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私、時永めぐる(12)は、6度目の人生を歩んでいる


 私、時永めぐる(12)は、6度目の人生を歩んでいる。


 さぁ、やってきましたよ。私の死亡イベント。


 今回はちょっと怖いんだよね。なにせ原因が不明みたいなものだから。なによりなんで私は殺されたのかさっぱりわからない。


 ……まさかと思うけど、あの女の親族あたりが逆恨みして、ってことじゃないよね?


 あ、そういえば、珠ちゃんから詳しいことを聞いたんだ。


 私がどんな有様で見つかったのかって。


 ……いや、聞いて後悔したんだけどさ。でもって、その内容関係で、珠ちゃん、とんでもなく激怒しているというのもわかったというね。


 もしも全盛時の力をもっていたら、それこそ災厄をそこらに撒き散らしていたんじゃなかろうか。


 でもって、それを私と一緒に聞いたコアも大激怒。と同時に自身の不甲斐なさに際限なく落ち込み始めて、大変なことになったよ。


 ん? なにがあったのかって?


 いや、私、強姦されてたみたいでね。見つかった時は酷い有様だったらしいのよ。


 ということはだ。私がおつかいを終えて、田んぼ沿いの道をテクテク歩いていたところを鈍器で殴られて昏倒。


 その後、近くの農具小屋へと連れ込まれてアレコレ()られて放置。翌日、その農具小屋の持ち主の方に、酷い有様になった私が発見されて病院へ。そのまま意識は戻らず、七日後に死亡と。



 ……というか、頭蓋骨陥没骨折と脳挫傷を起こしておきながら、治療もなしによく翌日まで生きてたな、私。


《そこは、異世界転移の影響もあったのかと。得たエネルギー全てが能力として昇華したわけではありません。ですから、多少ではありますが身体強化がされていたと思われます》


 なるほどなぁ。


 ところでさ、ひとつ重要な案件があるんだけど。


《なんでしょう? マスター》


「なんぞ気にかかる事があるかの? 主様」



 私って、処女ってことでいいのかな?



 ……いや、珠ちゃん。そんな呆れ果てたような顔をしないで。コアも私の中で“呆れてます―”って雰囲気を出さないでよ。


 地味に重要な問題なんだよ、私にとっては。そりゃ、やり直し人生だから現状肉体的には処女だけどさ。精神的には、男性経験があるってことになるのコレ?


 意識不明の状態だったわけだけれど。


「魂は一緒でも、体は別物であるのだから、処女で良いのではないかの」


《意識のない状態での事ですし、そもそもそのまま死亡したのですから、いうなれば死姦されたようなものと考えればよいかと》


 いや、死姦って……それはそれで思うところがあるのだけど。


 なんだろう、このムヤムヤとした感じ。


 くそぅ。こうなったら、この気分の原因となった犯人を絶対にぶちのめして、警察に突き出してやる。


《マスター、それは可能ではありますが、止めた方がよいかと》


 なんで?


《マスターは一般的な12歳児です。少なくとも周囲の認識では》


 なんか引っ掛かる表現だなぁ。まぁ、云わんとするところは分かるけど。


《確かに、あの場にある人目はマスターを襲った犯人だけでしょうが、犯人を容赦なく破壊した状態で当該機関へと受け渡した場合、なにをどうやってそれを成したのか問い質されると思われます》


 あー、確かにそうだね。そうすると、それは面倒臭いか。


 それじゃ、どうしようか?


「ふむ。そうするとあれじゃな。『助けてー』と叫んで逃げるしかなかろう」


 うーん。でもそれじゃ、犯人に逃げられそう……あ、そうだ。


 ちょっと逃げた先の道で、()()()()警邏中のお巡りさんと鉢合わせしよう。


 うん。そうなるように現実改変をすればいいんだ。


 それに、今回は前回と違い、このために新能力を拾ってきたから安心だ。


 それはなにかというと、【生体感知】。本当は殺気とか害意を察知する能力が欲しかったんだけれど、コアと相談してそれは外した。


 理由は、かなり“曖昧”であるため。それを能力として得た場合、求めた形にならないかもしれないからだ。


 いや、害意にしろ殺気にしろ、拡大解釈でもしようものなら、周囲の人間の大半がその対象になって反応すると思うんだよ。


 そうなると、使えるけど使えない能力になるからね。それなら、普通に周囲を感知できる方がいい。【地図】に紐づけられているから、ゲーム画面のミニマップ的な感じで視界の端に表示して置けば、周囲の警戒もできるってものだよ。


