24 ハデスの登場
その状況を察した令太が鬼のような形相で後ろに振り返ると、
案の定そこで、令太の姉である凄木令が、
自分よりも頭半分ほど小柄な紳士クンを、背後から抱きすくめていた。
今日もまばゆいばかりのブロンドの髪を腰の辺りまで伸ばし、
欲望に煌めく青い瞳を、紳士クンに注いでいる。
その姿はさながら愛と美の女神のようであったが、
自分の人生を生まれた時から狂わされた令太にとって、それは突如地底から現れ、
ペルセポネをさらった地獄の王であるハデスにしか見えなかった。
それだけでも令太は怒り心頭だったが、
おまけにその令が紳士クンにあんなにもベッタリと抱きついて、
そのせいで紳士クンが顔を溶鉱炉で熱された鉄のように真っ赤っかにしている事が、
令太の怒りにより一層の拍車をかけた。
それが原因で却って令太が声を出せないで居る中、
紳士クンが恥ずかしさのあまりにその体もろとも溶けて消え入りそうな声で令に訴える。
「れ、令お姉、様っ。ち、近い、です。
どうか、お離れになって、くださいっ」
それに対して令は、離れるどころか更に両手を絡ませて紳士クンに密着し、
その赤く熟した苺のような色の耳に、艶めかしい吐息を吹きかけるように囁いた。
「だ~めっ。今、乙子ちゃん成分を取り込んでいるんだから。
ところで、さっきの『わぁあっ』っていう悲鳴はいただけないわね。
それじゃあまるで男の子みたいだもの。
この学園に通う貞淑な女の子なら、
もっと恥じらいに満ちた慎ましい悲鳴が相応しいわ」
そう言って令がその豹の尻尾のような細くしなやかな右手の人差指で、
紳士クンのほてった頬を撫で上げると、
紳士クンは
「ひぅっ」
という子犬のような声を漏らし、それを聞いた令は
「いいわ、その感じよ」
と、大層満足げに呟いた。
そしてその指をそのまま紳士クンの首筋に這わせていこうとした所で、
「いい加減にしろ!」
と叫んで令太が振り払い、紳士クンの右手を掴んで令から引き離した。




