私、時永めぐる(13)は、6度目の人生を歩んでいる
仮面~に引き続き、こちらも投稿を開始します。
本日より午前0時投稿。3本です。
よろしくお願いします。
私、時永めぐる(13)は、6度目の人生を歩んでいる。
進級して中学2年生になったよ。
生活の方は落ち着いているよ。幸いなことに中学生生活も変わりなし。
あの事件後、そのまま夏休みにはいったのが良かったね。騒がしいのも夏休み中で終わってくれたし、なによりクラスメートにあれこれ聞かれることも無かったからね。
まぁ、あれから3日休んで、終業式に出席しなかったんだけど。
さて、事件後どうなったのかを話そう。
えっと、どこから話そう。
うん。まずは私の怪我。右の肩甲骨が折れた……割れた? 金槌で殴られたわけだからね、当然といえば当然なのかな。
(金槌で殴られた)珠ちゃんとお揃いだね!
とかアホなことをいったら、珠ちゃんにジト目で凝視されたよ。さすがに美幼女からのその視線は堪えたよ。
で、骨折のほうだけれど、手術するようなことにはならなかった。
なんだかプロテクターみたいなギブスで固められて、ガッチガチに包帯を巻かれたけれど。全治3週間。利き手が使えないから大変だった。
治そうと思えばすぐにでも治せたんだけれど、これはある意味事件の証拠みたいなものだし、大怪我が瞬時に完治とかしたら……ねぇ。そんなわけで、ポーションを出してゴクリ、はい治った、何てわけにもいかなかったんだよ。
入院はしなかったけれど通院。でもって、またしてもムカッ腹の立つカウンセリングを受ける羽目になった。
前から思ってたんだけど、あのカウンセリングって催眠じみた洗脳なんじゃないの? 犯罪被害者のPTSD軽減の為に行っているんだろうけど。……もしカウンセラーが怪しげな宗教に傾倒していたら、簡単に改宗とかさせられそうだよ。
そして怪我で困ったのが夏休みの宿題。この状態では字がまともに書けない、どうしよう。と思っていたら、コアがコアの分身的な人形をだして、それに筆記させる形で宿題を終わらせた。筆跡まで私と同じ高性能な人形。
とはいえ、頭は代筆するだけのことしかできないんだから、宿題はきちんと自分でやらなくてはならない。まぁ、簡単だからいいんだけど。
ただ、見知らぬ人がいるなんてことになるから、宿題をコソコソとやるという、なんだかおかしな状況になったけれど。
さすがにこの状態を見られると面倒臭いことになるからね。田舎のコミュニティなんて閉鎖的だから、見知らぬ者、なんて目立ってしょうがないんだよ。
さて、事件の方だ。
裁判とかの方はよくわからないから、そっちは両親任せだ。というか、なんか連行されるパトカーの中で、私に異様な執着を見せるような言動があったそうだ。
……ストーカー?
え、私に? え? なんで?
あと、間違いなく、私にあのデリカシーのない質問をして来た奴であることは確認された。マスゴミもかくやというような質問を。
うろ覚えだったけれど、間違いなかったようだ。
もしかして、あの質問にまともに答えなかったから執着されたとか?
話を聞いた時にあからさまに狼狽えていたら、婦警さんがある程度詳しいところを教えてくれた。
切っ掛けは神隠しのニュース報道。あれを見て、私に一目惚れしたそうだ。それから悶々としていたところに今度は殺人未遂事件の報道。それらのニュース報道から得られた情報から、私の住んでいる地域を特定。あとは地道にウロウロして住所も特定。その後は私をかなーり離れた場所から観察していたらしい。
私に接触して、あのふざけた質問をして来た時は、もう望遠レンズ越しに眺めるだけじゃ我慢できなかったからということのようだ。
で、やっぱりあの質問をされた時のことが原因で暴走した模様。
いや、だって、あの質問は……。あんな質問されたら気分悪くなるし、知った人間でもないんだから、普通に逃げるよ。それがショックだったからって……。
まぁ、そういう人間だからストーカーなんてなって、エスカレートして……ってことなのかなぁ?
