30 とりあえずこの場は乗り切る
「副会長と、何のお話をされていたんですか?」
太刀と少し距離が離れた所で、好子が走りながら紳士クンに尋ねる。
それに対して紳士クンは、苦笑いを浮かべながらこう返す。
「あはは、今回の遅刻を見逃す代わりに、
今度生徒会の仕事を手伝えって言われたんだ」
「まぁ、それなら私もお手伝いします。
私だけ無条件で見逃してもらうなんて不公平ですから」
「い、いや、大丈夫だよ!
委員長さんは日頃の行いのおかげで見逃してもらえたんだから、
何も不公平な事はないよ!」
「そう、ですか?
でも、もし何か私にお手伝いできる事があれば言ってくださいね?
今日は乙子さんに沢山手助けをしていただいたので、
今度は私が乙子さんの手助けをしたいんです!」
「う、うん、その時は、お願いするよ」
まさか命の危険にさらされるかもしれない事を好子に手伝ってもらう訳にも行かないので、
紳士クンは曖昧にほほ笑んでそう返す。
(でも好子さんなら、自分が命の危険にさらされるような事でも、
喜んで協力してくれるんだろうな)
今日の事で好子の人の良さを改めて実感した紳士クンは、
並んで走る好子の横顔をチラリと眺めながらそう思った。
一方の好子は、密かに憧れを抱いていた紳士クンと、
少しだけお近づきになれた事がとてつもなく嬉しくて、
溶けたアイスクリームのように表情が崩れてニヤついてしまいそうなのを、
必死に我慢しながら走っていた。
こうして紳士クンは、男らしい男への階段は一段も上れなかったが、
好子と少し仲良くなる事ができた。
そしてまた、エシオニア学園での女の子としての一日が始まるのであった。
(それにしても、命にかかわるような危険な手伝いって、一体何なんだろう?)
それはまた、後日明らかになる。




