20 紳士クンの妥協案
(あいつら、よくも毎回飽きもせずにあんなにいがみ合えるもんだな。
それなのにいつも一緒に居て、仲がいいんだか悪いんだかよくわからねぇな)
笑美と華子のやり取りを流し眼で眺めながら、呆れたため息をつく令太。
そんな中笑美と華子は、ズズイッと紳士クンに顔を寄せて詰め寄った。
「乙子ちゃん、今日はウチにお泊まりするやんな?な?」
「乙子さん、今日は私と一緒に隣町のアパートに行きますよね?ね?」
「えぇ?え~と・・・・・・」
二人の脅迫に近い物言いに、引きつった笑みを浮かべながらたじろぐ紳士クン。
ちなみに素知らぬ顔でソッポを向いている令太も、
心の中ではこの二人と同じように紳士クンに詰め寄っていた。
(どうするんだ蓋垣?まさかこの二人のどっちかと遊ぶのか?
俺との約束(した訳ではないのだが)は後回しなのか?そうなのか?)
そんな中紳士クンは、申し訳なさそうにこう言った。
「ご、ごめん、今日と明日はちょっと用事があって、どっちともお付き合いできないんだ」
「えぇ~そんなぁ~・・・・・・」
「私、乙子さんと一緒に探検に行きたかったのに・・・・・・」
紳士クンの言葉に、露骨にガッカリした声を漏らす笑美と華子。
ちなみにその用事が何なのか分からない令太は、
ホッとするような、モヤモヤするような、何とも複雑な気持ちに襲われていた。
一方、ガッカリした笑美と華子を励ますように、紳士クンはこう提案した。
「だから今夜は、笑美さんが華子さんと一緒に隣町のアパートに探検に行って、
その後華子さんが、笑美さんの家にお泊まりに行けばいいんじゃないかな?」
「えぇ~?ウチが華子のオカルト趣味に付き合うのぉ~?」
「私が華子さんの家にお泊まりするんですかぁ~?」
紳士クンの提案に、あからさまに嫌そうな顔をする笑美と華子。
そして笑美は頭をクシャクシャかきながらこう言った。
「しゃあないなぁ、
どうせ他に一緒に行ってくれるオカルト友達も居らんやろうから、
ウチが今日は特別に付き合うたるわ」
それに対して華子は口を尖がらせながらこう返す。
「フン、あなたこそどうせ他に泊まりに来てくれるお友達も居ないでしょうから、
私が特別に泊まりに行ってあげますよ」
(あいつら、結局仲がいいのか悪いのかよく分かんねぇな)
そんな笑美達のやり取りを、令太はそう思いながら横目で眺めていたが、
その時二時間目の始まりを告げる教会の鐘が鳴り響き、
結局この時間も、令太は一言も紳士クンと言葉を交わす事ができなかった。




