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The World Savers  作者: 不覚たん
散種編

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25/32

友達

 数日後、招集。

 戦いが終わったのに、俺たちはまた戦いの準備をしている。


 大広間には、関係者が勢ぞろいしていた。

 まずは遠征チーム。俺、高橋真理、パンドロ、そしてなぜか佐藤みずき。

 見送るのは鬼司とたま子。

 ナミとは無盡原で落ち合う予定だ。


「送り出す前に、ひとつだけ言っておくことがある」

 たま子は偉そうに司令官のような態度をとっていた。

 人生訓でもタレるつもりだろうか。

 俺たちが黙っていると、彼女はこう続けた。

「人間や。それと鬼司もじゃ。夜中にえっちするとき、なぜわしの用意したコスプレ衣装を使わんのじゃ! あれ用意するの大変じゃったと言ったよな?」

 いい加減にしろよコケシ。

 反論したのは鬼司だ。

「たま子さま、空気をお読みください。さもなくば鍋の具にいたします」

「お、脅すのか?」

「あとで時間を作りますので、そのときにでも」

「まあよい。じゃが、その日を心待ちにしておる女がここにひとりいることを、決して忘れんようにな。わしゃそれだけが生き甲斐なのじゃから」


 *


 クソみたいな話を聞かされ、俺たちは無盡原へ出た。

 血の池まではだいぶ遠いが、さっと見渡した感じでは、悪意の姿は見当たらないようだった。ゴーストもいない。荒涼としてはいるものの、じつにのどかなものだった。

 目指すは黄泉国。

 日の沈むほうへ。


「冬木さん、コスプレでヤってんの?」

 歩いている途中、佐藤みずきが背後から近づいてきた。

 気配がなさすぎて、いつも心臓が止まりそうになる。

「ヤってない」

「おめでたいわね。こっちは毎日死ぬことばかり考えてるってのに」

「その話か。いいぜ。俺も聞きたいと思ってたところだ」

 すると彼女は肩をすくめた。

「なに? 興味もってくれたの? いまさら? なんか変わったんじゃない? あなた、他人のことなんてどうでもいいんじゃなかったの?」

 そうだ。

 彼女の指摘は正しい。

 だが、完璧じゃない。

「俺もそう思ってたよ。いや、思い込もうとしてた。けど、違ったんだ。俺は他人を遠ざけて、あえて興味をもたないようにしてた。関わるのが怖かったからな」

「そうやって死ぬまで怯えていればよかったのに」

「同感だ。けど、一連の戦いを通して、俺は目の前の人間を助けたいと思うようになった」

「エゴイストね」

 この遠慮のない反論も、すでになつかしい。


「佐藤さん、俺は君に死んで欲しくない」

 俺がそう告げると、彼女は不審そうに目を細めた。それから、黒刀をぐっと突き刺してきた。

「本気じゃないクセに、人の命を左右するようなこと言わないで欲しいわ」

「本気だよ」

「簡単に言うわね。じゃあ、どれくらい人生賭けられるの? あなたが持ってるもの、すべて捨てる覚悟はある?」

「それは……」

 なぜそこまで要求されるのだ。


 いや、いい。

 彼女はそれくらい本気ということだ。

 俺の口にした「本気」がお遊戯に思えるくらいの。


 だから俺は、この期に及んでまだ理解していなかったのだ。

 人の考えを変えるということが、どれほど重労働なのかを。


「悪かった。軽々しく『本気』なんて言ったことは謝るよ」

「謝らなくていいから、その代わり、二度と話題に出さないで」

「それは断る」

「ウザいわね」

「せめて理由を教えてくれないか?」

 すると彼女は、また刀で俺の胴をぐりぐり掻きまわした。

「それが軽々しいっていうの。私はね、べつにあなたの気を惹くために死ぬのどうのって言ってるわけじゃないの。最初から計画してたんだから」

「教えてくれないのか?」

「ま、いいわ。後悔するようなことでもないし」

 ここでようやく、彼女は刀を抜いてくれた。


 彼女の話はこうだ。

 高校時代、いじめがあった。

 しかし最初のターゲットは長谷川さんではなく、じつは佐藤みずきであった。

 長谷川さんは、それを助けようとして、次のターゲットにされただけ。


 いじめはエスカレートしていった。

 佐藤みずきは、自分が助かりたい一心で、長谷川さんへの攻撃に加わることもあったという。


 卒業後、長谷川さんの訃報が届いた。

 ずっと引きずっていた佐藤みずきは、いじめていた連中を殺害し、それから自分も死のうと考えた。

 それで俺に殺害を依頼をした。


 俺が依頼を断ったあと、彼女は悪意との取引に賭けた。

 きっと命を奪ってくれるはずだと信じた。

 なのに、ヤツは復讐のターゲットから佐藤みずきを除外した。


 望みは絶たれた。

 自分の手でやるしかない。


 そして気づいたのだ。

 無盡原で強敵に挑めば、死ぬことができるのではないかと。


「学校ってなんなの? いじめで人を殺しても無罪なの? バカみたいじゃない?」

 彼女の口調に興奮はなかった。

 もう悩む段階を終え、すべてを諦めている様子だ。

「教えてくれてありがとう」

「礼を言われる筋合いはない。知ろうが知るまいが、あなたにはなにもできないんだから」

 果たしてどうかな。

 俺はつい反論してしまった。

「知ってると思うが、命の玉が二つある。もし君が死んだら、それを使う」

「は?」

「言っただろ。死んで欲しくないって」

「ホントに口だけは達者ね。じゃあ私を救ってみせてよ。まずは主犯の連中を殺して、それから私を救ってみせて」