しかし、報道からの特定か……。まぁ、そうだよね。小学校の名前も出てれば、私の実名も報道されてたわけだし。自宅の側も放映されたからね。私を見つけ出すのは簡単だったに違いない。
未成年者が加害者の場合は一切の情報を伏せるのに、なんで被害者だと一切の情報をオープンにしますかね。おかげでこのザマだよ。私、一切落ち度ないじゃん。
マスゴミとすればネタが来たぞヤッターかも知れないけど、私としてはたまったもんじゃないよ。
あいつら特ダネネタが尽きたら、自分たちで死体を作ってスクープにしたりするじゃん。まぁ、これはこないだ読んだ小説での話だけど。
で、報道に関しては先手を打って現実改変。というか、これはどちらかというと決定化とか固定化っていったほうがいいかな? うん、しておいてよかったよ。
なんの話かというと、今回の事件の報道の際に、私の苗字を前の“川守”で報道されるようにしたんだよ。“時永”の名前でだされたらこっちでも生活するのが面倒臭くなるからね。“時永”なんて珍しい苗字の類だろうし。
変装じみた恰好もやめて、向こうにいた時の恰好で夏休み中は過ごしたから、報道で流れたのは、こっちに来る前の恰好の私となっている。
でも、いまだにひとつだけ疑問があるんだよ。
あいつ、どっから私が母方の田舎にいることを突き止めたんだ?
あいつと遭遇したすぐあとに、私は苗字の名乗りを“川守”から“時永”に変えて田舎に引っ越した。そしてそれを知る者はいないハズなんだよ。
こっちに移動するときだって、用心して家を出た時から自身を隠蔽しまくってたんだから。
だから、いつのまにか川守家から私の姿が消えた、ってことになってるはずなのに。
これがストーカーの持つ執着心の為せる業ってヤツ? 怖っ! でもって、キモッ!
あ、犯人だけれど、塀の向こうに行った後に、珠ちゃんとコアがなにかやらかすらしい。ふたりはヤツが有罪になっても溜飲が下がらないみたいだ。いや、まだ有罪にはなっていないけどさ。裁判中だから。
あ、有罪は確定してるよ。目撃者(お巡りさん)もいるしね。執行猶予も無しだ。それは私が確定させるからね。
いや、本当、この【現実改変】能力はチート過ぎるね。
ちなみに、いまの私のステータスはこんな感じだ。
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■時永めぐる
年齢:13(67)歳 種族:人間(モンゴロイド[大和民族])
称号:【理核管理者】【格上殺し】【妖憑き】
状態:良好
技能:【農耕(初級)】【調理(初級)】【算術(中級)】【射撃(中級)】【隠形(初級)】【語学(初級)】【火魔法(初級)】【風魔法(初級)】【光魔法(初級)】
能力:【ふりだしにもどる】【現実改変】【鑑識眼】【異空門】【地図】【生体探知】
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称号が増えた。
【妖憑き】は、珠ちゃんのことだろう。
あ、珠ちゃんだけれど、ダンジョンコア同じようなことになっているみたいだ。私に憑いた状態であるためか、私が【ふりだしにもどる】と、引っ張られるみたいだ。
でもって、珠ちゃんも“増えた”。珠ちゃんの祀られている例の祠に行ったところ、そこにはちゃんと御神体となった殺生石の欠片があって、そこではしっかりと珠ちゃんが寝ていた。
これで思ったんだけれど、えっと、これってタイムパラドックス……だっけ? そういうのって起きたりしない? 珠ちゃんがその御神体の石に触れたら世界が崩壊したりとかしないよね? やり直し毎にあのダンジョンで“理核”を拾ってるけど、コアの忠告から手袋をして、素手では絶対に触っていないし。
そんな疑問を思っていると――
《それなんですが、マスターの能力は同一時間軸上の自身に回帰している、というわけではないようです》
はい?
