22 令太と希里は打ち解けない
自分の話を遮られた事と、希里の中に、
そう簡単に他人を受け入れない自分と似たような心の壁を瞬時に感じ取った令太は、
下手な愛想笑い等は浮かべず、かといって露骨な敵意も表わさず、
ただ無言で希里の佇まいを眺めた。
それに対して希里も令太に対して相容れない雰囲気を感じ取ったのか、
一瞬間だけドライアイスのように冷たい視線でチラリと令太を一瞥したが、
すぐにいつものいたずらっぽい笑顔を浮かべて紳士クンの方に視線を戻した。
その一瞬の二人のやりとりを何となく察した紳士クンは、
下手にこの二人を紹介し合わない方がいいのかなと判断し、
希里に親しみを込めた笑みを浮かべて声をかける。
「こんにちは、希里お姉様。お姉様も資料を取りに来たんですか?」
「まあね。あなたのこわぁいお姉様に言いつけられたから、渋々やって来たのよ。
言う事聞かなきゃ、またゲンコツをお見舞いされそうだしね」
そう言って右手で頭のてっぺんを撫でさする希里。
そこはこの前、撫子によって重くて固いゲンコツをお見舞いされた部分であった。
(第四巻第五話参照)
それを見た紳士クンは苦笑いを浮かべながら尋ねる。
「あはは、でも流石にお姉ちゃんも、あの時の事はもう怒ってないんじゃないですか?」
「とんでもない!あの事があってからというもの、
私が少しでも撫子さんをからかおうものなら、
これ見よがしにゲンコツを振り上げて私を威嚇するのよ?
あぁ怖い怖い」
「そ、それは、希里お姉様がお姉ちゃんを、
からかわなければいい話なんじゃあ・・・・・・」
「それは無理よ。私が撫子さんをからかう事をやめたら、
この学園での楽しみがほとんどなくなるじゃないの。
前にも言ったけど、私は撫子さんの事が大好きなんだから」
「小学生の男の子が、好きな女の子をからかっていじめるみたいなものですか」
「その通り!」
「もう少し素直に仲良くすればいいのに・・・・・・」
「それは無理!何せ私はひねくれ者だからね!」
「自分で言いますか」
「言うわよ、あんたにはね。ま、そんな訳だから私はもう行くわ」
希里はそこまで言うと、
資料室の棚から世界地図のタペストリーと分厚い参考書を両の小脇に抱え、
軽い足取りで部屋を後にした。




