表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The World Savers  作者: 不覚たん
散種編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/32

マッスル・バッファロー

 いま俺たちは、牛車に揺られている。

 いいにおいのする、豪華な箱型の屋形やかただ。これを引いているのは黒くて巨大な牛。たぶん俺たちの知ってる牛ではない。

 のたのたしているが、歩くより速い。


「しかしおぬしら、長いこと戦っておったの。いや、戦っておったのは鬼司と……もう一匹の鬼であったか。よう飽きもせず続けるわと思うておったが、ついに飽きたようじゃの」

 先導師の寒屋も屋形にいる。

 牛に指示を出さずとも、勝手に都へ案内してくれるようだ。


「途中、妨害を受けたのですが……」

「どうせカルトじゃろ。御神託を受けたとかなんとかのたもうておったな。愚かな連中じゃ。ちゃんと斬って捨てたんじゃろうな?」

「一応は。ただ、一部を仲間が引き受けて、そのまま生き別れに……」

「ま、死んでも反魂丹でなんとかできるじゃろ。鬼司め、だいぶ溜め込んでおるようじゃからの。足りなければ古物商とかいう畜生から巻き上げてもよいしの」

 意外と血の気の多い老人なのかもしれない。

 先導師という肩書や、仙人みたいな風貌とは裏腹に、さっきから言葉が好戦的だ。


「都はどんなところなんです?」

「むかしは神聖な場所じゃったが……。いまや欲望渦巻くパリピの巣窟になってしもうての。まともにやっとるのは役人くらいじゃ。わしももう少し若ければのぅ……」

 このご老人、わりと欲望に忠実だな。

 いや、都まで運んでくれるだけでも感謝しなくては。いまのところ金銭も要求されていない。


「じゃが気を付けるのじゃ。わしらは触れ合うと、互いに寿命をすり減らしてしまう。まあわしなんぞはもういつ死んでも構わぬが。普通はおぬしらを毛嫌いするじゃろう。書類だけ渡してとっとと帰るのが賢明じゃわい」

「そうします」

 こちらにしてみれば彼らはゴーストみたいなものだが、彼らにしてみても同じことが言える。

 互いに距離を取るべきだろう。


「止まれ! 止まれぇい!」

 ふと、外から声があがった。

 検問のようなものでもあるのだろうか。

 だが牛は止まらず、検問に突っ込んでしまった。

「おい待てぇい! 止まれ! 止まらんか!」

 ガァンとなにかを蹴散らし、大混乱になっている。


 老人はやれやれとばかりに牛へ向き直った。

「よし、止まれ」

 すると牛は、数歩進んでようやく足を止めた。


 ズタボロになった兵士が、屋形に顔を突っ込んできた。

「先導師、頼みますぞ!」

「急に出てきたおぬしらが悪い。いったいなんなのじゃ。わしのマッスル・バッファロー号を止めたからには、よほど重要なことなのじゃろうな?」

 そのネーミングセンスはなんなんだよ。

 警備兵もうんざり顔だ。

「黄泉国に、悪意が侵入したという情報がありまして」

「で? その悪意とやらは、この車に乗っておるのか?」

「それを調べております」

「愚かものめ。どこに目をつけておるのじゃ。くだらん。行け」

 老人が牛に命令すると、牛車は無慈悲に前進を始めた。

 兵士も「ああっ」と振り落とされてしまった。


 まあ悪意は乗っていないにしても、この老人もかなり強引だ。

 それだけの権力を有しているということか。


「まったくくだらん。先導師の車に、悪意が乗っておるはずがなかろう。普段から惰性で仕事しとるから応用が効かなくなるのじゃ。組織というのはすぐに腐敗する。嘆かわしい」

