26 絶対怒ってる
その後ろ姿を眺めながら、
まるで今まで呼吸をするのを忘れていたかのように紳士クンは
「ばはぁっ!」
と息を吐き出し、すぐさま大きく息を吸い込んだ。
(令お姉様と居ると、太刀お姉様とはまた違う意味で緊張するなぁ・・・・・・)
そう思いながらゆっくりと呼吸を整えていると、
「おいっ!」
と令太に背後から声を叩きつけられ、
紳士クンは背中を弓なりにのけ反らせながら
「は、はひぃっ」
と再び裏返った声を上げる。
そして振り返って見ると、令太が大層怒った表情をしているので、
「ど、どうしたの?令奈、さん」
と恐る恐る尋ねると、令太はその表情に違わぬ怒った声色で、
紳士クンに詰め寄りながら声を荒げた。
「何顔を赤くしてんだよ⁉
あんな魔女みたいな女に抱きつかれてデレデレしてんじゃねぇよ!」
「で、デレデレなんか、してないよ!
だけど、令お姉様みたいな綺麗な女性に抱きつかれたら、誰だってこうなるでしょ⁉」
「俺はならねぇよ!」
「そ、そりゃあ、令奈さんは令お姉様のおと・・・・・・妹だから」
「とにかく!お前に隙があるからそうやって背後から抱きつかれたりするんだよ!
これからはもっと気をつけろよな!」
「で、でも、令お姉様はいつも気配を消して、いきなり抱きついてくるんだよ・・・・・・」
「言い訳なんか聞きたくねぇよ!とにかく気をつけろ!」
「そ、そんなに怒らなくてもいいじゃないか・・・・・・」
「怒ってねぇよ!」
と、令太は怒った顔と口調でそう言い放ち、スタスタと教室へ戻るべく歩き出す。
その後を紳士クンが
「絶対怒ってる・・・・・・」
とポツリと呟いてついて行く。
(口では令お姉様の事を魔女だなんて言うけど、
令お姉様が他の人と仲良くしているのを見ると、
やっぱり面白くないんじゃないかな・・・・・・)
紳士クンは令太のプンスコ怒った後ろ姿を眺めながらそんな事を考えたが、
それは全くの見当違いで、紳士クンの方が、他の人間とベタベタしたり、
その事によって顔を赤らめたりする事が、
令太にとってはどうにも腹が立ってしょうがないのだった。
それは令太が今まで生きてきた中で初めて味わう気持ちで、
令太自身、その気持ちに名前を付ける事が出来なかった。
そんな中廊下には、三時間目の授業の始まりを告げる鐘が鳴り響き、
結局ここでも令太は、
本題の話を紳士クンに切り出す事ができないのであった・・・・・・。