 おそらく俺が神のごとき力を有していない限り、それはムリだ。

 そして神は、そんなことをしない。


「たぶん、救うことはできない」

「なら黙ってて」

「けど、死んで欲しくない」

「黙ってて。誰にもどうにもできない問題なんだから」

 そう。

 エゴだ。

 俺自身はなにも投げ出さず、彼女を救うことさえできないのに、生きろと言っている。これじゃ駄々っ子と同じだ。

 けれども、エゴだけに、道理やロジックを超えた発言が口をついて出てしまう。

「佐藤さん、俺と友達になってくれ」

「……」

「俺も、この世界はクソだと思う。だから話は合うと思うんだ」

「勝手なこと言ってるわね」

「そうだ。勝手だ。けど、友達に死んで欲しくない。いつでも屋敷に来てくれ。そこで酒でも飲みながら、いろいろ話そう」

「交通費かかるんだけど?」

「出すから」

 俺は本当にどうかしている。

 他人を救いたいと思ってる。

 知らないヤツがどうなろうと知ったことじゃない。だけど彼女は目の前にいて、一緒の時間を過ごしてきた。死なれたら哀しい。


 佐藤みずきは舌打ちした。

「なんなのよ。めんどくさいわね。分かった。いいわ。友達になるかどうかはともかく、食事くらいは付き合ってあげる。死ぬのも先送りにするわ」

「ホントに?」

「ええ。あなたがあまりにもウザいから、仕方なくよ。ただ、勘違いしないで。気が向いたらいつでも死ぬから」

「そうならないよう努力するよ」

「努力するのは私のほうでしょ……」


 最初に出会ったのは二十年以上も前。

 しかも、一緒だったのは数年だけ。

 ずっと他人だった。

 それがいま、ようやく打ち解けた気がした。

 これがスタート地点だ。


 ふと、パンドロが近づいてきた。

「感動の和解のところ悪いんだけどね、なぁんかイヤな気配するんだよね」

 高橋真理も鋭い眼光を向けている。

「悪意だよ。どこかに潜んでる。気を付けてね。せっかく生きることを選択したのに、死なれたら元も子もないから」


 そうだ。

 咎人と違い、俺と佐藤みずきはただの人間なのだ。

 怪物の攻撃を食らえばあっさり死ぬ。


 鉄――。

 いや、血のにおいがした。


 少し先の地面から、みるみる血液が湧き出してきたのだ。

 ちょっとした血だまりは、すぐに池のようになり、数メートルの範囲にまで広がった。かと思うと、まるで沸騰するようにゴボゴボと空気が湧きだしてきた。


 周囲の木々は花を咲かせている。


 悪意の野郎、あれから何日も経ったってのに、まだ俺たちを探し回っていたらしい。

 執念深いことだ。


 俺も刀を構えた。

 せっかくスーツを新調したのに、また血まみれにしてしまいそうだ。


 ザバーンと血の波を蹴立て、赤黒い泥人形が飛び出してきた。

 悪意だ。

 だが、高橋真理が横から拳を叩き込み、いきなり頭部を破裂させた。パンドロはスライディングしながら四肢を切断。二秒と経たず敵を無力化した。

 泥の塊は、その形状を維持するのがやっとのように地に伏してしまった。

 だが、死んだわけではない。回復すればいつでも動き出す。


「あがッ」

 足に激痛が来た。

 赤子の頭部が噛みついてきたのだ。いつの間にか木から生まれ落ちていたらしい。

 俺は二度ほど拳を叩き込み、床に落ちたそいつを靴で踏みつぶした。トマトを叩きつぶしたような、不快なシミができた。


 佐藤みずきは黒刀で淡々と処理している。

 あまり数は多くない。


 だが、敵の攻撃はこれだけではなかった。

 次から次へ、地面から血液が湧き出し始めたのだ。


 悪意は、一体だけではないのかもしれない。

 そもそもが死体の寄せ集めだ。何体にでもなれるのかもしれない。


 パンドロが肩をすくめた。

「マズい流れだねぇ。ここは僕たちに任せて、君たちは先へ行ったほうがいいんじゃないかな?」

 だが、高橋真理は首を横に振った。

「ダメだよ。きっと分かれたところを襲われる」


 すると、ザンと地面からマンションが生えてきた。

 これも悪意の罠か?


 ジングルが鳴り、アナウンスが響いた。

『人間たち、聞きなさい! このナミさまが手を貸してあげるわ! 早くそのマンションに入って!』

 頼もしい味方が増えた。

 昨日の敵は今日の友、とはよく言ったもんだ。


「行こう」

 槍は振ってこないようだが、俺たちは駆け出した。


 マンションの入口には、巫女装束のナミが立っていた。棒に紙のついた御幣まで手にしている。

「ようこそあたしのマンションへ!」

「どんな作戦だ?」

「簡単よ。悪意の核だけを叩くの。そしたらおとなしくなるわ。あんなの全部と戦ってたら、日が暮れちゃうでしょ?」

「核? てことは、これは誰かのトラウマなのか?」

 まるで他人事のように言ったが、この建物はうっすら記憶にある。

 気のせいでなければ。


 ナミは胸を張った。

「忘れたの? あんたらが子供のころに住んでたマンションでしょ?」

「……」

 そういうパターンもあるのか。


 マンションの周囲には、たくさんの血の池ができていた。

 その水面から、悪意どもは頭だけ出してこちらをうかがっている。

 こいつらは文字通り泥人形であり、核さえ叩けば活動を止められるというわけだ。


 だが問題は、俺はこのマンションにトラウマなどないということ。

 あるとすれば……。


 佐藤みずきが溜め息をついた。

「じゃ、案内するわね」

 当然こうなる。


 せっかく友達になろうとしてたのに、その相手がトラウマの対象とはな……。


(続く)

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