 まったくだ。

 最近の若いヤツはなってないよ。

 しかしその若いヤツを導くのは、老人の仕事ではなかろうか。

 ま、機嫌を損ねるから言わないが。


 佐藤みずきはずっと黙っている。

 あまりにくだらなすぎて、口を開く気にもなれないのだろう。


 *


 途中、何度も検問を無視して通過した。

 あきらかに問題だと思うのだが……。


 街をひとつ通過しただけで、すぐに都へ入ることができた。

 日の傾いた夕刻。


「先導師のご到着! 開門! 開門!」

 突破されるのが分かっているのか、都の門番たちは率先して門を開けた。

 屋形から外を覗くと、大きな通りがまっすぐどこまでも伸びていた。

 道沿いには立派な家々。

 夕刻であるからか、人通りはあまりない。


「ちょうどよい時間に来たな」

 寒屋はそんなことをつぶやいた。

「どういう意味です?」

「言ったじゃろ。パリピばかりじゃと。都の本番はこれからじゃ」

「……」

 人通りが少ないのは、これから寝るからではなく、まだパーティーの時間じゃないから、ということか。いったいどんな街なのであろうか。


 しばらく進むと、巨大な山のような建物に遭遇した。

 城……というよりは塔だ。

 木造建築だろうか。壁は漆喰。

「まったく、みんなの税金でこんなムダなものを建ておって。いつか崩れるぞい」

 ここも人間社会と似たような感じなのかもしれない。


 牛が止まったので、俺たちは外へ出た。

 警備兵が駆け寄ってきた。

「これはこれは特使どの。遠路はるばるようこそいらっしゃいました」

 武装しているが、対応は丁寧だ。

 さすがに都の警備をしているだけあり、教養のあるものを任務にあてているのだろう。


 寒屋はうなずいた。

「書状を届けに参った」

「しかし役所は、本日の業務を終えております。明日あらためていらしてください」

「先導師じゃぞ?」

「決まりですので」

「これじゃ。ま、役所がこうなのは知っておったわ。宿へ案内せい。奇麗所きれいどころも忘れずにつけるのじゃ」

「はぁ」

 とんでもないクソジジイだな。

 兵士も困惑している。


 *


 しかし案内されたのは、役所内に設置された仮眠室だった。

 三人とも同じ部屋。

「な、なんじゃこの扱いは! 先導師じゃぞ!?」


 だが兵士の説明はこうだった。

 夜になるとパリピが溢れる。

 すると民間の宿はかなり治安の悪いことになる。

 地上の人間をそこらに置いておけば、互いに濃厚接触して寿命が縮んでしまう。

 ゆえに役所内に留まって欲しいと。

 奇麗所が来ないのは、つまりは俺たちのせいなのだ。


「はぁ、まったく。久々の都じゃというのに、こんな狭苦しい部屋に押し込まれるとは。わしだけでも高級ホテルに泊めてくれんかの」

 行きたければ勝手に出て行って欲しい。


 佐藤みずきは「私もう寝るわ」とすでに横になっていた。

 だから俺の会話相手は、この老人しかいないのだった。


「先導師、悪意というのは、黄泉国へも入ってくるものなのですか?」

 俺が尋ねると、完全にすねた寒屋がちらとこちらを見た。

「もっと楽しい話をせんか?」

「なんです?」

「ここをこっそり抜け出して、わしらもパーリーに参加するんじゃ」

「問題になりますよ」

「せめて酒でもあればのぅ。で、なんじゃ? 悪意の話をしておったのか? あれは負のエネルギーが集まり、具現化した姿じゃ。誰か特定の個人ではない。きっとあやつ自身、自分が誰かも分かっておらぬじゃろ。都にもいっぱいおったのじゃ。それをこっそり無盡原に流しての」

 産業廃棄物みたいな扱いだ。

「そのせいで無盡原の加護が失われ、三途の川が消えたと?」

「なんじゃ、詳しいではないか。あれ以来、無盡原は荒れてしもうての。管理のためにと飛頭蛮ひとうばんを放ったのじゃが……。悪意に取り込まれ、手に負えんようになっての」

「飛頭蛮?」

「見たことないか? 首だけのバケモノじゃ」

 あいつらか。

 社稷だったり、木の実だったり。

「なぜあれが社稷に?」

「社稷? はぁ、ではまだいちおう、無盡原を守るつもりはあるんじゃの……。自分たちを、あそこの守り手とでも思うておるのじゃろ」

 正式な社稷ではなく「自分を守り手だと思い込んでるだけのなにか」だったのか。

 そう考えると気の毒だな。


 老人はごろんと横になった。

「その後、重役の三男坊を派遣して、事態の鎮静化を図ろうとしたのじゃ。ま、鎮静化に失敗したところで、黄泉国にはデメリットもないんじゃが。生態系を破壊した手前、後ろ暗い気持ちもあったのじゃろ」

「その役人の三男坊ってのは……」

「おぬしも知っておろう。閻魔を自称しておったあの男じゃ。しかし天の怒りを買い、存在を消されてしもうた」

 あとは俺の知る歴史につながる、というわけだ。

 無盡原が悪意に満ちたのは、黄泉国のせいだったとは。


 老人は、俺の言いたいことに気付いたらしい。

「無盡原には悪いことをしたと思うておる。じゃがあの当時、黄泉国も、死者の魂まみれで大変じゃったのじゃ。この国が機能しなくなれば、おぬしら人の世にまで害が及ぶ。苦肉の策じゃった。幸い、無盡原には鬼しか住んでおらんかったしの」

「鬼が住んでた? じゃあ、彼らは……」

「うむ……。一部は黄泉国で使役しておる。大半はどこかへ離散してしもうたがの。人の世へ出て、成敗されたのもおった」

 鬼たちはいきなり故郷をけがされ、追われたというわけか。

 鬼司はこの歴史を知っているのだろうか?

