私、杉崎めぐる(0)は、7度目の人生を歩んでいる
私、杉崎めぐる(0)は、7度目の人生を歩んでいる。
……いや、本当、私の人生ってどうなってんのかな?
あー、うん。また殺されたんだよね。まぁ、今回は事故に近かったんだと思うけど、殺されたことには変わりない。多分、今回の死因は薬物中毒なんだと思う。
いや、はっきりはしないんだけれど。
まともな記憶と、その後の完全にイカレ切った記憶がごっちゃになっててどうにも……。
コアも私同様に前後不覚に陥っていたから、状況の記録が軒並み飛んでいる有様でね。
でもって珠ちゃんは、その場に居合わせることが不可能な状態だったのも災いした感じだ。
正直な話、現状の私ならそうそう殺されることはないハズなんだよ。
異能力を結構身に着けている上に、魔法だって使える。その上、ダンジョンコアを取り込んで、さらには守り神として九尾(現状は弱体化のため四尾)が憑いているわけだし。
どうすれば殺されるんだよ!? って感じなのに、なんで私は殺されるのさ!?
さて、なにがどうなって殺されたのかを話そう。
私を殺すに至る加害者側の背景は不明だから、そこは推測すらできないけど。
今回の私の死亡ルートの入り口は、恐らくは学校に来た“父親”だ。
先生の後について、応接室代わりの資料室、進路指導とかに使われる部屋へと入った。
なかに居たのはパリっとしたスーツ姿の中年男性。40代くらい。でもガワはしっかりした大人であるけれど、どうにもその雰囲気はうらぶれたものだ。くたびれたチンピラに立派なスーツを着せただけにしか見えない。
で、誰?
私がしっかりと「どちらさまですか?」などと問うたものだから、入り口のところで控えていた先生が座る私のすぐ側に立った。
本当、すごくいい先生だ。
少しばかり剣呑な雰囲気になりながらも、この中年男性が何者か判明。
うん。父親だった。
実父。
名前? 知らん。杉崎って名字だけ覚えてる。そう、私を野良犬でも見るような目で見ていたあの男だ。
養育費だの慰謝料だの踏み倒しておいて、いったいどの面さげてきたんだって感じだよ。
まぁ、話は聞いたよ。さすがに中学生に金の無心とかしないだろうし。
で、ここに来た理由っていうのが、どうにも判断に困るものだったんだよ。
「両親……あー、つまりお前の祖父母にだな、会って貰えないか?」
……父方の祖父母が、私と会いたいというのだ。
コレのことは大嫌いだが、会ったことのないその祖父母に思うところは……多少はあるが、毛嫌いするほどでもない。
ん? 会ったこともないのに、なんでそんなマイナスな感情なのかって?
そりゃそうだよ。こんな失敗作を世に放ったんだもの。ちゃんと躾けてから社会に出せよってことだよ。
で、まぁ、結局どうなったかと云うと、会うことにしたんだよ。
だってここで断ってもさ、きっとしつこく連絡してくると思うんだよ。それなら一度顔を合わせて、もう関わらないでくれと云う方がいいと思ったのさ。
こんなロクデナシを放り出しておいて、いまも繋がりを持っているってことは、その祖父母もたかが知れてると思うんだよ。だから、今後の付き合いを持とうなんて思わないからね。
アホな私は、後日のこのこと市内まで出向いて約束の場所にまでいったんだよ。
駅近くのオフィスビル。
そこで問題発生。珠ちゃんがビルに入れなかった。珠ちゃん、一応属性は神様方面に傾いてはいるんだけれど、現状はまだ聖獣とか霊獣とかよりも妖怪寄りであるのが災いした模様。
なんか、そのビルにはそういった物を避けるお札だかなんだかで守られているらしく、珠ちゃんは入れなかったんだ。なので、珠ちゃんはビル前で待つことに。
そして私が指定された階のオフィスに向かうと――
……芸能事務所?
聞いたこともない名前の芸能事務所。スマホで確認したところ、ファッション誌などのモデルを専門とした事務所のようだ。
祖父、或いは祖母がここの経営をしているのだろうか?
