私、川守めぐる(10)は、7度目の人生を歩んでいる
私、川守めぐる(10)は、7度目の人生を歩んでいる。
ということで、召喚イベント発生中。
私はバスから降りた直後から、やる予定の事をテキパキと行っているよ。
うん。今日のこの日の為に、いかにしてこの腐った連中を地獄に叩き落とすかを計画していたからね。
さて、私は【理核】を計5個入手している。内ひとつは私と一体化して、私にとってもうかけがいのないパートナーとなっている。
そしてその後に入手した4つ。よくよく考えたら、これも手で持ったりしたんだから、契約だか何だか起きそうな気がしていたんだけれど――
《契約に関しては私が阻止しました。マスター旗下の【理核】は私だけで十分です》
コアが契約を阻止していた模様。……独占欲? まぁ、増えすぎても困るから、これで問題ないけど。
話を戻そう。
偉そうな……というか、この世界、この国では一番偉いのだろう王様があれこれ私たちに云っている。
どう聞いてもロクなことじゃない。そもそも言葉が違う。私以外には通じていないのだから、あの演説は自己満足でしかない。そして言葉が通じない=野蛮人という考え自体が傲慢だ。それでここの連中の程度が知れるというものだ。
そうやって自己満足に浸った演説じみたものを尻目に、私は祭壇っぽいところに向かい、【理核】を隠すように設置。
この【理核】はコアの配下として調整されており、コアの端末とでも云うべきものになっている。
この神殿じみた建物は、ダンジョンの上に蓋をするように設けられた保養所のようなものだ。その使用目的は、日本の施設で分かりやすくいうと、鹿鳴館?
うん。悪趣味だよね。やってることを考えると。自国の王侯貴族はもとより、諸外国の外交貴族をもてなす場所だ。もちろん、宿泊もできる。
今回のように子供が釣れた場合は殺戮ショー(場合によっては売却)。妙齢の子女が釣れた場合は……ま、分かるよね。もちろん、男女関わらず“使われる”らしいよ。
さて、そんな施設だけれど、ダンジョンの一部ではない。だから、ここに【理核】を設置してダンジョン化してしまおうというわけだ。
そうすれば、ここはコアの支配下となり、もう連中は外へと逃げることなどできなくなる。
尚、端末とした【理核】だけれど、コアがあれこれブラッシュアップ(魔改造)して、そこらのダンジョンコアよりも遥かに高性能になっている。設置された周辺の掌握、即ちダンジョン化する速度が尋常ではなくなっているのだそうだ。本来ならこの施設全体のダンジョン化には数年を要するらしいが、コアが改良した【理核】であるならば、1時間前後で掌握できるとのこと。
《日本のデジタル技術は実に素晴らしいです》
……そら各種情報処理をスパコン並にすれば、もとの生物並の処理能力と比べ物にならないよ。曖昧さの処理であれば、脳味噌の方が上かも知れないけど。
そんなわけで、設置を終了させたところでしれっとクラスメイトの列に加わり、転送の魔法陣で最深層へ。
もちろん、クラスメイトたちも連中も私がいることは認識していない。彼らの現実はすでに改変済みで、私はいないことになっている。
ということで、最深部到着。
上じゃ順調に施設のダンジョン化が進行(侵攻)中。気がついた時にはもう逃げられないよ。なにせ真っ先に外縁に手を伸ばして、そこから支配下においていく算段だからね。
いつものトカゲ犬の脇を通り抜けてと。アイテムボックスから暗視スコープを取り出して装着。
武器は例のおもちゃみたいな雷線銃。
よくよく考えたら、雷って基本的に撃ちだすことってできないんだよね。放電しちゃうから。だから、これって実際何なの? とコアに尋ねてみたんだよ。
《荷電粒子砲です。光線の色は演出です》
……とんでもない答えが返って来た。ま、まぁ、自分に撃ったりしなければ大丈夫だろう。
それに今回は、珠ちゃんが無双してるし。
さすがは弱体化しているとはいえ狐の大妖怪。いまは大人の姿に変化して、火の玉……狐火をこれでもかとぶっ放している。炎色は赤色ではなく黄色。一番最初は青色だったんだけど――
「ふむ。これでは過剰だの」
と、トカゲ犬を丸焦げにした後にそういって、次のトカゲ犬には白色の炎。
炎の温度を下げていって、現状の黄色で落ち着いたようだ。ちなみに3000~4000度くらいだそうだ。
そういや、洞窟内で炎を使うと酸欠を起こすっていうけど。
《ダンジョンでは問題ありません。空気の調整は管理されています。配置モンスターのこともありますから》
なるほど。
そんなこんなで、ダンジョン最下層を珠ちゃんとお散歩気分で蹂躙して回る。
そういやこのトカゲ犬、一応はドラゴンなんだよね。ゲームとかだと、ドラゴンのお肉は美味しいっていうけど、どうなんだろ?
