3 戦いは止められない
しかし、その間に体と口を割りこませたのは令太で、
令太は伴兆太郎の敵意に満ちた視線を真っ向から跳ね返すようにこう言った。
「襲おうとしたってのはテメェの勝手な勘違いだ。
俺達はたまたま足がもつれて転んだだけだよ。
それよりテメェはどこのどいつだ?
蓋垣にテメェみたいなガラの悪そうな知り合いが居るとは思えねぇな」
それに対して伴兆太郎は、令太に頭突きでも喰らわせそうな勢いで、
ズイッと一歩前に進み出て言い返す。
「俺はエシオニア学園男子部、一年虎組の伴兆太郎だ。
そこに居る蓋垣は友達、と、言うより、俺の新たな人生観を開いてくれた恩人だ。
そういう貴様は蓋垣の何なんだ?」
「俺はエシオニア学園女子部、一年菫組の凄木令奈。
蓋垣とはただのクラスメイトだよ」
「ただのクラスメイトがこんなひと気のない場所に、
蓋垣を連れ込んで押し倒してたって言うのか?」
「だからそれはテメェの勘違いだっつってんだろ!
見た目通りに頭が悪いのかテメェは!」
「さっきから聞いてると、貴様は女とは思えない程に下品な言葉を使う奴だな。
俺は女には手を上げない主義だが、貴様のような下劣な奴は、
例え女でもブン殴ってやりたくなる」
「おお上等だ!俺もテメェを見てるとムカッ腹が立ってしょうがねぇ!
そのふざけたアホ面に一発ブチ込んでやりたくなったぜ!」
「ちょ、ちょっと待って!とにかく二人とも、一旦落ち着こうよ!」
もはや試合開始のゴングが今にも鳴ろうとした時、
紳士クンがそう言って慌てて間に割って入る。
が、もはや目の前の相手をブン殴る事しか頭にない凄木令奈と伴兆太郎は、
紳士クンを脇に押しやりながら言った。
「止めんな蓋垣。こんなガラの悪い輩に付きまとわれたらお前も迷惑だろ?
もう二度と近づこうなんて思わねぇよう、ここでブチのめしてやるよ」
「それはこっちのセリフだ。
貴様のように女の身でありながら男のように下劣な欲望を抱く奴を、
蓋垣の傍に居させる訳にはいかねぇ。例え貴様が女だろうが関係ない。
蓋垣を守る為、貴様には少々痛い目に遭ってもらうぜ」
その二人の凄まじいまでの迫力に、紳士クンはそれ以上口を挟む事が出来ず、
ただただこの場に佇み、事の成り行きを見守る事しかできなくなっていた。
そんな中遂に、戦いの火ぶたが切られる。
二人はほぼ同時に動き出した。
令太は伴兆太郎の鼻っ柱目がけて右の拳を突き出し、
対する伴兆太郎は令太の首筋を狙って右の手刀を繰り出す!
それが互いの鼻っ柱と首筋に炸裂する刹那、紳士クンは思わず目をつむった。
そしてそれと同時に、
こつぅん!ぱぁん!
という、人に打撃を与えたにしては少々違和感のあるふたつの衝撃音が響いた。




