【玉藻】_②
女神様を入れ替わりで小学校へと通うことにした。
人の学び舎など大昔に関わった程度。現在の教育状況がどうなっているのかについては、呆れるほどの疎くなっている。
なにせ妾は江戸の世が終わってからというもの、もはや置物となっておるような有様だからの。政治的なアレコレは天狗共が暗躍しておるし、ゴリ押しの荒事は鬼どもがやりたい放題しておるし。
……酒呑の親父殿である伊吹童子殿がかなりやりたい放題しておったおかげで、スペイン帝国が崩壊したときは頭を抱えたのぅ。さすがにすべての後始末を英国に任せる訳にもいかんかったし。
あの偏在能力とか、あからさまにおかしいじゃろ。どうみても神の範疇なんじゃが? ……あぁ、いや、そうでもなければ、八岐大蛇と子を成すとかできぬか。
教育関係はおろか、ほかの物事からも離れておったからのぅ。天狗と鬼が暴れまわったおかげで、後に日ノ本を撃ち滅ぼすアメリカなる国はないも同然の有様となっておるし、大陸のほうも軒並み滅びたようなものだからのぅ。
女神様にもたらされた未来の歴史情報を下にあれこれ手を回して先手を打った結果、日本が破滅する未来が消え、妾は完全に置物となったのだ。
そして4年生へとなると同時に入れ替わった訳じゃが……。
初手からおかしなこととなった。
まず出席じゃ。他の生徒に関しては“君”や“さん”と敬称付けで呼んでおるところを、妾……いや、女神様だけ呼び捨てじゃった。
これはどういうことぞ?
本来、こういった敬称を付けることに関しては、特に決められてはおらぬとは思うが、とはいえ統一をしていないというのはおかしかろう。
なぜか妾にだけ当たりが強いしの。
ふむ。女神様は教師が率先していじめを推奨したといっておったが、さすがにこれはおかしな雰囲気がするのぅ。
そう、若干暢気に構えておったところ、洒落にならない状況になってきた。
まず、教師がテキストを読みながら教室内を生徒を監視しながら歩くわけじゃが、妾の脇を通過する際に必ず椅子を蹴飛ばす。
試験は解答に関わらず0点。そしてそれを発表し笑いものにする。
当然、そうなれば妾は馬鹿にされ、そこからいじめに発展する。
うむ。教師がいじめを推奨するという女神様の言葉は、こういうことか。
妾の状況は隣のクラスにも知れるようになっておるというのに、一向に改善される様子もない。
つまり、学校が主導しているようなものか。それとも、あの新卒教師になにかしらの権限的なものがあるのか?
いや、そもそもじゃ。新卒教師が即担任を持つものじゃったか?
ここ、公立校じゃぞ。
今更じゃが、なにかおかしくないかの!? それとも小学校だからこそか!?
天狗に頼んで調査してもらうも、いまひとつ不明。あの教師が女神様の親御様となにかしらの因縁があったのでは、と勘ぐるもそれも無し。
そもそも年代的に丁度ズレておる。接点がないのだ。
となると――
「完全に“気に入らないから”という理由だけのようですね」
烏天狗の言葉に唖然とした。それだけでここまでやるか? 二十歳をとうに過ぎた大人がたかが10歳児に? 子供の人生を破壊する勢いぞ。
そもそんな精神の輩をなぜ教師として採用したのじゃ? 途上で弾かれて然るべきではないのか!?
そして他の教師に対しても、女神様の評価に対し虚言を吐き、信じさせているとのこと。小学校では、担任がすべての教科を担当しているため、本当にやりたい放題やっているようだ。
いや、いくら“不良”であるからといって、クラス一丸となって虐待をするというのはなかろうよ。そも、それを不良と呼ぶのはおかしかろう。
これが珠殿のいうところの因果というものか? いや、本当に、女神様はどんな星の下に生まれたのじゃ!?
そしてさらなる事件が起きた。
そう、事件じゃ!
これ、妾が入れ替わっておって良かったと心底思ったことぞ。女神様であったら、深刻なダメージを負っていたであろう。ここで命を落としいたやもしれぬ。
給食に毒を混入されたのじゃ。
混入された毒は水銀。最近は珍しくなったものの、かつては体温計や温度計に使われていたもの。
その毒性の強さから、いまではアルコール系の素材が主流となっておるが、水銀系のそれらの入手はさほど難しくないものだろう。
いやこれ、悪戯とかいじめとかを超えるとるじゃろ。普通に殺人未遂じゃぞ。こんな量、人間が摂取したら死亡するじゃろ。
天狗が調べたところ、いじめ主犯格の生徒を担任が誘導したとのこと。
もはや教育者ではないな、こやつ。
珠殿がいうには、これまでの世界線ではこの担任に逃げられたそうな。正確には、異世界の王族に囲われたか売られたようであるが。
異世界とやらへ召喚された暁には、あの女教師は確実に抑えるとしよう。女神様は従来通り、ダンジョンの乗っ取りを行うとのこと。
そうして狂った状況の小学生生活を送り、遂に問題の林間学校へと向かうことになったのだ。