《毒です》
は?
《そうそう死に至ることはありませんが、毒です。地球のウナギの血と似たようなものです。ただ、ウナギの血と違い、熱に強い毒性であるため、食用とするにはかなり困難です。
別種のドラゴンであれば、食用可能なものも存在します》
あー。血が毒だから、毒抜きができないようなものなんだね。
《報告です。マスター、生き延びた彼らがボスエリアへと到達しました》
「お、やっとついた? わざわざ道なりに灯りを点けておいたのに、時間が掛かったね」
「真っ暗な中、あちこち彷徨っておったのであろ?」
「普通ならとっくに死んでるよね。今回は珠ちゃんが張り切って無双してたから、連中がモンスターに遭遇しなかっただけで」
「うむ。堪能したぞ」
ストレス溜まってたんかな。すごい晴れ晴れとした顔をしてるよ。
……見てくれはもう、ちょっぴり儚い雰囲気の美女だ。傾国の美女ってこんな感じなんだろうな。妖艶な感じだったら、国を傾ける前に疑われそうだし。
それはどうでもいいとして。
それじゃ、ボスエリアへと行こうか。
ボスエリア入口へと到達。エリア周囲のネコ走りの部分ね。丁度正面に、クラスメイトたちがいるね。えーっと……5人……いや、6……7人か。思ったより生き残ってる。
「うーむ……少々張り切り過ぎたかのぅ?」
「思うんだけど、みんなで集まって逃げて、ひとりずつ生贄出してトカゲ犬を回避してたんじゃないかなぁ。珠ちゃんが駆除して数が激減したといっても、遭遇しなかったわけじゃないだろうし」
「は?」
珠ちゃんが目をパチクリとさせて首を傾げた。
……清楚系美女がやると破壊力が凄いな。
思わず呆けそうになるところを留まり、私は珠ちゃんに答えた。
「1回目の私の人生の時は、まっさきに「餌になれ」って云われて蹴っ飛ばされたんだよ。でもって、トカゲ犬に頭から丸かじりされた」
「よし。あやつらを殺そう。今回は罪を犯しておらぬが、それは主様自らがそれを回避したからぞ。そうでなければ同じことをしたハズじゃ」
「いや、どうせこれから死ぬんだから放っておいていいよ。というか、そうじゃないと予定が狂う」
「ぬ? 主様、一体何をやるつもりぞ」
「ほら、アレよ。よくネット掲示板とかでネタで云われる奴。実際にソレをやって亡くなったお年寄りもいるから、結構洒落にならないことだけど。
台風で暴風雨が凄い時に、「ちょっと、裏の川を見てくる」もしくは「ちょっと畑をみてくる」ってやつ」
《どういうことです?》
「だから、ボスがあいつらを殺し終えたら、ダンジョンマスターに「ちょっと、ボス部屋見てくる」って感じで出てきてもらうのよ」
「おぉ、合点がいったぞ。そこを始末するのだな?」
珠ちゃんがポンと手を叩いた。
「うん。現実改変して、ボスに食べてもらうよ」
「え?」
《え?》
「え?」
あれ? なんでそんな反応なのよ。
「あ、主様。さすがにそれはどうなのだ?」
「いや、だってそれが一番楽そうだし。ちょちょいっと、ボスの認識を改変しちゃえば、ダンジョンマスターだってただの餌だよ」
いや、そんな心底残念そうな顔をしないでよ。
さぁ。それじゃあ、はじめようか。ネコでぐだぐだしてるあいつらを追い立てよう。あいつらの背後にトカゲ犬に来てもらって、鳴き声を発してもらってと。
おー。慌ててる慌ててる。
あ、またひとり生贄にして逃げ出した。本当にクズだな、あいつら。腐った大人とかならなんとなく理解できるけど、齢10歳の小学生がやる事じゃないよね。普通なら出来ないと思うんだけど、おいて逃げ出すとかいうのならともかく。どういう躾をされて育ったんだ?
