28 太刀から見た紳士クンの日頃の行い
「な、何でしょうか太刀お姉様?僕達、急いで教室へ向かいたいのですが・・・・・・」
緊張に顔を引きつらせながら紳士クンがそう尋ねると、
太刀は不敵な笑みを浮かべてこう返す。
「何を勘違いしている?
日頃の行いに免じて遅刻の件を見逃したのは日都好子だけ(・・・・・・)で、
お前の事を見逃すとは言っていない」
「えぇっ⁉そ、そんなぁっ!」
太刀のあまりに非情な言葉に思わず泣きそうな声を漏らす紳士クン。
その紳士クンの肩にガバッと木刀を持った腕を回した太刀は、
まるでマフィアのボスが失態をやらかした部下に、
ヤキを入れるような調子で言葉を続けた。
「お前の日頃の行いは、決して誉められた物じゃあないだろう?
特に私に対する日頃の行いだ。
以前の特別授業の際、お前は私のメイドになれという誘いをにべもなく(・・・・・)断ったし、
(第二巻第一話参照)
その後もお前を鍛えてやろうと放課後の鍛錬に誘っているのに、
何かと理由を付けて帰って行くし、
あろう事か最近に至っては、
少しでも私の姿を見かけたらそそくさと逃げて行くではないか。
これで日頃の行いが良いなどとどうして言える?
そうだろう?」
そう言いながら太刀は、
木刀の峰の部分を紳士クンの青ざめたホッペにペシペシと当てる。
対して完全に図星を突かれた紳士クンは、
「あ、いえ、その・・・・・・」
と、滝のように冷や汗を垂らしながら、そう声をしぼり出すのが精一杯だった。
太刀に言われた通り紳士クンは、意識的にも無意識的にも太刀の事を避けていた。
入学式の時は紳士クンにひと際厳しい目を向けていた太刀だったが、
その後の女装男子生徒による盗撮事件の解決に紳士クンが大きく貢献した事をキッカケに、
太刀の紳士クンに対する態度は真反対に変わり、
自分の管轄下にある生徒会執行部の一員に紳士クンを加えようと考え、
その暁には彼(太刀にとっては彼女)を、
自分の右腕になるような強くてたくましい女性に鍛え上げようと計画しているのだ。
この手の人間は一度思い立てば善は急げの猪突猛進。
下手をすれば紳士クンとともに本気で山ごもりの特訓でもしかねない。
その事を肌で感じている紳士クンは、令とは違う意味で、
できるだけ太刀と距離を置こうと普段から細心の注意を払って行動していたのだ。




