目の人生を歩んでいる
私、川守めぐる(13)は9度目の人生を歩んでいる。
順調に死亡イベントを回避しつつ、私はこれまで以上に安心した人生を歩んでいる。
とりあえず林間学校以降の3回の死亡イベントについて語ろう。
まずはいじめっ子主犯の母親による、私の刺殺事件だ。これはこれまで通り、校門からあのおばさんが入って来た時点で出刃包丁を出させることにより、周囲の父兄に取り押さえさせて終了。
……いや、本当、なんで教師共は傍観するんだろうね。実のところ、異世界から帰還後に玉様があれこれ介入して厳重注意をしたんだよね。本当はもっと過激になるところを私が止めたから注意に留まった訳なんだけれど。
それをあいつら全部無視するとか、もはや頭がおかしいんじゃないかと思えるレベルだよ。玉様、国のトップのさらに上だよ。
しかもこの世界線、日本は敗戦国じゃないから、天皇陛下は人間宣言とかしていないんだよ。その天皇陛下の上の存在となっているのが玉様だよ。
馬鹿じゃないの!?
ということで、私の卒業後、連中の未来は暗いものとなるのが確定してしまったよ。このことを公表するだけで、世間がすべて敵に回るからね。
この日本、現状、冗談じゃなしに狂信者の集まりみたいなことになってるから。表面的にはこれまでの世界線と同じような感じだけれど。
実の所さ、死亡イベントは卒業式までないから、玉様との入れ替わりも終了にするはずだったんだよ。でもそれがそのまま継続になったんだよ。玉様の希望で。
その結果なわけだから、連中には諦めてもらおう。……あの小学校、どうなるんだろ?
ちなみに、私はその間、鈴鹿御前からマンツーマンでお勉強を教えてもらったよ。
鈴鹿御前。妖術使い系の女鬼。御前なんてついていることからわかると思うけど、元は公家の人……かな? 詳しくは知らないけど。つか、この御仁もほとんど神様なんだけれど。どうなってるんだ、日本のオカルト面は。
この鈴鹿御前の分体が私の従者となった。いうなれば、珠ちゃんと同じようなものだ。珠ちゃんは九尾の分体、尻尾の一本だったわけだからね。
それと天狗の方の従者なんだけれど、これまた決まらなかった結果、天魔様が自身の分身だか眷属だかを創って、従者として送ってきた
なんだかとんでもないことになった……と思っていたんだけれど、九尾にしろ鈴鹿御前にしろ、それこそ神クラスの大妖怪なわけだから、そこに天魔様の超弱体化した分身が来たところで一緒か、と思い直した。
……そうでもしないと、延々と頭を抱えそうだ。いやだって、多分天津神の分霊だよ、この子。人間なんぞの従者になんかなっていい立場じゃないよ。
まぁ、天狗のほうは、私の【ふりだしにもどる】について来ることが出来る者がいなかったから、苦肉の策みたいなものだろうけど。
そんなわけで、私の従者枠として狐、鬼、天狗が揃った。見てくれはみんな幼女姿だ。
と、話を戻そう。
卒業式の殺人未遂事件後、これまで通り私は川守から時永と母方の姓にして祖父母の元で暮らすことになった。
でもって次に起こるのが例の強殺事件だ。
今回は事前に改変することはしなかったから、報道によって私の姿を見てトチ狂った大学生が出来上がっているわけだ。
犯人の顔はしっかりと声を掛けられた時に見て確認しておいた。天狗さんたちが暇つぶしとばかりに監視していたわけだけど、完璧に私のストーカー化していた。
アレはこれだけ世界が変化しても変わらなかった模様。本当、私の因果はどうなってるんだ? まぁ、回避しやすいからいいんだけど。
こいつにについての対処は一番最初にしたものと一緒にした。私を襲わせたところを警察に逮捕させるのだ。違いは、今回はしくじらずに肩甲骨骨折なんてことのないようにしたことくらいか。ちゃんとナップザックで金槌の一撃を受け止めたよ。……肩甲骨の代わりに醤油が大変なことになったけど。
そして次は実父による私の売り飛ばしイベントだ。
こいつも順調に起きたよ。
ただ、実父は前回とは別人だ。
私の実父となる人物はふたりいるわけだけれど、今回はもうひとりの方だ。
いや、これも不思議だよね。別人だって云うのに、私の実父となったことでその後の行動が一緒になるんだもの。
なんでふたりとも“そうだ、娘を売り飛ばして借金を返済しよう”なんて、京都旅行気分で決めますかね。
そして前回同様に珠ちゃん無双……いや、今回は鈴ちゃんと空ちゃんも加わったことで、えらいことになったよ。
あ、鈴ちゃんは鬼の従者。鈴鹿御前から一文字とって名前をつけたよ。
そして空ちゃんは天狗の従者。天狗は“空神”ともいうから、そこから空の字をとってつけたよ。……天魔様の分霊だからね。下手な名付けなんて出来ないよ。
鈴ちゃんと空ちゃんは生まれたてで力は強力と云うわけでもないらしいんだけれど、いかんせん珠ちゃんが玉様以上に強いものだから、それはもう組織の方々が哀れになる有様になったよ。
