2 お嬢様とメイドの登場
「乙子さんは、いらっしゃいますか?」
という、オペラのソプラノ歌手のような美しくてよく通る声が響き渡り、
それと同時に教室の引き戸が優雅に開け放たれ、そこに一人の女子生徒が現れた。
亜麻色でサテンのようになめらかな髪を腰の辺りまで伸ばし、
それを中世の王室のお姫様のごとく縦巻きにした、
宝塚歌劇の舞台に出ても何ら違和感のない雰囲気をまとったその女子生徒は、
一年女郎花組の針須尚だった。
そしてその傍らには、背がスラッと高くてナイスバディーな尚より、
あらゆる意味で小柄な黒髪ボブヘアーの女子生徒が一人。
同じ一年女郎花組に所属し、
実は尚の屋敷でメイドとして働いている剛木真子である。
その二人に気付いた紳士クンは、親しみを込めた笑みを浮かべて声をかける。
「尚さんに真子さん、こんにちは。
この前は楽しいお茶会に呼んでいただいて、ありがとうございます」
それに対して尚は、背後に薔薇が咲き乱れるような優美な笑顔を浮かべてこう返す。
「こちらこそ、楽しい時間を過ごさせていただいてありがとうございます。
よろしければまた静香お姉様と一緒に、遊びに来て下さいましね?
何なら明日もいらっしゃいませんか?
いいえ、明日だけとは言わず、毎週日曜日は一緒に過ごしたいものですわ!」
尚はそう言いながら、本人も意識しないうちにズズイッと紳士クンに差し迫る。
その拍子にお互いの鼻頭と胸元がくっつきそうになった紳士クンは、
目一杯上半身を後ろにのけぞらせ、
両手で尚をなだめるようなジェスチャーをして言葉を返す。
「お、お誘いは嬉しいんですが、明日はちょっと、予定がありまして。
また、静香お姉様と予定が合う日曜日に、
尚さんのお屋敷にお邪魔させていただきますね」
「そう、ですの。それは残念ですわ・・・・・・」
紳士クンの言葉を聞いた尚は心底残念そうにそう言いながら、
紳士クンから身を離す。
それを見た紳士クンは色んな意味でホッとして、上半身を起こした。
とそこに、尚の後ろに控えていた真子が歩み出て口を挟む。