ノックし、中に入り、事務の人に事情を話すと、奥の応接室へと通された。事務的を通り越して、機械で出来ているんじゃないかと思えるような事務員のお姉さんがちょっぴり怖かったよ。
そして待つこと暫し。
実父が来て、出されたお茶を飲んだあと辺りから記憶がおかしくなって、気がついたらお尻を叩かれてた。
うん。死に戻りしてた。
このことから、恐らく薬物中毒死。
多分だけど、殺すつもりはなかったんだとは思う。
どういうことかというと、私、というか時永家の人間の体質に問題があるんだよね。
一部の薬物が凄まじく効きにくいんだけれど、それ故に異常に効くんだ。
……この説明じゃなにいってんだか分かんないね。
ちょっと実例をだすね。
1度目の人生の時、ちょっと眼を怪我したことがあったんだよ。いじめの一環といってもいいかな。
男子のひとりが掃除の時間、竹ぼうきを振り回して遊んでて、調子に乗って私に向けてその穂先をブンブン振り回しながら近づいて来たんだよね。
それが背後から迫っていたのに気付かずに、呼ばれて振り向いたところ、顔面を直撃というか、おもいきり竹ぼうきで擦られて、竹ぼうきの穂の竹が目に入っちゃったんだ。
あのクソガキ共、蹲った私の事を見てゲラゲラ笑ってたっけ。……クソッ。
それで眼科にお世話になったんだけれど、検査のために瞳を開く目薬というのを点けたんだ。でもそれがまったく効かなかったんだよ。で、効くまで追加で点眼して、やっと瞳が開いたというね。
看護師さんが云うには、薬が切れて瞳がちゃんと閉じるようになるまで6時間くらいかかるって云われたんだけれど、私の場合、翌日になるまで治らなかったんだ。
……いや、完全には元に戻らなかったんだよね。だから1度目の人生だと、右目と左目で世界の明るさが違って見える羽目になったんだ。うん。左目の瞳孔が、きちんと閉まらなくなっちゃったのさ。
こんな感じで、一部の薬はやたらと効きにくいけど、効き始めると効き過ぎるっていう体質なんだよ。
だから、多分、盛られた薬が効き過ぎて中毒死……というよりショック死したんじゃないかと。
しかし、どうしたものかな……。
いや、この死亡イベントを乗り越える方法を考えることもそうだけど、それよりも先にこれをね。
珠ちゃんがоrzで現わせる恰好でベッドの脇にいるからさ。
ついさっき、私にとってはすっかりおなじみの看護師さんが、珠ちゃんの姿が見えたらしく変な声をあげて逃げてったけど。
「儂はドジでノロマなカメでしかないのだ」
いや、狐でしょ。
「……儂はアホでトンマなキツネでしかないのだ」
いや、云い換えなくていいから。
《マスター、正直なところ、かなり由々しき事態です》
死亡イベントを初見で回避できないのは今にはじまったことじゃないでしょ。
《そうかもしれませんが、私がマスターと一体となった弊害が大きすぎます》
うーん……私と一緒に昏倒したりしちゃうのはなぁ。でも仕方ないっちゃ仕方ないよ。ああいった妖怪避けのあるところでも活動できる護衛役とか欲しいけれど、他者に見えるようだと、それはそれで問題だし。
「主様、護衛役をつくることを進言するぞ」
そうはいうけどね、簡単じゃないよ。
「向こうの世界に行った時に拾ってくるのはどうなのだ? ふぁんたじぃな世界なのだ。“いんびじぶるすとぉかぁ”とかいう、透明な魔物とかおるのであろ?」
インビジブルストーカーか……いるのかな?
《確かに存在しますが、恐らく私や珠緒様のようにマスターの【ふりだしにもどる】について来ることができるとは思えません》
あー……。実際、珠ちゃんも本体(?)のあの石から、私に乗り換えたような感じだしね。
《そもそも、わざわざ捕まえずとも、創り出すことが可能です》
そういやそうか。私、ダンジョンだっけね。でも勧めないところを見ると、問題でもあるの?
《亡霊の類ではないので、食費が発生します。当然、それに伴った様々な事象も。さらに云えば、さほど賢い魔物ではありませんので、周囲への被害が懸念されます》
……あぁ、そういう。躾のなってない動物って感じなのね。てっきり人型だと思って……あ、人型ではあるんだ。
まぁ、それは置くとしてだ。そうすると、姿の見えないゴーレムみたいなのでも作れない?
《さすがに無茶です。そもそも見えないだけで実体があるというもの問題です。珠緒様のように透過できるのであれば問題はありませんが》
あー。町中を歩いたりするとなると、こっちが徹底して他の人を避けないとぶつかるからね。珠ちゃんは幽霊みたいに、スィって他人を通り抜けてるけど。
ふむ。よし、決めた! 今回の人生は捨てよう!
《は?》
「あ、主様!? いったいなにを云いだすのだ!?」
いや、せっかくだから、今回は向こうの世界で人生を送ってみようかと。ダンジョン攻略とかして、魔法の道具とか集めてみようと思ってね。
コアも魔法の道具を作れるだろうけど、結構、各ダンジョンごとに違うんでしょ?
《確かにそうですが。ですが、こちらのサブカルチャーからヒントをそれこそ数えきれないほど得ているので、オリジナルのモノを創り出すことはそう難い事ではありません》
本音を云うと、私はあいつらを破滅させたいんだけど。
人を野蛮人と罵って、自分たちは殺される私たちの無様な様を肴に酒を飲んで楽しむという下劣な輩を。
《……なるほど》
「そ奴らを始末するのは当然として、儂も異界の妖怪共に興味はあるの」
珠ちゃんは観光したいってたもんね。だから、今回は向こうでやらかそうと思って。あのドラゴンを始末する方法も思いついたし。
《アレをですか? 確かアレは、ダンジョン攻略後にダンジョンマスターとなった王国の騎士が設置した、絶対攻略不能と豪語しているボスモンスターですよ》
あ、やっぱりそういう方針なんだ。というか、普通はそうだよね。
でもね、倒せないなら倒さなければいいんだよ!
《は?》
「主様、なにをするつもりぞ」
まー、それは……10年後のお楽しみだよ。
そう答え、私は意地の悪い笑みを浮かべて見せた。
そして、タイミングよく戻ってきた例の看護師さんが、そんな私の悪い笑顔を見て、またしても変な声をあげて逃げて行ったのだ。




