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私、川守めぐる(10)は、3度目の人生を歩んでいる


 私、川守めぐる(10)は、3度目の人生を歩んでいる。


 こんなことを云うと、周囲にいろんな意味で心配されるから誰にも云ったことないけど。


 1度目、2度目ともに私は酷い死に方をした。そしてこうしてまた人生が赤ん坊にまで戻っているのが何故かはさっぱりわからない。


 多分、人生をやり直しているのは、私が確認できている限り私だけだ。


 でなければ、あいつらが変わることなく同じ行動、選択をしている意味がわからない。全員ではないけれど、私と同じ目にあった者もいたんだから。


 私の、私たちの身になにが起こったのか?




 異世界転移って知ってる?




 ……うん。そんな可哀想な人を見るような目でみないでよ。


 私だってこんなこと云いたくないよ。荒唐無稽もいいとこだもの。


 でもあのSAで、バスの中で待っていた私たちに起こったことはまさにそれだったんだ。そして、3度目の今回もそうなるに違いない。


 私たち2組の乗る2号車は、1号車の出発を待っていた。先生も生徒も全員揃って席に座っている。もうすぐだ。


 運転手さんとガイドさんは外に出て、1号車の運転手さんたちとなにか話をしていた。


 その時だ。


 急に窓の外が真っ白に光って、まるで地震みたいにバスがグラグラと揺れ出した。


 私がこれを経験するのは3度目。そしてこの後どうなるのかも知っている。


 だから私は異世界転移に関して調べに調べ捲った。もちろん、リアルな情報なんてあるわけがない。


 だから調べるのは基本ラノベとネット小説とかいった創作物になる。


 馬鹿だって? そんなのはわかってるよ。でもそれ以外に調べようがないじゃない! 私、小学5年生だよ! 人生経験は30年ってことになるけど、10歳までを3回くりかえしただけの、世間知らずの小娘だかんね。


 ……いや、お母さんが離婚の、最初の男が原因のせいか、私を異様に溺愛していてね。それこそヤンデレレベルで。だからあんまり自由に動けなかったんだよね。


 それはさておいて。


 とにかく、私は席で頭を抱えて身を伏せ、ただひたすらにあることを祈った。いや、願った。


 やがて揺れも収まり、辺りが急に暗くなる。


 窓の外を見ると石造りの広い場所。周囲を円形に、海外の神殿とかにありそうな綺麗に溝の彫られた柱が並んでる。ロココ建築だかバロック建築だか忘れたけれど、そんな感じの柱。


 というか、まさにここは神殿だ。


 そしてそれこそファンタジーな映画か、もしくはカルト教団を題材にしたホラー系映画に登場するような、赤黒いローブと三角頭巾に身を包んだ面々に、いかにも貴族でございな雰囲気の者たち。


 あ、王冠を被っている、えらく痩せたこけた強面のおじさんが見える。あれが元凶となった王様だ。


 ……あぁ、前の2回を思い出すと本当に腹立たしくなってくる。


 と、のんびり観察している場合じゃない。


 バスの中は半ばパニックで、先生が静かにしろと騒いでいる。アホな男子はこの状況に大興奮していて、自分たちの殆どが、これから面白半分に殺されるだなんて欠片も思っちゃいない。


 もっとも、真っ先にトカゲ犬の餌にされたのは私だけどさ。


 窓から見られないように、再度、身をかがめる。


「ステータスパラメータスキル技能能力値鑑定」


 そして、まるで呪文のように小さく早口で発声する。


 すると目の前に、シェードグラス……黒い半透明のガラス板みたいなものが現れ、そこに白抜きで私のステータスが記されている。


 ほ、ホントにでた!? え? なんで? 前回はでなかったのに!? なんで今回は上手くいったの? 前回はステータスって云ってダメだったのに!! なにが反応した!?


 というかラノベすげぇ。想像の産物は現実だったんだ!! って、うそ。なにこのゲーム感。なにごともやってみるもんだね!


 って、驚いてる場合じゃない。え、えっと、スキル。スキルとかはあるの?


