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私、時永めぐる(13)は、8度目の人生を歩んでいる


 私、時永めぐる(13)は、8度目の人生を歩んでいる。


 やり直し人生、長いね。長いよ。


 あ、異世界召喚イベントはちゃんとこなしてきたよ。もう面倒臭いから、ダンジョンを制圧した後、例の外付け洗脳システムをくっつけて、あのダンジョンを完璧な人類の敵に仕立て上げてからこっちに帰って来た。


 さて、明日は実父がやって来るわけなんだけれども、その動機やらなんやらが分かったよ。つか、私を死に至らしめた前回の実父とは別人なんだけれど、それでもその行動が同じというのはどういうわけだ?


《ある意味、マスターを起点に世界が分岐しているわけですから、それが遠因となっているのでは?》


 運命論的な? 私はそんなもん信じていないんだけれど。人生が決められているとかないよ? もしそうなら、私がこうして生きていることがおかしいと思うんだけど。


 うん。召喚イベントで死んでないとおかしいってことだからね。


《だからこそ、やたらと殺されているのでは?》


 ……勘弁してよ。え、マジで運命が私を殺しに来てるってこと?


 あれ? でもそれなら、あの女とかストーカーを回避することは失敗しないとおかしいんじゃない? イベントと考えたら、潰すことはできないと思うんだけれど。


 あの女。卒業式に私を殺したあの女。ちょっと現実改変をしたところ、まったく安全に助かった。


 いや、あれって私の目の前にまで来るのを許したから私はあっさり殺されたり、危ない目にあったわけじゃない。


 だから、あの女が私の所に来る前。校門を通ったところから包丁を取り出して、いかにも狂気じみた顔で歩いてくるように現実改変をしたんだよ。


 もちろん、私の所に辿り着く前に他の父兄の皆さんに取り押さえられた。そして教師共は仕事をしなかった。


 ……ははは。いまさらながらに自分のアホさ加減に思い知ったよ。わざわざ絵具箱の現実を改変して、それで出刃包丁を受け止める必要なんてなかったんや。


 あははははは。はぁ……。


 で、ストーカー。私を金槌で殴って、さんざん犯して殺したアレ。今回の人生では【魔力増槽】の性能確認も兼ねて、これまでは出来なかったレベルで【現実改変】能力を使って性癖の改変を行ってみたんだ。


 うん。成功した。


 数年前に遡っての改変に加え、更にはこれまでできなかった永続的な改変を、【魔力増槽】に溜めこんだエネルギーのおかげか問題なく完全に改変できた。できてしまった。結果として、私がアレに襲われることはなくなった。


 またエネルギーを溜めるのにどれだけ時間が掛かるのかは不明だけど。どの程度使ったのか把握できてないからね。少なくとも、丸12年……じゃないや、24年分で数年前の事象に干渉できることがわかった。


 とはいえ個人の性癖改変だから、かなり限定的であったからこそエネルギーをさほど必要としなかったのかもしれないけど。まぁ、それでもこれまでは出来なかったことだ。


 具体的にどうしたのかを話そう。


 その男だが、事件の報道を見て私に執着したってことだから、その報道で私と一緒に映っているモノに性的対象を移行させた。


 そのモノとはマイク。マスコミの連中が、私の顔やおでこにぐいぐいと押し付けて来たアレだ。


 そう、奴はマイクフェチとなって、各種いろんなマイクを買っては自慰行為に耽っているようだ。マイクをどう使っているのかなんて知らないし、ヤツのお尻事情なんて知りたくもない。

 

 そしてマイクを買いあさる資金のために、クッソ真面目に働いている。


 ……私、世の中に貢献してない? ある意味、危険人物を真人間にしたよ。いや、真人間といえるのかこれ? でも人畜無害にはなったと思うよ。


 あ、それならあのクソ教師に対して改変しておけばよかったか。そうすればいじめ自体を失くせてたんじゃないか? いや、それだと異世界転移イベントから帰還した際の言い訳が面倒臭いか。アレはあのままでいいや。


 本題のほうに戻ろう。


 私の実父のことだ。


 アレの対処に関してだけれど、対策を立てようにもどうにも情報がまったく足りない。ということで、あれが叔父さんに蹴りだされた直後から、テントウムシドローンで監視をすることにした。


 産婦人科にいる間に衛星を打ち上げたりとかして、監視体制をしっかり作り上げたんだよ。


 衛星軌道上にブラックナイト衛星が復活(都市伝説となっている衛星。かつては確認されたらしいけれど、現在では確認されていないとされている)したことになっているんじゃないかな。同じ形にしたし。