 ナミは三途の川の存在を知っていたようだが……。


 老人はぼりぼりと尻を掻いた。

「鬼どもには言うなよ? また面倒なことになるからのぅ。そうでなくとも、いまや例のカルトが鬼を警戒しとる。火薬庫で火遊びはせぬことじゃ」

 なんだか黄泉国と鬼たちとの、人種間の闘争が始まりそうにも思える。

 彼らはもっと超越的な存在かと思っていたが、やってることは俺たちと大差がないようだ。


 きっと言わないほうがいい。

 無用な憎しみを生むだけだ。


 *


 食事と風呂を供され、俺たちは寝た。


 そして朝。

「おはようございます。担当官がお会いになると仰せです。ご支度ください」

 無遠慮に役人が乗り込んできた。

 いきなり叩き起こしておいてこれだ。


 佐藤みずきも「なんなのよもう」とご立腹。

 寒屋などは足を開き、ブッと屁で返事をする始末。

 地獄にふさわしい光景だ。


 俺には血まみれのスーツしかないが、まあ仕方がない。

 なんとか体裁を整え、俺たちは役所へ向かった。

 あの高い塔だ。


 *


 高すぎて、見上げていると首がもげそうになった。

 これを税金で建てたというのだから、老人が皮肉を言うのもムリはなかろう。


 中では眠たげなメガネの女性が待っていた。

「わたくしは書司ふみのつかさをしております、月子と申します」

「冬木です」

「存じ上げております。さ、こちらへ」


 中には木製のエレベーターまであった。

 役人たちはせわしなく廊下を行き来していた。


 本だらけの狭い部屋へ通された。

 椅子がある。

 みんな土足のまま生活しているらしい。

 忙しいようだから、いちいち靴を脱いだり履いたりしたくないのかもしれない。


「ええと、書状でしたね。お預かりします」

 月子に催促され、俺は内ポケットから書状を取り出した。血まみれになってもいいよう、ビニールで包んである。生活の知恵だ。

 彼女は書を開くと、「ふむふむ」とうなずいた。

「間違いありませんね。たしかに受け取りました。過去の起請文と照合し、問題ないようでしたら、正式に承認をくだします」

「結果はいつ知ることができます?」

「早ければ数日以内に。しかしお待ちいただかなくても結構ですよ。こちらから追って特使を派遣します」


 役目は終わった。

 あとは生きて帰るだけ。


 俺は頭をさげた。

「では、よろしくお願いします」

「ご苦労さまでした」

 話を聞く限り、無盡原の統治者といっても、たぶんここの役人と同等の権力しか有していないのだろう。一国一城の主ではない。


 *


 俺たちはすぐに都を出た。

 滞在する理由もなかった。


 じつは今回の話は、たま子が水面下で進めていたらしい。しかし最終決定のためには、どうしても正式な文書が必要だった。

 なので黄泉国に入国できる俺が、文書を運ぶ必要があったのだ。

 不便だが、インフラの整っていないここでは仕方がない。仮にインフラが整っていても、紙の文書を必要とする国だってあるくらいだ。たとえばここの真上に。


 だが、帰路も問題が発生した。

「助けて! 人間! 助けて!」

 牛車で移動していると、いきなり金切り声が聞こえてきた。


 ナミだ。

 なぜか兵士に連行されている。

「先導師! 止めてください!」

「よし、止まれ」

 提案通り、彼は車を止めてくれた。


 俺は屋形を飛び出し、ナミのもとへ駆け寄った。

「ちょっと待ってくれ! なにが起きたんだ!?」


 しかし彼らは、問答無用とばかりに槍を構えた。

「なんだ貴様!」

「人の世のものか! ええい、寄るな!」


「なぜその子を連れていく? 彼女は俺の護衛だぞ!」

「この鬼は罪を犯した。法に従い、都へ連行する」

「罪状は?」

「呪術を使い、悪意を呼び込んだ罪だ。ウソだと思うならこの先へ行ってみよ。どこもかしこも血の海と化しておるぞ」

 そんな……。

 悪意は、俺たちを追ってここまで来たということか。


 いったいどうすれば……。


(続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