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私、川守めぐる(10)は9度目の人生を歩んでいる


 私、川守めぐる(10)は9度目の人生を歩んでいる。


 記録上では不登校ではない不登校児な小学校4年生から5年生へと進み、最初の死亡イベントである林間学校へと突入した。


 もっとも、参加するのは玉様だ。聞いたところによると、今回のいじめは相当酷かったらしい。なんと、給食に毒まで盛られたとか。それも下手をすると死ぬような代物を。……回数を増すごとにエスカレートするのはなんなんだろうな。


 ということでだ。バス内にいるのは私に化けた玉様だ。そして私はというと、鬼と天狗と一緒に観光バスを車で追っているという状況だ。


 異世界転移の際には、私たちはバスの屋根に登る予定だ。


 異世界転移には、もちろん同行している鬼と天狗も一緒だ。


 鬼の名前は三吉さん。いまは運転手をしている。……いや、三吉なる鬼さんは聞いたこともないんだけれど。マイナーな鬼さんなのかな? というか、この鬼さん、どうみても普通に国津神だよね? 私の鑑定こと【鑑識眼】さんがそう看破してるし。国津神としてみれば力はかなり弱いみたいだけど。なんというか、見た目は普通の中肉中背のおじさんだ。そして鬼にしては妙に控えめだ。


 例の妖怪が集って酒造りに邁進している村では、営業を担当しているそうだ。


 そしてもうひとり。天狗さん。こちらは現状名無しらしい。今回の異世界行き、正確にはその際に得られる特殊能力の権利を誰が取るかでもめにもめていたところ、天狗の総大将たる天魔様が木っ端の烏天狗を指名して終わらせた結果だそうだ。


 尚、名前は今回の異世界行きが終わってから天魔様がつけるそうだ。


 天魔様っていまいち不明な存在だけれど、話に聞く限り天津神の一柱のような気がするんだよねぇ。普通に神様だよ。


 いや、こうしてみると、日本のオカルト面はいろいろと興味深いな。


 この面子で完了だろうと思っていたのだけれど、酒呑童子と太郎坊も職権濫用まがいのことをやらかして、一緒に来てしまっている。


「大丈夫なの?」

「なに、問題ない。この程度で瓦解するようなものではないわ」

「むしろ、ここで力を得ておいた方が安泰というものよ」


 あー、なるほど。配下の方が強くなっちゃったら、ヒエラルキー的に面倒なことになりそうだもんねぇ。選ばれたふたりはそんなことを考えることはない、というか、そんなことをやらかさない者として選出されただろうけど、周囲がどう動くかわからないからね。


 なんのかんので妖怪社会はシンプルで、力こそ正義的なところが強いみたいだし。


 そんな話をしながら観光バスを追うこと暫し、遂に事件のおこるSAへと到着した。


 私たちも駐車場に車を止めると、急いで観光バスの屋根へと移動する。もちろん、妖術やら魔法やらで姿を消したうえでだ。


 そうだ、これをみんなに云っておかないと。


 転移して、向こうに到着するまで、私たちはバスから一切離れることはできない。


 そう現実改変することを皆に伝える。


 だって、転移中に落っこちでもしたらどうなるかわからないからね。


「儂らはバスの外にいるからな」

「異空間などと云う異常な場所を通るのだ。落ちずにいられるというのはありがたい」


 みんなに納得して貰えて一安心だ。


 そしてはじまった異世界転移。


 うん。絶対に落ちたりしないようにしておいて正解だった。


 なんだかもの凄い暴風のなかにでもいるみたいな有様になったよ。バスの中と外でここまで違ったのか。


 驚きつつも、もちろん欲しい能力について念じることも忘れない。


 青や赤、黄などの光が時たま飛び交う真っ白な景色の中をバスは落ちて行き、そして唐突にひろい石造りの部屋へと到着した。


 落っこちるような感覚があったというのに、振動もなにも感じずに転移が終了したことが不思議に思えてならない。


 私たちはバスの上に堂々と座っているわけだが、その姿は太郎坊さんの妖術で隠蔽されている。


 下に視線を落とせば、見覚えのある腹立たしい王様の姿。


 よし。私は私のやるべきことをやっちまおう。


 私はバスから飛び降りると、祭壇の台のへと向かった。そう、デジタル化したダンジョンコアを設置するのだ。



★ ☆ ★



「どっからどう見ても麒麟じゃないか」

「いや酒呑の。麒麟としては肝心なものがなかろう」


 三吉さんが殴り倒した鱗犬、一応ドラゴンの一種であるそれの死骸を見分し、太郎坊と酒呑童子があれこれと話している。


 足りないといえば足りないか。あの足のつけ根あたりから生えている炎みたいな感じの……羽根? が無いからね。


「三吉さん、戦ってみてどうだった? アレの強さ的には」

「個体としては強力なんでしょうが、弱者しか相手にしていなかったからでしょうね。傲慢であらゆるものを舐め腐っているだけの阿呆です。だからテクテク無造作に進んで殴るだけで終わりました。拍子抜けですね」