 あ、もしかしたらふたつに増えたことになってるかもしれないね。


 この衛星は、前回の人生で異世界にいる間に色々と作っておいたもののひとつだ。ドローンのホストとして使用している。


 それで情報を掻き集めたんだけれど……。


 うん。端的に云うと、アレが私に云ったことは全て嘘。私を借金返済の為に売り飛ばそうとしたみたいだ。


 なんでそんなことを思いつかれたかというと、報道で知った娘である私が美人だったからだ。


 ……原因はダンジョン・コアだね。


《……私は悪くありません》


 えーっと、私の知らない事実もいくつか分かったよ。


 我が母。芸能関連の人だった。モデルをやっていたみたいなんだよ。ただ、所属していた事務所の運営を暴力団がしてたんだけど。


 で、実父、そこでマネージャーをしていたんだよ。あ、もちろんその筋の人間だ。下っ端だけれど。


 その事務所はというと、所属のタレントを売り出して、TVでの露出もある程度できるようになったところでAVの方に転向させて――なんてことをしていたんだよ。


 まぁ、母上はそうなる前に、その事務所が警察の手入れで潰れたおかげで助かったわけだ。

 ところが担当マネージャーに引っ掛かって結婚して私を作っちゃったというね。


 いや、なにをやっているんだ母よ。人を見る目が無さ過ぎじゃないかい?


 さて、モデルなんてしていたくらいだから、我が母は美人だ。それは私も思っている。ちょっとした私の自慢だ。


 なので、母の血を引いている私も、それなりに顔が整っているようだ。自覚はないんだけど。ただね――


《マスターの見目を麗しくするのは私の義務です》


 ……なんか、私に内緒でアレコレやってたみたいなんだよね。いわゆる美容的な? 


 もともと私は容姿に関しては無頓着だったんだよ。つか、小学生から美容云々にこだわるのは、よっぽどの子だと思う。


 まぁ、私はというと、もう実年齢? は90なんだけどさ。


 ってことで、偏見とかそういったものを脇に退けて、自身を客観視しようとメイク(というより変装、肌を白くして髪を金髪、瞳は青って具合で、いわゆる2Pカラー的にした)をコアにしてもらって、鏡を見たんだよ。


 頭を抱えたくなったよ。なんだこの美少女。こんなのトラブルしか呼び寄せねーよ。


 その実例があのストーカーだよ。でもって、今回の実父だ。


 そう、実父。


 私が芸能事務所に呼び出されたことからも察せると思うけど、実父、離婚後またしてもその筋の芸能事務所で働いていたようだ。というか、バックにいるのは同じ暴力団かな?


 でもって借金漬けになって、私を売り飛ばしたわけだ。でも私は未成年ともあって、商品として利用するにも年数が掛かる。


 ってことで、非合法の方で売り飛ばそうとしたみたい。いわゆる人身売買。


 ……暴力団って怖いね。つか、現代の日本で人身売買なんて行われてるなんて夢にも思わないよ。せいぜい不当契約で縛って、風俗で働かせるとかいうくらいだと思ってたから。


 しかしこれ、どうしようね。


 都合よく警察の手入れが入る、ってことにも出来なくはないけど、正直、それだと面白くない。それ以上に、またしても私が報道されるというのは願い下げだ。


「呼び出されたあのビルに行く前に、始末してしまえば良いのではないかの?」


 うーん……。できれば殺人はしたくないんだよねぇ。あっちにいた時は、殺人なんて一応違法だけど、ほとんど合法みたいなものだったからやらかしてたけど。


 冗談抜きに、人の命がパン半切れ以下だったし、あの世界。どんだけ酷いんだよ。差別もそうだし。そのせいでほとんど現実改変使いっぱなしでトラブルを躱さなくちゃならなかったんだから。


《さすがにそれは……。マスターが関わらずに、連中に破滅してもらうということですよね?》


 うん。そうなんだけど。とりあえず学校で父親には会うとして、呼び出しはすっぽかすことにしよう。


「うむ。それがよかろう。それがよい。うん」


 ……珠ちゃん、なんだか随分と頷いてるね。


《珠緒さんはあのビルに入れませんからね》


 あ……そうだ!


 コアのいまの言葉でひとつ思いついた。名案かどうかはわからんし、それでどうにかできるかわからんけど。


 お札だけどさ、貼られてないことにしたらどうなるだろ?


《は?》


「は?」


 いや、現実改変でさ、あのビルに御札が貼られない、或いは適当な時期に剥がされた、もしくは貼られている御札が全てインチキ、とかできると思うんだよ。


《あー》


「あー」


 どうだろう?