 あ、あった。


 スキルをみる。って、なにこれ? すごい無茶苦茶な代物なんだけれど!? 完全にチートだコレ。


 で、でもこれならここから逃げられる。多分。これが私の思っているような能力なら。


 もちろん逃げるのは自分だけだ。私は前回、前々回のことを忘れちゃいない。そして今回もみんなに付き合ったら、同じことになると確信してる。性格やらなんやらが、みんな()()()()とまったく一緒だもの。


 お前が喰われろって、蹴っ飛ばされて魔物の餌にされたんだ。誰が助けてなんかやるもんか。


 スキルを使うなんて、どうやるかなんて分からないけど、スキルを使うということを念頭において、どうするかを強く念じれば何とかなる気がする。


 というか何とかなって!


 そして、私は目を瞑って願い念じ――






























 ――私はトイレの個室にぽつねんと座っていた。


 便座を下ろした洋式トイレにちょこんと座ってる。目の前の扉は開きっぱなし。


 私は目をぱちくりとさせた。


 え、えっと……ここはどこだろ?


 恐る恐る個室から出る。


 辺りを見回すと、どこかの施設のトイレのようだ。個室が複数並んでいる。


 私はトイレからでると、正面向こうに人だかりがあるのがみえた。


 再び辺りを見回す。


 あぁ、ここは最後にいた場所。SAだ。うん。駐車場に止まっていたバスごと、私たちは召喚されたんだ。まぁ、私だけ逃げたんだけど。


 トコトコとバスが止まっていた場所、いままさに人だかりができている場へと進む。


 人だかりといっても、人で埋め尽くされているわけではないから、隙間を縫って中へと入ることはできた。


 そこでは、運転手さんが膝をつき、その傍らではガイドさんが立ち尽くしていた。1号車の運転手さんとガイドさんは、持ち場のバスに戻ってなにか忙しなく動いている。


 会社のほうに連絡しているのかな?


 そりゃまぁ、そうもなるかな? なにせ、バスが消えちゃったんだもの。






 それからは大変だった。警察が来てパトカーに押し込められてあれこれ聞かれた。何度も何度も同じことを。全部“分からない”で通したけど。まさか“異世界に召喚されました”なんていえるか。頭を心配されるよ。


 それにしても、子供の体力というものを考えてくれ。もう疲れたよ。


 そして目の当たりにして驚きだったのが、マスコミの事件探知能力。いつのまにやら集まって、ギャアギャアうるさいうるさい。


 あいつらは本当に他人を思いやる気持ちってないんだね。というか、多分、取材対象を人と思っていないんだろうなぁ。


 普通なら憚られるような質問とか平気でしてくるし。泣く画が欲しいんだろうけどさ。それに何故かマイクを顔に押し付けて来るし。マイクはそうやって使うもんじゃないだろう!


 まぁ、私としてはある意味都合よくはあったけれどね。




 問い:なんであなただけバスに乗っていなかったの?


 答え:忘れ物したから、お前が取りにいけと命令されたの。




 要は、いじめられていたから、バスに乗っていなかったんだ。って答えたよ。内容は嘘だけど、いじめられていたのは事実だしね。忘れ物? そんなものないよ。当然。でもいじめられてたっていう事実があれば、なくても問題ないよ。ないものを探させに行かせたと、勝手に思ってくれるもの。


 で、そんなことを答えたところ、質問の方向性がちょっぴり変わったよ。


 担任のことも訊かれたから、先生がいじめを率先してたとも答えてやった。これも事実なんだから問題ないだろう。私の成績表なんて酷いからね。まともに評定されてないから。確定0点のテストが複数枚っていう証拠もあるしね。


 あの教師はなにをしたかったんだろ?


 あぁ、でもひとつ残念なことがあるや。


 両親がせっかくあの担任を叩き潰す準備をしていたのに、すっかり無駄になっちゃったよ。


 まぁ、これから暫くは騒がしいかもしれないけど、無事に人生を歩めそうだ。




 こうして私は、3度目の人生にして未知の明日へと進むことができたのだ。


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