22 無邪気に迫る紳士クン
しかし。
そんな令太の想いなど露も知らない紳士クンは、全く屈託のない様子で、
少し小首をかしげながら令太にこう尋ねる。
「そりゃあ、何なの?」
「ぐっ・・・・・・」
紳士クンは人を思いやるという方面に関しては、
それは細やかな心遣いを発揮するのだが、
人の恋愛感情という方面にはとんと(・・・)疎く、
伴兆太郎くらいキッパリハッキリ迫られない事には、
相手が自分に恋愛感情を抱いている等とは、それこそ夢にも思わないのだ。
そんな紳士クンの無邪気な問いかけに、令太は露骨にたじろいだ。
そして、迷った。
(いっそ、この気持ちを全部ぶちまけちまうか?
そうすりゃこのモヤモヤはスッキリする。
だが、間違いなく俺は蓋垣に嫌われるだろう。
こんな格好をして女子校に通っているとはいえ、
俺とこいつは男同士なんだからな。
蓋垣はそっちの人間じゃねぇだろうし、もちろん俺だってそうだ。
なのに何で俺は蓋垣に対してこんな感情を持っちまったんだ!
自分でも分からねぇ!ああクソ!一体どうすりゃいいんだ!)
もうにっちもさっちも行かない気持ちに追い込まれた令太は、
両手に持っていた『アンの青春』を閉じ、
その立派な外装の背表紙で自分の額をガンガン叩き出した。
そしてそれを見てビックリした紳士クンは慌ててそれを止めに入った。