「おー。さすが鬼さん。私、あれに頭から齧られて終わったからね」


 ……ん?


「良し、酒呑の。こやつらを殺して回るぞ」

「おうともよ」


 酒呑さんと太郎坊さんが、ガシッと拳を突き合わせる。


「あれ?」

「ふたりともやる気じゃのぅ」

「酒呑も太郎も、女神様のシンパじゃからなぁ」

「女神様の愛らしさに、里の皆が心奪われていますからね。実のところ、女神様の従者選定は熾烈を極めていましたから」

「待って。それ知らない。どういうことなの!?」

「そこはホレ、主様の見目の良さもさることながら――」

「――我らに対する色々をしていただいたからのぅ」

「えぇ……?」


 ……なにかやったっけかな? あれかな? この世界産の作物。お酒の材料にも使えるやつを地球に持ち帰ったからね。私が殺される直前まで畑で育ててた作物をストレージに溜め込んでいたんだよ。


 外来種を安易に出すのは問題だけれど、栽培さえしなければ問題ないだろう。


 もし栽培をするにしても、絶対的に問題のない方法を思いついているから安心だ。


 もはや勝手知ったるに至ったダンジョンを進み、ボスに気付かれることなくダンジョンコアを回収した。


 もちろん素手では触らず、予め用意しておいた鉛の内張りをした樹脂製の箱に放り込んだ。


 そう、このダンジョンコアこそが、異世界産の作物を栽培するための要だ。ダンジョンを作って、その中で栽培するなら外部に漏れるなんことは絶対にない。


 そう制限することができるというものだ。だから衣服に花粉がついて流出なんてこともない。


 ということで――


「ねぇ、玉様、ダンジョンコアをあげるよ。主無しどころか未起動のダンジョンコアなんてレア中のレアだよ」

「は!?」

「便利なんだよね。なにしろ大抵の荒唐無稽を実現できちゃうし。魔法を身に着けられるアイテムとかも作れるしね。まぁ、その為にはそれに必要なだけのエネルギーは必要なんだけれど、地熱でも太陽光でもなんでもいいから、そこからエネルギーを吸収できるようにしておけば色々とできるよ」

「いやあの……女神様!?」

「さらに! こいつを使えば安全にこの世界の作物を栽培できる空間を得られるよ。鈴鹿御前がやたらと気に入った果物があるんでしょ? 丁度いいんじゃない? 外来種云々を気にせず生産できるよ」

「そ、それは心惹かれるものがありますが――」

「ダンジョンコアはもう、複数手に入れておるからのぅ。……それだけ主様が人生をやり直しているという証でもあるが。じゃが主様は良いのか?」


 珠ちゃんた問うてきた。


「いらないよ。実際、なにかやる時は廉価コアで事足りるし。だからハイスペックなオリジナルのダンジョンコアはもういらないよ。というか、下手に使うと私のところのコアと喧嘩しそうだし」


《当然です。マスターの僕たるダンジョンコアは私だけで十分です!》


 憤然とした雰囲気を醸しつつコアが答えた。


 実際の所、なにかしらの問題に対するにしても、私、コア、珠ちゃんと3人で相談できるから丁度いいんだよね。ひとりだと見落としがでるだろうし、ふたりだと意見が物別れしちゃったらどうにもならないからね。


「だからそれは玉様がもっているといいよ。面倒事の解決するのに役立つよ」

「わかりました。では、ありがたく頂戴します」


「ちなみに。私はそれを使って世界を破滅させました♪」


「女神様!?」

「確認はしとらんが、世界は崩壊したじゃろうなぁ。黙示録の再現をプログラムしたわけじゃし」

「私の“死”を引き金にしておいたからね」



★ ☆ ★



 そんなこんなで、ダンジョンの最下層をひと回りして麒麟みたいなドラゴンを一掃した。


 もちろん、クラスメイトがみんな食われてからだ。


 うーむ。こうしてみると私の人間性も酷いことになってる気がするなぁ。どこかに慈悲とか落っことして来たんかな?