 問題は、このミニマップ的な感じで視界に出しておくのがどうに慣れなくて、なんか酔うというか、気持ち悪いんだけどね。


 そのうち慣れるかなぁ。



 ★ ☆ ★



 ということで、私が襲われた日となった。時期は梅雨が明け、本格的に夏の暑さがはじまった、夏休み直前の7月の18日。


 時永の家は町はずれにあるから、買い出しとかをするには結構な距離を歩くんだ。


 いつもはお爺ちゃんが軽トラを出して買い出しにいくんだけれど、今日は私の個人的なお買い物だからね。ついでに、切れかけてた調味料とかの買い出しもしている。


 いつもは通学のために自転車で行く道を、麦わら帽子をかぶり、お散歩がてら徒歩で商店街へと向かう。今にして思うと、自転車で行っていれば前回は殺される憂き目に遭わなかったのかもしれない。


 まぁ、それを回避できたとして、その後、別のタイミングで殺されるだけかもしれないけど。


 いや、犯人が無差別に獲物を狙ったのか、私を狙い撃ちにしたのか分からないからさ。なんとなくだけど、狙い撃ちされたような気がするんだよねぇ。


 根拠はまったくないんだけど。


 あれこれとお店を回り、最後にコンビニじみた個人商店で特用の醤油と3個入りの稲荷寿司を購入。


 テクテクと町中を歩き進み、田んぼが一面に広がる場所にでる。


 それにしても、なんで田んぼ側の土地にはラブホテル(つれこみ)が建ってんだろうな。こんな辺鄙な場所に需要があんのかな? いや、建ってるんだから、あるんだろうなぁ。


 そんなくだらないことを思いながら、一緒に歩いている珠ちゃんに稲荷寿司を渡した。


 私がひとつ、球ちゃんがふたつだ。傍から見ると、もしかしたら稲荷寿司が宙に浮いているように見えるかもしれない。


 【地図】を展開する。ダンジョン領域は展開していない。5メートル四方が限界である以上、いまは展開する意味がない。消耗するだけ無駄だ。


 自分を中心の映し出される周囲の地形。範囲を広げて……100メートルくらいでいいかな。【生体探知】が紐づいているから、範囲内に人が入ればミニマップに表示される。


「主様、賊と遭遇したらどうするのだ? 予定通り逃げるで良いのか? 儂が始末してはいかんのだろ?」

「そうね。大昔と違って、今のご時世、人を殺すと面倒臭いんだよ。さすがに完全犯罪なんて……できるな」


 確か完全犯罪(殺人)の方法って、“誰にも知られずに殺し、誰にも見られずに運び、誰にも気付かれずに山に埋める”だっけ?


 私の場合、現状だと最初のひとつはすぐにクリアできるでしょ。でもって死体をアイテムボックスに放り込めば誰にも見られない。さらに埋める場所は、本当なら絶対に嫌だけど、ウチの山があるし。


「できるけど、警察に引き渡して社会的に殺した方がいいよ」

「ふむぅ。では、儂はもしも賊が主様を捕えそうになった時に邪魔をするとしよう」

「あー、そうだね。大人の足だと、追いつかれるかもしれないし」


 お?


「反応がでたよ。えーっと……あ、あの正面の農具小屋っぽいね。つか、あそこだよね? 私が殴られて連れ込まれた場所って」


 正面左に見える農具小屋。


 いや、小屋って呼べるような物じゃないな。屋根も壁もトタンでできた建造物。えっと、電話ボックスくらい……なのかな? いや、電話ボックスを私は見たことないけど。……多分。


 緊張しながら小屋の脇を通り抜ける。と、同時に、私を襲う鈍器の初撃はスカる! と現実を改変する。


 直後、私の背後をなにかの風切り音が響いた。


 って、怖っ! 思ったよりギリギリだった。


 軽く後ろを振り向きつつ駆け出す。


 見たところ20代くらいの中肉中背の男が金槌を手に持って、こっちを睨んでいる。


 よし、次! 奴は逃げずに、なにがなんでも私を追って来る!


 奴の思考を、それだけに固定するように現実改変。


 すぐに走る足音が近づいてくる。


 珠ちゃん! 正面の丁字路までに()()()そうだったらお願いね!