泡食ったクラスメートたちは慌てふためいて走り出したせいか、ネコから次々にボスエリアへと落ちた。
多少は誘導用に魔法で灯りを用意をしたといっても、足元はかなり暗いからね。広い部屋と思っていたところに地面がないだなんて誰も思わなかったんだろう。
広い空間がある。そう認識しただけで、そこへ入ることを躊躇していただけのようだ。
そしてエリアの奥の通路……巣穴? からボスのドラゴンが地響きを立てながら現われた。
その全身を覆う鱗の隙間や、まるで馬の鬣のように生えている毛に纏わりつくように緑色の光りがこぼれている。
そうしてドラゴンの周囲に散る細かなあの緑色の光は魔力そのものの色だ。コアによると、ああして目視できるほどに濃密な魔力は、自然界ではありえないとのこだ。
そしてあれほどまでに濃密な魔力は、周囲にかなりの影響を与えるとのこと。人であれば、魔力酔いを引き起こして気分を悪くするし、ヘタすると失神するそうだ。
……私はダンジョン化しているためか、そういうのはまったくないそうだけど。
そう考えると、私はもう人間を辞めてるんだな。ちゃんと寿命とかあんのかな? 不老不死とかだと、さすがに真っ当な生活を送れなくなるとおもうんだけど。
あ、それは大丈夫なのね。肉体の寿命はどう引き延ばしても百数十年がせいぜいと。
ただその後は、コアが私ごと造ってある別の体に移動すると。
いや、ちょっと待ってよ。それって実質不老不死なんじゃないの!?
《気にしてはいけません。そもそも、その時点にまで一度も辿り着けていません》
いや、そうだけどさぁ。
あ、あいつらブレスで焼かれた。
それじゃドラゴンには待機して貰ってと。さぁ、おいでませダンジョンマスター!
現実改変実行!
ちょっとした意思の誘導程度の改変だから、たいして疲れることもない。前回のお巡りさん召喚のほうが、ずっと疲れた。
ドラゴンの巣。その更に奥の方に四角い光が現われた。というか、あれは扉が開いた感じだ。
そしてそこからテクテクと歩いてくる、小太りのおじさん。騎士の礼服っぽいものを着ているけれど、なんというか、ちょっと痩せ型の相撲取りみたいな体形のせいで、なんとも珍妙にみえる。なにせ礼服がはち切れんばかりにピッチピチだし。
「あれさぁ、お腹の下側がはみ出してない?」
「……ふむ。見間違いではないぞ、主様。しっかりと毛に覆われてた腹がでておる」
毛……まぁ、男の人だからね。と、ダンジョンマスターを品定めしている場合じゃないな。
さー、ドラゴンさん、やっておしまいなさい! ってことでドラゴンの認識改変。
ドラゴンの認識、記憶にあるダンジョンマスターに関するモノを改変する。私の現実改変は、表面的なものではなく、過去にさかのぼって原点となる部分を改変する代物だ。過去にさかのぼればのぼる程に波及効果が広がって、必要となる労力は膨大になるけれど、今回はドラゴン限定で問題ない。
矛盾が生まれるが構うことはない。
《ダンジョンマスター、見事に食べられましたね》
「そうだね。前に見た恐竜パニックものの映画の、用を足してところを食べられたおじさんを思い出したよ」
「盛り上がりの欠片もないの」
「なに云ってんの。安全第一だよ。それじゃ、ダンジョンコアの確保をしにいこうか。ドラゴンの認識から私たちを外してっと」
かくして、私たちはこうしてこのダンジョンを制圧したのだ。