5 令太と真子も打ち解けない
それに対して真子がぶっきらぼうにこう返す。
「この子が何か文句がありそうな目つきでこっちをジロジロ見てたから、
何かあるならハッキリ言えって言ってやったのよ」
「だから文句なんかねぇって言ってるだろうが。
言いがかりをつけて絡んで来たのはそっちだからな」
「何ですってぇっ⁉」
「ま、まぁまぁ、二人とも落ち着いて・・・・・・」
今にも取っ組み合いの喧嘩が始まりそうな二人の間に、紳士クンが割って入る。
そして無理矢理その場を取り繕うように、お互いを紹介し合う事にした。
「令奈さん、こちらの二人は一年女郎花組の人達で、
針須尚さんと、剛木真子さん。
それで、こちらは凄木令奈さん。生徒会長である凄木令お姉様の妹さんだよ」
「なるほど、針須家の御令嬢か。どうりで何処かで見た事があると思った。
とすると、こっちのうるさいのはそのコバンザメってところか」
「それは聞き捨てならないわね。
あんたこそ凄木会長の威光を笠に着てふんぞり返ってる金魚のフンって所でしょ?
周りの人間はそれでチヤホヤしてくれるかもしれないけど、
私は違うからよく覚えておく事ね」
令太の茶化すようなもの言いに、噛みつくように言い返す真子。
二人は睨みあい、そこから火花がほとばしり、
紳士クンは本当に火傷しそうな錯覚を覚えた。
そしてともかくそれを何とか鎮めようと、
紳士クンが間に入って真子に教科書を差し出す。
「はいこれ、古文の教科書。
もうそろそろ休み時間も終わりそうだし、教室に戻った方がいいんじゃない?」
「そうよ真子、これ以上乙子さんにご迷惑をおかけしてはいけないわ」
紳士クンと尚に促され、真子は
「フン、わかったわよ」とぶっきらぼうに言い、
古文の教科書を受け取ってそのまま尚と共に教室を後にした。
「あはは、真子さんは、初対面の人には少しばかり当たりが強いんだけど、
根は凄く良い人なんだよ?」
尚と真子が教室を出て行ったのを見送った紳士クンは、
令太の方に向き直り、弱々しい笑顔を浮かべて声を漏らす。
それに対して令太は、怒りが治まらない様子で言った。
「根はいい人だろうが、俺には関係ねぇよ」
教室はシンと静まりかえり、緊迫した空気がその場を覆い尽くす。
そんな中四時間目の授業の始まりを知らせる鐘の音が鳴り響き、
令太は両の拳を握りしめ、こう思った。
(また、話を切り出せなかったじゃねぇか!)
真子に対する怒りよりも、令太にとってはそっちの怒りの方が大きいのであった。




