8 水落衣は少し不機嫌
そんな中水落衣は、紳士クンの『友達だよ』発言にピクリと反応し、
一層不機嫌な顔になって口を開いた。
「友達、と、言う割には、最近はとんと(・・・)私に構ってくれなくなりましたね。
放課後の練習にも付き合ってくれないし、もう私の事なんかどうでもいいんですね」
ここで言う水落衣の練習というのは、水落衣が他人の目を見た時に、
視えた未来を無意識に口走ってしまったり、
視たくない未来を視ないようにするというもので、
紳士クンの目を見詰める事で、
その力のさじ加減をコントロールできるようにする練習である。
ちなみに最近構ってくれないといってもここ二日ばかりの事なのだが、
そういう問題じゃありませんと言いたげな水落衣の態度を見て取った紳士クンは、
令太の前に歩み出て弁解を試みる。
「どうでもいい事なんかないよ。
ただ、水落衣さんは充分練習を積んだから、
もうその必要はないかなって思って・・・・・・」
「そんな事ありません。
確かに乙子さんが練習に付き合ってくれたおかげで、
ある程度は力のコントロールをする事ができるようにはなりましたけど、
ここで練習を辞めてしまったら、また元通りになってしまいます。
だけど、乙子さんはもう私の事なんかどうでもいいでしょうから、
そんな事になっても何ら関係ないでしょうけどね」
「そんな事言ってないじゃないか・・・・・・」
「言ってなくても、行動で示してもらわないと納得できません」
水落衣はそこまで言って、再びプイッとソッポを向いた。
それを見た紳士クンは「う~ん」とうなって困り果てた表情になり、
令太の方に振り向いて大層申し訳なさそうにこう切り出した。
「令奈さん、本当に申し訳ないんだけど、
水落衣さんの『練習』に少しばかり付き合ってあげたいから、
ちょっとだけ待ってくれない?お話はその後で聞くから」
両手を合わせて上目づかいにそう言われた令太は、
『今まで散々待たされてんだけどな!』
と言いたいのをグッと我慢し、少しばかりぶっきらぼうな口調になりながらもこう言った。
「好きにしろ!」