《正直、なんとも。結局のところ、連中をどうにかしたところで、後始末の問題がありますし。なによりその場合、背後の暴力団もどうにかせねばなりません。

 実際、それはどうにでもできますが、排除した場合の影響がどうなるかわかりません》


 どういうこと?


《あの手の組織はそこら中に影響を与えています。それをまるごと潰した場合、他の組織がのさばって来るだけです。ここを縄張りとするために、ここで争いを始めるでしょう。

 その場合、警察機構を取り込んだ組織が勝つでしょうが》


 うーわぁ……。えぇ……。ここもそんな感じなの? 田舎なのに?


「あー……田舎だからこそ、であろうのぅ。ま、都会であれば田舎以上に裏事情は酷いことになっておろうが」


 うーむ。どうしよう。


《マスター、申し訳ありませんが。もう一度報道にさらされましょう》


 なんですと!? なんで!? ヤなんだけど!? 異世界イベントの一回でたくさんなんだけど!!


《色々と考えたところ、その方が楽です。幸いマスターは人生をコントロールできます。少なくとも、中学2年にあがるまでは》


 まぁ、なにが起こるのか知ってるし。


《かの芸能事務所は人身売買や不当契約を行っている犯罪事務所です。当然、他の被害者もいます。マスターの呼び出された当日に事件を起こし、事務所の連中を全て警察当局に捕縛させましょう》


 え? え? え?


《珠緒さん》


「ん? なんじゃ?」


《他人に化けることはできますか?》


「そのくらいならお安い御用ぞ。じゃがそれなら、ホレ、あの“すなっくみみいてた”で十分でないのか?」


 いや、珠ちゃん。“スナッチイミテーター”ね。


《あれは記憶データを吸いださなくては単なる動くマネキンでしかありません。まるで融通がききません。珠緒さんにはマスターに化けてもらい、中で薬を盛られた後、恐らくは移送されますのでその先で暴れて戴こうかと》


「ほう。……ふむ、じゃが、主様に化けずとも良いのではないかの?」


《どういうことです?》


「他の被害者に化けて連れ去られる、というのはどうじゃ?」


《なるほど。それならマスターにはなんの害もありませんね》


 ……質問。


《なんでしょう、マスター》


「なにか問題でもあるかの?」


 いや、さっき提案しておいてなんだけれどさ、あの土地、大丈夫だよね? 厄介な土着神とか氏神とかいないよね? 祠とかは見当たらなかったけどさ。

 もしいたらそれに災厄でも起こしてもらって、連中を祟ってもらう?


「それも面白そうかもしれんのぅ。他所に被害が出んようにせねばならんが、儂と主様、そしてコア殿が居るのだ、力任せでどうにでもなろう」


《こちらの世界の、いわゆるオカルト関連に関してはいまもって不明な部分が多いですからね。珠緒様のおかげもあって、ある程度はアプローチできるようになりましたが》


 やっぱり難しいの?


《世界の基本は一緒ですが、そこを覆っている論理が違っていますから。簡単にいうと魔法関連ですね。そもそも世界――星を管理している神が違いますからね。神の個性とでもいいましょうか、その違いを埋めることができていません》


 あ、神様って、本当にいるんだ。


《存在します。しますが、人の捻りだした宗教における神とはまったく違うものです。どちらかというと、原始宗教、自然崇拝における神に近しい存在ですね》


 私を殺しに来ている存在……?


《それは有り得ません。我々のことなど、神からすれば雑事ですらありません》


 あ、本当に世界を管理しているだけなんだね。


 え? ってことは、私の運が悪いだけってこと?


《いえ、世界を分岐させた反動が、死につながる不運という形で来ているのではないかと》


 そういうことかぁっ!! やっとこないだコアが云ってたことの意味が分かったよ。ってことはさ、今後、私が殺されて人生をやり直すたびに、変な不運と云うか、この場合は因果か、それが降りかかるってこと?


《そうなりますね。少なくとも、寿命で肉体の命が尽きるまではそうなるでしょう。ご安心ください。肉体の限界に至ると同時に、マスターを新たな体へと移行しますので。その時点で因果から逃れられると思われます》


 あー、不死化の話もしてたっけね。そうなると、新しい身分とかも作らなくちゃいけないのか。……現実改変でどうにかなるかな。


「主様、先の話はひとまず置くのがよかろう。まずは明日の対策をせねば」


 あ、そうだね。とりあえず、あの建物の土地になにか居るのかを早急に確かめよう。細かいところはそれからだよ。


 時間はもうあまりないけど、できることはやっておかねば。


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