25 令の支配力
すると令は特に気を悪くした様子も無く、右手をさすりながら令太に声をかける。
「これからがいいところだったのに」
「何がいいところだ!所構わず蓋垣に変な事をするんじゃねぇ!」
怒りに満ちた声を上げる令太に対し、
しかし令は一層妖しくその瞳を光らせながらこう返す。
「中学の頃まではあんなに従順で可憐な女の子だったのに、
この学園に来てからすっかり男らしい事を言うようになったのね。
一体誰の影響かしら?」
「だっ、誰の影響でも、ねぇよ・・・・・・」
令太は力の限り声を振り絞ってそう言ったつもりだが、
その言葉尻が消え入るようにすぼんでしまい、それを見逃さなかった令は、
「ふぅ~ん、そうなのね」
と呟き、令太の顔を覗き込み、そのまま凝視する。
それは時間にして三十秒あるかないかの時間だったが、令太にとっては、
将棋のタイトル戦における長考の末の一手の如く長く感じられた。
そしてそれを背後で見守っていた紳士クンは、
令の視線で令太が蒸発してしまうのではないかと本気で心配し、
改めて、令の支配者としての存在感を、まざまざと思い知ったのであった。
そんな中令は
「ま、いいわ」
と言ってその妖艶な視線からようやく令太を解放し、
一転して母性に満ちた優しい笑みを浮かべ、紳士クンに声をかける。
「乙子ちゃん、どうかこれからも、令奈ちゃんと仲良くしてあげてね。
もちろん私とも、ね」
「は、はひぃっ」
裏返った声で何とか返事をした紳士クンの脇を、
ブロンドの髪を優雅になびかせながらすり抜け、
女王然としたオーラを放ち、令は去って行った。