コアの言葉に首を傾げた。
詳しく聞いたところ、多分、こういうことだ。私が理解するところでは。
私が死亡して【ふりだしにもどる】と、赤ん坊となるわけだけれど、別の時間軸、世界線、或いは並行世界へと移動しているということ。もっと正確に云うと、私が赤ん坊に戻った時点で、時間軸を分岐させて並行世界を作り出しているということだ。
ただ、元の世界と非常に近しい世界となるため、一定期間後に再度ひとつの世界に統合されているのではないか、というのがコアの見解だ。
……。
待って、理解するところといったけど待って。理解が追いつかない。つか、理解したくない。
え? さすがに無茶苦茶過ぎない? 【現実改変】どころじゃないと思うんだけど。
《そういわれましても。そうとでも考えなくては、差異の説明がつきません。マスターの実父の違い、小学校時代の虐めの内容の違い。クラスメートの数名が毎回違っている。ただ、あの女教師と召喚イベントだけは固定化されているようですが》
……あれ? クラスメートが違ってたの? ちっとも気がつかなかったよ。
いや、苗字が“高野”だの“杉崎”だのと違ってたのは覚えてるけどさ。……この差異って、お母さんの人生に関わる点で考えると、どっちもハズレ、或いは事故物件を引いたってことだよね? お母さんの男を見る目がなかった? いや、でも川守のお父さんはすっごい良い人だし。
……だめだ、現実逃避してる。思考がどんどんズレていってる。とはいってもだ。
そんなの考えてもわかんないし。わかっとところでどうにもならないよ。
《確かにそうですが……》
それよりも、私は今度こそ平穏な人生を歩むのよ!
「主様、主様」
ん? なに、珠ちゃん。
「次のループの時は、向こうの世界を探検しよう」
「……珠ちゃんや、なんで私がまた死ぬことを想定しているの?」
「む? だが主殿、100年やそこらが過ぎるなどすぐぞ」
あ、あー……私がまた殺されるってことじゃなくて、天寿を全うした後ってことね……。
「主様の能力で、気軽に向こうの世界に行けるのは知っておるが、買い物気分で行ってもしかたなかろ?」
「そうだねぇ」
「それにあの不快極まりないあ奴らを始末せねば儂の気が治まらぬ」
あぁ……あの偉そうな連中か。
「祟るの?」
「ひと思いに殺したところで溜飲は下がらぬ。存分に地獄を堪能させてくれよう」
ニタリと笑う幼女。幼女がするには絶対に似合わない仕草であるはずなのに、やたらと様になっている。さすがは齢……何歳だ? 祀られて500年とか云ってたけど。
「まぁ、私も連中には仕返しをしたいしね。つか、あいつら全員をダンジョン最奥に放り込みたいよね。……折角だし、あのダンジョンを制圧して、連中の管理下から解放して放置するのが一番面白いかもしれないね。私みたいに喰われたらいいんだ」
「おぉ、それがよかろう。あやつら自身が見世物となればよい。ならば、その様子を世界に公開できるように――」
あれこれ物騒なことをブツブツと云いだした珠ちゃんの姿に苦笑いをしていると、私の中のコアが妙な雰囲気を出し始めた。
《……》
どした?
《いえ、フラグが立ったのではないかと》
フラグ?
《はい。またしても殺されてしまうのでないかと、心配しています》
……。
ち、ちょっと、冗談でもそんなこと云わないでよ。本当にいまの会話がフラグに思えてきたじゃん。
私は今度こそしわくちゃなお婆ちゃんになって、縁側で日向ぼっこしながら猫を抱いて、もしくは湯飲みを持ったまま死ぬのよ!
《マスター、それこそが死亡フラグではないかと》
うがぁっ!
私は思わず頭を掻きむしったのだ。
★ ☆ ★
そして何事もなく中学2年の1学期の終わりも近くなった頃のこと。
私が5限目の準備をしていると、まだ予鈴も鳴っていないというのに担任が教室へとやってきた。
予鈴を聞き逃したと思い違いをしたクラスメートが、慌てて席につく。いや、みんな、次の授業は担任の授業じゃないぞ。
それにしても先生、どうしたんだろ?
「時永、来てくれ。お前に来客だ」
「はい?」
「父親だと云っているんだが……」
へ? お父さん? あれ? でもなんで学校に?
「俺としちゃ、どうにも胡散臭く感じられてなぁ」
先生が呻くように云う。尚、先生は私の事情を知っている。
はっきり云おう。あの女教師や小学校時の教師共とくらべたら、この先生はもう聖人といっていいくらいに生徒思いのいい先生だ。
「なんで学校に来てるのかが、私にもわかりません。緊急でもなさそうですし。あの、先生、先生も同席してもらえますか?」
「おぉ、任せろ。こんな時ぐらいしか、俺の面は役に立たんからな」
先生が笑みを浮かべる。
先生の顔は、いわゆる強面の類だ。そのせいなのか、どうなのかは知らないが、30を過ぎたいまもまだ独身だ。
「おねがいします、先生」
そして私は、先生の後について教室を出たのだ。




