11 令太の見解が正しい
そう、彼女はそこで紳士クンと見詰め合っている水落衣の姉にして、
目を見れば相手の過去の出来事を、
あらかた視通す事ができるという不思議な力を持つ、孔田野香子だった。
ちなみに香子は今令太の瞳を覗いた際に、
令太が実は男の身でありながら女装してこの学園に通っている事や、
どういう経緯で今この場に居るのか等、ザックリした過去は把握したようだ。
(より詳しく把握するには、それなりに時間をかけて覗かなければいけないらしい)
しかしそんな香子の力を知らない令太は、生徒会長の令の妹という立場上、
顔や名前を知られてしまっている程度にしか解釈しておらず、
まさか今の一瞬で自分の過去が覗かれたなどとは、夢にも思わないのだった。
とにかく、いきなり現れたこの怪しい三角帽をかぶった女子生徒と、
お近づきになろうなどとは全く思わない令太は、
香子の方に向き直り、極めて無愛想に口を開いた。
「占いとか興味ないから遠慮しときます。
それより、放課後には占いの館に居るはずのあなたが、
こんな所で何をやってるんです?」
それに対して香子は、令太の無愛想な態度に気を悪くする風でもなくこう返す。
「ええ、それはね、今あのベンチに座っている、
あなたのお友達である蓋垣乙子さんが、私の大事な大事な妹である水落衣を、
色目を使って誘惑している様を目の当たりにして、
このハンカチを噛みちぎらんばかりに腹を立てていたの」
「ああ、あそこに居るの、妹さんなんですね。そういや名字が一緒だな。
いや、でも、ここから見る限りじゃあ、
蓋垣があなたの妹さんを誘惑してるって言うより、
妹さんの方が熱い眼差しで、蓋垣に迫っているように見えるんですけど?」
「それはとんだ思い違いよ。
妹の水落衣は、それはそれは引っ込み思案で人見知りな、繊細で心の優しい子なの。
そこに乙子さんは巧みに付け込んで、
たちまち水落衣の心を自分の虜にしてしまったのよ。
私に対してはいつもツレナイ態度しか見せてくれない水落衣の心を!」
「そうですか?蓋垣はそんな狡い事をする奴じゃないですよ?
むしろただ単に、あなたが妹さんに避けられてるだけなんじゃないんですか?」
「そ、そんな訳ないでしょう⁉
私はこんなにも水落衣の事を愛しているのに、
どうして避けられなければならないの⁉
そんな理不尽がこの世にあっていいはずがないわ!」
(何かこの人、何となくうちの姉と通じるものを感じるな。
姉っていうのは、えてして弟や妹を支配したがるモンなのか?)
と、口には出さずに令太がシミジミ心の中で思っていると、
香子はコホンと咳払いをして気を取り直し、再び冷静な口調になってこう続けた。
「とにかく、今はベンチの様子を逐一漏らさず観察する事が最優先よ。
もし、乙子さんが私の愛する水落衣に何かいかがわしい行いをしようものなら、
即刻止めに入らなければいけないから!」
(そんな事が起きるとすれば、
蓋垣じゃなくてあなたの妹さんがやらかすと思いますけど)
とは口に出さず、とりあえず令太もベンチの方に向き直り、
紳士クンと水落衣の様子を見守る事にした。




