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私、川守めぐる(2)は9度目の人生を歩んでいる


 私、川守めぐる(2)は9度目の人生を歩んでいる。


 無事、時永家から川守家へと引っ越したよ。


 世界の状況はもうまるっきり別世界だけれど、人々の人生は概ね前の世界と同じようだ。


 母上も元モデルだし。やっぱり騙されて私を造っちゃってるし。


 ……この辺りが変わっちゃったら私はどうなるんだろ? とりあえず、これまでの世界では実父が変更されてても私であることは変わらなかったけど。


 いや、遺伝子的には違っているんだろうけど、しっかり女で生まれてるからさ。


 世界線を移動しての人生やり直しなら、男の子で生まれてくる場合もあるんじゃないかって気もするんだよ。


 あ、でもあれだ。男と女じゃ精神構造が違うって聞いたな。


 確か、男性がもし妊娠なんてことを経験しようものなら、ほぼ確実に気が狂うらしいし。女性でもたまにいるらしいからね。自身の体内に別の生物がいるって認識になって、精神に異常をきたす人。


 ……うん。まぁ、その辺りは考えないようにしよう。答えのない疑問を解決しようと、思考をこねくり回すのは完全に時間の無駄だ。


 さて、川守家へとやってきて、少しばかりバタバタとした生活もやっと落ち着いたころ、来客があった。


 川守家にではなく、私に。






 珠ちゃん、こちらのお三方は?


「うむ。まず、この世界線における儂の本体たる玉藻の前ぞ。まぁ、殺生石となって砕かれてはおらぬから、完璧な完全体じゃな。それと、殺生石となる原因をやらかしておらぬから、ただの玉藻じゃ。

 そして後ろの大男が鬼の頭領じゃ。酒呑童子といえば主様も知っておろう?

 最後に天狗じゃな。ここにおるのは代表としてきた太郎坊じゃ」


 太郎坊って確かふたりいなかったっけ?


「主様、詳しいの。物の怪の類の事など調べておらんかったように思えたが」


 あー。珠ちゃんのこともあって、ざっとだけど調べてみたことはあるんだよ。珠ちゃんとはじめて会った人生の時にね。とはいえ、広く浅くだから、詳しくは知らないよ。


 そういえばさ、天狗になった鬼がいたと思うけど、この世界線でもいるのかな?


「あー……それならおるぞ。天狗に弟子入りして妖術を学んどるのが」


 と、鬼の親分さん。なんでも、酒造りの効率をあげるのに妖術を使っているのだとか。


 鬼なのに、なんかあんまり怖くないな。いや、図体はでっかいし、迫力も凄いんだけどさ。なんか、気のいいおっちゃんみたいな感じなんだけど。職人気質の頑固おやじみたいな感じ? 恰好もそんなだし。


 それでさ。なんで酒呑童子、生きてるの? 源氏の某に首を刎ねられたんじゃなかったっけ? さすがにそんなところまで私は弄らなかったハズだけど。


「なんでか知らぬが酒造りに邁進したらしく、ロクな悪さをせずに他の鬼を巻き込んで没頭したようじゃぞ。おかげで討伐されることもなかったようだの」


 なんでお酒? でも、あれ? 酒呑童子が討伐されたのって、玉藻の前が騒動を起こすずっと前だと思ったけど。


「討伐以前に、本体が酒造りに巻き込んだということぞ。本体は鬼に米を任せて、自身は大豆を生産しておったようじゃが」


 ……えぇ。って、一体私はどんな昔から改変したのよ。


「……儂、本来なら殺されておったのか?」


 あー、うん。神便鬼毒酒……だったかな? 人が飲めば神力を得るが、鬼が飲めば毒となる、なんていう霊験あらたかな酒を飲まされて、身動きできなくなったところを首刎ねられた。


 そう説明したら、おっちゃん、なんか頭を抱えて呻きだした。


「はっはっはっ。これでは増々玉藻殿に頭が上がらぬな、酒呑の。偶然とはいえ、お主の命の恩人ではないか」

「妾は酒を飲ませただけなんじゃがのぅ」


 巡り巡って、いろいろと予想外のことも起きている模様。これがバタフライエフェクトというやつか。


 あ、そうだ。折角だから、大雑把にどんな風に現在まで活動してきたのか教えてもらおう。そうすれば、私の【現実改変】がどれだけのことをやらかしたのか、ある程度は分かるはずだ。


 ……世界レベルでのことは、あとで世界史の参考書なりを手に入れてから確認すればいいや。


 さて、玉藻の前様。……いや、玉様でいいか。玉藻の前様とかいったら、勘弁してくださいって平伏されちゃったし。


 なんか、私、神様扱いされてるし。うん。神様扱いは忘れよう。


 玉様が私の改変の影響を受けたのは、子狐サイズの木っ端妖怪であった頃とのことだ。この事から、玉藻の前が大陸の九尾、妲己とは別個体ということが判明した。


 いや、それはいいとして。


 【現実改変】によって、私が望む現実にするべく各種知識が頭にまとめて詰め込まれたため、木っ端妖怪であった玉様は妖怪としての格が上昇。それに加え、生来の慎重な性格が加わった結果――