 ……まぁ、いいか。密な関りがあった訳でもないしね。いうなれば敵対していたようなもんだし、情も沸きようがないわけだし。


「む? どうしたのだ主様」

「いやぁ、私も非情な人間になったなぁ、と思ってね。あいつらが死んでも、なんの感慨もわかないからさぁ」

「今回は本体が代わりに学校に通っていたからではないか?」

「それもあるのかなぁ。うーん……あ、先生と顔を合わせれば少しは気持が動くかな? 悪い方にだけど」

「本体よ。女教師を含めた5人はどうなっておるのだ?」

「連行していた騎士共諸共意識を刈り取って放置して置いたぞ。今頃は女神様が設置したダンジョンコアによって拘束されておろう」

「あれどうしようかなぁ。こっちの王様とかは以前と同じにすればいいと思うんだけれど、先生たちはこの世界と無関係だしねぇ」

「連れ帰ったりなどは?」

「え、しないよ。感謝されるわけでもなし。もし連れ帰るなら、スナッチイミテーターを連れて帰るよ。でもそんなことをしたら後々面倒でしょ」

「地球の医療技術で十分人外と見抜けるじゃろうしの」


 やたらと入り組んだ洞穴を進み、再度ボスエリアへと戻ってきた。


「えっと、みんなはボスドラゴンと戦いたいだろうけど、遠慮してね。申し訳ないけど」

「何故だ? 女神殿」


 酒呑童子のおじさんが訪ねてきた。おっかない鬼だというのに、そういった圧がちっともない。本当に、気のいいガタイのでっかいおっちゃんにしか見えない。


 つか、実際気のいいおっちゃんなんだよね。こないだ肩車して全力ダッシュなんてされたけど、どういうわけだかメッチャ楽しかったし。


 もう私、実年齢はババアもいいところだってのに。


 と、ドラゴンだ。


「んとね。みんなが負けるビジョンはまったく見えないんだけれど、無傷のビジョンも見えないんだよね。多分、かなり厄介な状況に陥ると思う。私としてはそんなの見たくないんだよ。

 それにボスドラゴンなんだけれど、絶対に攻略不可能ってのを目標に作られているから、ゲームなんかに登場する理不尽ボスよりも遥かに理不尽で厄介なんだよね」


《私が全力サポートしているマスターでも勝ち目がありませんからね》


「ブレスを吐かれたら終わりだからねぇ。ブレスに耐えられてもうっかり呼吸をしたらそれで終わりっていうのは、やっぱりどうにもならないよ」

「あのブレスは酷いからのぅ。往年の怪獣映画の放射能ブレスとほぼ一緒じゃからな」

「うわ、そんな代物なんだ、あの緑色のブレス」


 私たちがそんなことを行っていると、玉様たちは顔を見合わせていた。


「相手にするのは止めた方が良さそうじゃのぅ」

「除染が面倒だ。服も処分しなくてはならんぞ」

「服を捨てるのは嫌だな。この作務衣は気に入っているんだ」


 ……おっちゃん、気にするのは作務衣なんだ。


「放射能汚染が問題です、棟梁。体の除染にどれだけ掛かるかわかりませんよ」

「誰も殴りにいくと云っとらんだろう。して女神殿、どう処分するのだ?」


 問われ、私は前回やったことを説明した。現実改変をして、ダンジョンマスターをボスドラゴンに殺させ、その後ダンジョンコアを掌握するということを。


 結果、玉様はゲラゲラと笑っていたが、他のみんなはなんとも表現しがたい表情で私を見つめていた。


「……女神殿は、絶対に敵にしてはならんな」

「確かにもっとも効率的で安全な方法だが」

「回避方法がありませんね。現実改変が強すぎてどうにもなりませんよ」

「さすが女神様……」


 ……どうしよう。無名の烏天狗君の綺麗な瞳が突き刺さるんだけど。いや、私のやってることって酷いからね。そんな純粋な目で見ちゃダメだよ。


 ということで、お腹の出た偉そうな恰好のダンジョンマスターが、ラスボスドラゴンにぱっくりと食べられて終了。


 そのドラゴンの隣を、味方認識させて私たちがダンジョンコアの安置室へと入ってダンジョンコアを掌握。これで今回の異世界転移はほぼ終了だ。



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