21 またもや妨害
そして迎えた二時間目後の休み時間。
今度こそは誰よりも早く紳士クンに声をかけようと意気込んでいた令太は、
授業終了の鐘が鳴ったと同時に席を立ち、紳士クンの元へ歩み寄った。
すると紳士クンもほぼ同時に席を立ち、スタスタと教室を出て行くではないか。
そんな紳士クンの背中に、令太は慌てて声をかける。
「お、おい、蓋垣、何処に行くんだよ?」
すると紳士クンは立ち止まって振り返り、にこやかな笑みを浮かべながらこう返す。
「資料室だよ。次の世界史で使う教材を取りに来て欲しいって、先生に頼まれてて」
「そっか、それなら俺も手伝うよ」
そして令太と紳士クンは、校舎の一階にある世界史の資料室に二人で向かった。
「お前、よく授業の教材やプリントなんかを運んでるよな。
そういうのはあの委員長がやるもんだと思ってたよ」
資料室へ向かう道すがら、いきなり本題に入るには心の準備が間に合わないので、
令太はまずさり気ない世間話から切り出した。
それに対して紳士クンは、この学園で唯一の同性の友達だから故に見せる、
親しみのこもった笑顔でこう返す。
「委員長さんは、クラスメイトの予習や宿題に付き合ってあげたり、
先生に他の用事を頼まれている事が多いからね。
こういう力仕事は、できるだけ男の僕が引き受けるようにしてるんだ」
『男』の部分は極力声を潜め、しかしひと際力を込めて紳士クンは言った。
そして右手を振り上げてグッと力こぶを作って見せるが、
その腕が他の女子と何ら変わりない程に細くてなよやかな事を、
令太はあえて突っ込まない事にした。
それはともかく、令太は
「なるほどねぇ」
と返し、資料室の中にたどり着いた所で、ここがチャンスとばかりに本題に入るべく、
「ところで、よ」
と言いかけたが、その時。
「あら、乙子じゃないの」
と、令太の声をかき消すように、紳士クンの背後から声をかけてきた人物が一人。
その声に立ち止まり、紳士クンと令太が振り返るとそこに、
夜空のような黒髪を肩まで伸ばし、トレードマークである大きな赤いリボンをつけた、
紳士クンよりも頭ひとつ小さな小柄な女子生徒が、資料室の入り口の所に立っていた。
撫子や迚摸静香と同じ二年藤組の日鳥希里である。