 ――そうだ、米をつくろう。



 いや、なんでだよ。


 確かに昔は食糧不足がデフォだったろうけどさ。口減らしなんてのが当然のようにあった時代だし。

 だから稚拙だった農業技術の改革程度に私は考えていたんだけれど、玉様、自分でそれを実践したんだよね。


 要は、突然頭に降って湧いだ出所不明の知識の検証のために。


 赤米黒米が主だった時代に白米の知識なんて放り込んだせいか、玉様がまずしたことは、一部貴族だけが食していた白米を掠め取って来ること。


 そして山奥で畑を耕し始めたそうだ。といっても、手作業ではなく、妖術を使って。


 ここまで聞いたところで、珠ちゃんが愕然としていた。本体が大変なことになっておる……と呟いたのが聞こえたけれど、聞こえなかったことにしよう。


 そして望外な量の収穫。自身の為したことに驚愕と呆れをもちながらも、そこでなにを思ったのかもうひとつの知識の検証。


 米麹を創り出し、清酒を醸造すること。


 これも成功。この時点で玉様は頭を抱えたそうだ。なぜなら、成功したということは、頭の知識は妄想でも何でもなく事実にして現実ということ。


 そして自分ひとりで日ノ本をどうにかできるかといえば、そんなのは無理無茶無謀ということ。それこそ下手をすれば討伐されかねない。


 ということで、鬼を巻き込むことを決定。いきなり酒呑童子に関わっては交渉する前に始末されかねないと、まだ交渉できそうな茨木童子と接触、酒で懐柔。


 なにしろ当時はまだ清酒なんて存在していない時代だ。あっというまに鬼は玉様と協力関係を結ぶに至った。酒は偉大なり。とはいえ、当初は信頼関係なんぞないに等しい状況だったようだけど。


 しかもそれで進んだのは酒のための米作りの方向だ。


 それが鎌倉時代の中期頃かな。


 で、鬼と米作りに邁進して10年くらいしたころに天狗が酒の話を聞きつけて合流。


 天狗の妖術が加わったことで、玉様の妖術のせいで多少おかしかった農業が、完全にとんでも妖術農業に進化(?)を遂げ、ますます収穫量があがり、酒の質も上昇。


 玉様はというと、そこから離脱して米ではなく大豆を栽培を開始。大豆栽培をする原因はと云うと、これまた私のせい。


 いや、ほら、狐→稲荷→稲荷寿司 ってことでね。狐の好物はお稲荷さん、なんてのが知識に混じってたようで。玉様、それに執着した模様。


 そう、油揚げを作るために大豆づくりに邁進したのだ!


 私のせいで稲荷寿司がとてつもなく美味しいと思い込んでしまったようだ。……いや、実際、大好物となっているそうだから、味覚的な好みも改変したみたいだ。……なんだか申し訳なくなってくるな。


 おかしいな。前回私が死んだときってお腹空いてたっけ? なんだか食を中心に改変されまくってない? どうなってんの?


 そんなわけで、稲荷寿司への執着から大豆作りに励んでいたそうだ。結果、大豆食品を大量に作り出したらしいけど。味噌に醤油、もちろん豆腐も。……納豆は無視したとのこと。


 ……。


 こんな話を聞いて、私はどういうわけだか居たたまれなくなったよ。


 つか、思っていた以上に食糧事情(量)と食事情(味)が悪かったんだね。


 まさかこれで鬼と天狗が玉様シンパになるとは……。


 んで、織田家と合流する頃には、技術面もブレイクスルーしまくってて、蒸気機関の研究を開始してたっていうし。


 要はそこまで工業技術を発展させたってことだ。


 天狗さんたちが狂喜してやらかしてたらしい。


 ……天狗って、機械とかに興味を持ってたの? どこぞの創作(?)だと、そういうのって河童じゃなかったっけ? 鬼が大工仕事が得意っていうのは知ってるけどさ。


 ま、まぁいいや。深く考えないでおこう。


 私の想定と違っていたのは、九尾だけでなく、鬼と天狗まで織田に協力したということだ。


 結果、織田家、農業工業技術爆上がり。織田領の人々の健康改善。結果戦力増強。というか、鬼と天狗が参加してる時点で負けようが無い有様。


 尚、織田信長。うつけだなんだと、若かりし頃は評判の悪い殿様であったわけだが、私が思っていた通りの御仁であったようだ。


 サイコパス。


 というと、犯罪者的な人物像を思い浮かべる人が多いだろうが、実際はそういうわけではない。そもそもサイコパス気質の人って、それなりにいるしね。


 要は、共感能力が著しく低い人だ。そして織田信長だけれど、多分、あのリンゴのロゴマークでおなじみの大企業のCEOであった人物と似たような感じであったのでは? と思ってたんだよ。数々の逸話を聞く限り。