さらに悪いことに、鬼と天狗がひさしぶりの戦争じゃー! とばかりに暴れる始末。マスコミが大喜びだよ。
そして玉様はというと、お友達を使って大陸の方の人身売買組織壊滅をはじめたらしい。なんか、妲己とお友達になっているんだとか。
「大陸から逃げてきたところを保護しておったからの。いやはや、善因善果、悪因悪果とは云い得て妙じゃな。久方ぶりの帰郷にあわせ、あっちでかつての恨みつらみを晴らして来るそうじゃぞ」
と、玉様は上機嫌でケラケラ笑ってたそうだよ(珠ちゃん情報)。
あ、この世界線の我が実父は組織に殺されてた。なんか余計なことをやらかしていたのか、それとも腹癒せで殺されたのかは知らないけど。
あぁ、でも銃殺されてたみたいだから、内部抗争でも起きたのかな。他にもたくさん死んでるらしいし。
そんなわけで、世間は騒がしいものの、私のまわりは平穏だ。
さてさて、妖怪さん関連の方で非常に大きな出来事があった。
大きな、とはいっても、状況的には非常にこじんまりとしはいるんだけど。でもやりようによっては簡単に世界を滅ぼせるからね。私がやらかしたみたいに。
うん。ダンジョンコアのマスターが決まったんだ。
この選定には玉様がいくつか条件をつけた。私から聞いたダンジョンコアの仕様から、コアのマスター、いわゆるダンジョンマスターには大きな制限が掛かってしまうからだ。
即ち、ダンジョンから出られない。
私は自身がダンジョン化なんていうイレギュラーもいいところだからね。つか、【ふりだしにもどる】とダンジョンコアの契約のせいで、ダンジョンコアの中枢が私の中に引っ越しせざるを得なくなったからだけど。
とにかく、行動に思い切り制限が掛かるため、コアを誰に任せるのか問題になったのだ。
問題になったんだけれど、問題にもならなくなったという落ちもあったんだけれどね。
実は現状、一ヵ所に縛られている鬼がいたのだ。いわゆる地縛霊みたいな感じで、その場から離れることが出来ない鬼。
橋姫。
そう。その橋を渡ると男女の縁を切るという、女鬼だ。
痴情のもつれから鬼に落ちてしまった女性が大元ということもあり、縁切りの女鬼として有名だ。
最近はそれを利用して悪縁切りに来る者ばかりで、当人はかなり辟易としてしまっているらしい。
ということで、一処に引き籠ることになっても慣れているだろうということで、ダンジョンマスター候補として白羽の矢が立ったのだ。
ではダンジョンマスターとなったら、その地縛している橋がダンジョン化するのかというと、そういうわけではない。
地縛の力よりも、ダンジョンコアの占有のほうが力が強いため、ダンジョンコアと契約した時点で橋姫は自由の身となる。とはいえ、起動したダンジョンコアはできるだけ早めに設置することが望ましいものだ。
私みたいに、ダンジョンコアのシステムが心臓に引っ越しするなんてイレギュラーもいいところなんだから。
そんなわけで、橋姫はダンジョンマスターとなったと同時に、例の酒造りに邁進している妖怪の村の端に引っ越し、そこにダンジョンを造り上げた。
上物として時計台兼鐘楼を建てている。もちろん、その下にはダンジョンが広げる予定とのことだ。現状は20m四方のダンジョンが地下二階まで出来上がっているそうだ。
将来的には、血気盛んな妖怪たちのガス抜きを兼ねたレジャー施設として運用するらしい。
一応、ダンジョンマスターとしては先輩であることから、きちんと顔合わせをしていろいろとダンジョンコアの標準的な扱い方についてのレクチャーをしたよ。
主に喋ってたのはダンジョンコアだけど。
直近の問題はダンジョンコアの活動用のエネルギーだが、それは妖怪たちが頻繁に出入りをしていればなんとか賄えるだろう。それに上物となっている鐘楼はきちんとした建物で、普段は商談などに使う予定とのことだ。
外部からの人が来るのであれば、それも糧となるだろう。どの程度の頻度なのかはわからないけど。
さて、橋姫だけれども、なんというか想像していたのとちょっと違っていた。
いや、橋姫と云えばそこかしこで漫画だのなんだのに登場しているし、最近では某弾幕シューティングゲームで有名となっている。
なので、それにイメージが引っ張られていたんだけれども、実際にあったところまるっきり違っていた。
いうなれば白ギャルというやつだ。より正確には、ギャル系のファッションが好きな女子だ。
……なんか、絵巻とかに記されている橋姫からはかけ離れ過ぎていて、会った時には呆然としたよ。
なんというか、自身のアイデンティティが崩壊しかけていたところで、地縛から解放されたものだからかなりはっちゃけたようだ。
元が陰キャであるというのに、はしゃいで都内を観光したそうだ。
……秋葉原がメインだったみたいだけど。
そしてゲーマー方面の沼の深みに嵌り、ダンジョン――現状は豪華な地下室――を構築した今は引き籠ってゲーム三昧の毎日を送っている。
アトラクションとしてのダンジョンの方が形になったら、遊びに行ってみようと思うよ。