「任せるのだ。その時は足を引っ掛けてくれよう!」


 私の隣を並走――じゃないな、少しばかり浮かんで飛んでいる珠ちゃんの頼もしい言葉。


 とにかく全力で走る。丁字路まであと50メートルくらい。


 ってところでお巡りさん召喚!


 いや、お巡りさんが都合よく現われるように現実改変するだけだけど! そしてついでにもうひとつ改変というか、起こる現実を固定化する。


 右斜め前の、立派な垣根家の向こうから、自転車に乗ったお巡りさんが現われた!


「助けてー!!」


 思い切り叫ぶ。なんか“てー!”のところで声がひっくり返った!


 そしてほぼ同時に、背中、やや右肩よりに衝撃が走った。


 殴られた! ()()()()()!! でも予定とちょっと違う!!


 珠ちゃんに話してなかったから、球ちゃんがこの状況に狼狽えてるけど。


 それに多分、犯人が数十センチくらいだけど瞬間移動したみたいなことになったはずだ。


 私は殴られた衝撃で転倒するも、頭をしっかりと下げて転んだことで、前回り受け身だっけ? そんな感じで転がった。


 そこへ覆いかぶさるように男が迫って来たけれど――


 男が私に追撃を加えるよりも先に、自転車を放り出して走ってきたお巡りさんが男の腕を取り押さえ、投げ飛ばした。


 そしてすかさずうつ伏せに押さえこむと、その背に膝を乗せ、身動きを封じた。


 おー、さすがプロ……で、いいのかな? 手際がいいや。


《マスター、怪我の方は?》


 あー……痛いね。かなり。でも治さなくていいよ。ちゃんと目撃者もいるし、これでアレは少なくとも殺人未遂になると思うよ。持ってる凶器があれだし。


 男が手にしていた凶器。それは金槌。いわゆる玄翁だ。


 当たり前のことだが、あんなモノで殴られたら、普通に死ぬ。というか、前回は死んだ。


 背中を殴られてもナップザックが多少は盾になって、軽症で済むかと思ってたけど、しくじったな。もうちょっと厳密に改変しておくんだった。


 まぁ、想定以上の怪我をしたけれど、却ってよかったかな? あ、大丈夫っぽいけど、醤油のペットボトルが割れてたりしたら大変なことになるな。


 ということで、まったくの無事であるように改変しておく。


 よし。これて一安心だ。


 痛む右肩に左手を当てつつ、お巡りさんに取り押さえられた男を見る。


 はて? どっかで見たことのあるような?


 眉根を寄せ、口をへの字曲げ、首をひねる。


 むぅ。どこかで会ってるよね。どこだ?


 ジタバタと暴れる男の姿をじっと観察するも、どうにも思い出しきれない。


 やがてサイレンの音が聞こえてきた。お巡りさんの呼んだ応援が来たのだろう。そういえば、お巡りさんが身に着けている無線を使うところとか、初めて見たよ。


 やがて到着したパトカーが2台。さらには救急車も到着。それに合わせるかのように、野次馬もチラホラと集まって来た。


 男は手錠を掛けられてパトカーに押し込まれ。離せとか触るなとか騒いでいるけど、私の姿を目にした途端、気味の悪いほどに満面の笑みを浮かべた。


 背筋が凍るというのは、こういうことをいうのだろう。ゾワリとした感覚が背筋を抜け、足がすくんだ。


 いやいやいや、あのダンジョンのボスのドラゴンより怖いってどういうことだよ!


 そして私は救急車で病院へと向かうことに。祖父母には連絡をしてくれるとのことだけれど……。


 お爺ちゃんとお婆ちゃん、警察からの連絡だなんて、びっくりするだろうなぁ。


 今日は何時ごろに帰れるだろ? 治療や事情聴取がそんなに長引かなければいいんだけど。


 救急車に乗り込んだところで、私は唐突にあの男に関して思い出した。


 思い出し、思わず声をあげてしまった。


 その声に反応したのか、私の容体を救急隊員さんから聞いている私服の刑事さん? が、どうしたのか私に訊ねた。


 まぁ、隠すことでもない。


「あの男の人ですけど、こっちに引っ越してくる前の町で、私に話しかけてきた人です。『ねぇねぇ、殺されそうになったのって、どんな気持ち?』って」


 そう答えると、刑事さん? は僅かながらに頬を引き攣らせていた。



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