 実際、そうであったようだ。カリスマ性抜群。でも人間性に問題アリ。という評価だ。そしてなまじ優秀だから始末に悪いというね。


 まぁ、サイコパスな人って、指導者に向いているというしね。まさにそういうことなのだろう。もっとも、その共感性の薄さから反感も買いやすいようだけれど。

 なにより、織田家の子供たちは幼少期より玉様たちを見て育ち、鍛えられてきたわけだからね。なんというか、当時のスタンダードからはかなりかけ離れた形に育ったようだ。


 織田信秀とて、各種能力の突き抜けた存在が合力してくれるとなれば受け入れるだろう。というか、3大妖怪に迫られたら受け入れざるを得ないというものだ。


 で、結果、信長に代替わりした頃にあっさりと天下統一。合戦なんてなかったんや! なレベルの無血で諸国を蹂躙――併合といったほうがいいか。戦はあったらしいけど、なんというか、降伏するための形式的な感じのが多かったとかなんとか。


 九尾が裏方、鬼が前線、天狗が諜報、なんて調子で好き勝手やろうものなら、人の軍隊なんて相手にならんて。気がつくと自国の重鎮が死んでる。領内の民は食糧事情豊かな織田の支配地へ逃亡。いるのは中間管理職ばかりなり。


 経験豊富な指導者はいない。兵力の中心となる農民もいない。これでどうしろと? 気がついたら織田家が無理ゲーレベルのボスになってましたな状況だ。


 それこそ女子レスリングの頂点に君臨していたあの方のようなものだろう。なにせ、某国に『絶望』だなんて呼ばれてたらしいし。


 で、そのまま織田家を中核に幕府を開くわけだけれど、あれこれ邪魔をしてくる貴族連中を、玉様が本領発揮と云わんばかりに面白おかしく引っ掻き回してどこの家も傀儡状態にする有様。


 ……さすが玉藻の前というべきか?


 美味しい思いさえさせておけば大人しいからの――とは玉様の言。分をわきまえない輩は惨たらしく退場させておけば、概ね平穏だったそうな。


 いや、珠ちゃんや、「恐怖政治とは正しくこうあるべきぞ」なんて云って頷かないで。


 そして権威がほぼ失墜していた皇家を復権させたことで、日ノ本は安泰になったとのこと。


 ……いや、人じゃなくて妖怪だしね。人の倫理観なんてないしね。そもそもその時代の人の倫理観なんてロクでもないしね。でもって、私の思い描いた日本にするために玉様が“恐怖”と“褒美”をうまい具合に使って人を誘導したわけだ。


 結果として、玉様=神様、ってことになったわけだ。いや、そうなるように【現実改変】で設定したわけだけど。


 まさしくそうなって、玉藻稲荷が信仰の中心となっているそうだ。


 宗教周りはもう、私の知る日本ではないな。というか、現代日本人は目に見える形での信仰はかなり薄かったけれど、この世界線ではそうでもないようだ。


 目に見える形で女神様がいるんだから、それもそうなるか。


 で、近代に入るわけだけど、英国、豪州、米帝ともに仲良しな状態。というかだ。豪州と米帝は天狗が移民して、瞬間移動で行き来できるように妖術で整備した結果、ヨーロッパからの侵略をほぼ返り討ちにしたというね。アメリカは追い出した方向かな?


 だからアメリカ北部は先住民族であるネイティブアメリカン、いわゆるインディアンなんて呼ばれてた人たちの国となっている。まぁ、移民は受け入れたみたいだけれど、宗教に関してはバチバチやりあったようだ。


 だから3大宗教はユーラシア大陸からほとんど出ることが出来なかったみたいだね。


 日本は玉藻稲荷。アメリカ……この世界はただのユナイテッドステイツは精霊信仰。豪州も同様に精霊信仰。日本人に分かりやすくいうと、八百万の神への信仰みたいなものだ。


 なんかかなりゆるい? 冠婚葬祭とかどうなってんだろ? ま、それはおいおい学べばいいか。


 あ、そうだ。お三方、折角だし、異世界にちょっと行ってみる? 日帰りになると思うけれど、麒麟みたいなドラゴンと戦えるよ。


 突拍子もなく云ったところ、3人ときょとんとしたような顔をした。


 うん。私の悪い癖だな。


 ちゃんとこれから起こる私の人生についての説明をする。


 そして改めてお誘いをしてみたところ、予想以上に食いつかれた。特に太郎坊さんは、参加者を選抜せねばならんのか、と、浮かれた直後に頭を抱えていた。


 まぁ、天狗さんたちかなり数が多いみたいだしね。それに、半ば狙った神通力が得られることも考えれば、争奪戦みたいなことになるのかもしれない。


 あぁ、いや、大天狗ごとに治めるクランがあるみたいな感じだったよね、天狗社会って。となると、各クランが代表を出す感じになるのかな。そこから選抜一名となるだろう。






 あ、いまや米帝と豪州にもクランがあるのか。どうなるんだろ?






 え、ヨーロッパにもあるの? なんで? いや、スペイン帝国がムカついたって……。なにをやらかしたんだ?


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― 新着の感想 ―
[一言]  うへ〜。  戦国時代にお狐巫女幼女神になってすごい事になった話のコミカライズした作品はあったけど、それよりひでえや(褒め言葉)
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